ロレックスはル・マン 24時間レースの第100回大会を記念して、特別なデイトナを発表した。

つい数週間前にロレックスは、少なくともつい最近まではほとんどやっていなかったことをやった。ロレックスは通常の見本市の枠組みを超えてアニバーサリーウォッチを発表したのだ。このブランドは予想もつかない大胆さをもって我々を驚かせ、おそらく今年もっともホットな時計を発表した。

メタルで縁取られたベゼル、ダイヤルレイアウトの変更、新型ムーブメント)を取り入れたこのデイトナの最新モデルは、まさに…あらゆる意味で別格だ。

思い出してほしいのだが、ロレックスは過去にもアニバーサリーモデルを発表している。カーミット・サブマリーナー(ブラックダイヤルにグリーンのベゼルインサートを施したもの)やプラチナのデイトナだ。これらの時計と新作デイトナ “ル・マン”との違いは、それぞれが既知のデザインをベースに新たに表現されたものだということである。そしてそれはロレックスがオマージュを好まないからだ、と、私たちはそう思っていた。

この新型デイトナはロレックスが独自の方法で過去に回帰したデザインを採用している。ヴィンテージモデルのオマージュでも完全復刻でもない。過去をユニークな手法で振り返り、新しいリュクスを表現したデイトナなのだ。では、その過去とは何か? それは、ポール・ニューマンのスタイルと初代デイトナの美学をミックスしたもので、それ自体がル・マン 24時間レースにルーツを持つものだ。

デイトナ 24時間レースの起源
ル・マン 24時間レースは、地球上でもっとも歴史と権威のある耐久レースである。そしてロレックス デイトナはこの地球上で最も有名な機械式クロノグラフであり、その起源はル・マンに遡るが、別の24時間耐久レース(想像にお任せする)にちなんで名付けられた。
というのも、オリジナルのロレックス デイトナ Ref.6239は当初、デイトナとは呼ばれていなかった。また1963年に誕生したこのモデルのマーケティングと広告でも、この時計を“デイトナ”とは呼ばなかったのだ。その代わり、広告では “ル・マン”と呼ばれるクロノグラフについて言及している。
そう、ロレックス デイトナは誰がどう見ても、当初はロレックス ル・マンと呼ばれる予定だった。1960年代半ばにロレックスがデイトナ24時間レースのスポンサーになったおかげで、最終的にはデイトナがその名を冠するに至ったのである。
しかし、約60年前にその地位を確立したのはル・マンだった。だから6月に発表されたこの新しいデイトナはル・マン 24時間レースの100周年を祝うと同時に、ロレックスのコスモグラフがまさに同じ名前で呼ばれるようになってから60年という節目の時計でもあるのだ。
ロレックスのオマージュのバリエーション
はっきり言って、私たちはこのモデルをオマージュと呼ぶつもりはない。しかしこの新しいクロノグラフのデザインには、ロレックスの過去のモデルを指し示すイースターエッグ(隠れ仕様)が数多く隠されている。例えば、Ref.6239とRef.6263の両方の様式にしたがった初のリバースパンダ仕様(ブラックダイヤルにホワイトのインダイヤル)、Ref.6239 デイトナ “ル・マン”(Aクラスの俳優によって有名になった、赤いアクセントとユニークなタイポグラフィが特徴的なファンキーダイヤルの派生モデル)である。
デイトナに大金を払うのであれば、その対象は歴史的に重要なものであるべきだと私は考えている。

– ベン・クライマー HODINKEE創設者
ではノン・ニューマンのブラックダイヤルのデイトナと、ニューマンのブラックダイヤルのデイトナの違いとは何か? 実は違いは多い。伝統的なノン・ニューマンのデイトナは多くの点で初期のホイヤー カレラによく似ている。標準的なマットブラックダイヤルにホワイトのハッシュマーク、そしてハイコントラストなホワイトのインダイヤルに標準的な数字のプリント(インダイヤルのフラットな“4”のタイポグラフィを含む)である。そんなところだろうか。

ニューマンダイヤルは、より豊かな視覚的魅力とコントラストを持っている。ダイヤル外周のハッシュマークは、ホワイト地に鮮やかなレッドで描かれている。ダイヤル内側はフラットなブラックカラーだ。ホワイトのインダイヤルはニューマン以外のモデルと共通だが、ここで重要なのはその内側であり、標準的なものは何もない。まず端が四角いインナーマーカーと、シャープなエッジを持つまるでアール・デコ様式のユニークな数字のタイポグラフィである。これらの特徴を総称してエキゾチックダイヤルとして知られているが、それを見れば納得だ。
このニューマンダイヤルのデイトナは、当時特に人気があったわけではない。だがニューマンはデイトナのなかで最も認知度の高いモデルとなっている。これらの時計がオークションに出品されると高値で取引されるのが通例であり、現代の時計コレクション界隈においてもその人気は衰えていない。

ポール・ニューマンは時計界で最も重要な人物であり、彼の死後に時計界に与えた影響は計り知れない。ポンプ式プッシャーを備えたRed.6239 ニューマン・デイトナであれ、後期のRef.6263のねじ込み式プッシャーのデザインにせよ、彼自身が当時のロレックスで最も売れ行きの悪かったモデルのひとつをアイコニックな存在に格上げしたのである。それは影響力がなせる業だ。
 この2023年モデルはロレックスがル・マンとニューマンから少しずつヒントを得て、お祝いムードにふさわしい外観に仕立て上げたものだ。まず赤いアクセントが使われていることだが、これは普段目に付きやすい場所にあるわけではない(本モデルではベゼル)。またブラックセラミック製ベゼルは、旧モデルのブラックアクリル製ベゼルの質感を模倣したものである。

スタンダードなブラックダイヤルにホワイトのインダイヤルを組み合わせた意匠は初代Ref. 6239 デイトナ ル・マンを彷彿とさせる。インダイヤルのシンプルなタイポグラフィと全体的にシンプルなデザインは、現代のデイトナパッケージのなかでは限りなくその外観に近い。エキゾチックな雰囲気が感じられるのはプッシャー類の内側を見たときだ。内側のマーカーは、ヴィンテージ・ニューマンのダイヤルに見られるような四角い外観を持つ。そしてこのデザインキューを復活させることは、極端に言えばデイデイト “emoji(絵文字)”の登場と同じくらい意外なことであった。