スーパーコピー時計

唯一無二の時計、彫刻のようなデザイン、スイスで手作りされた時計が欲しいはずだ。

モンテカルロ、ビバリーヒルズ、ロンドン、パリ、ローマ、グシュタードの時間を同時に教えてくれる時計を。まあ、数十年遅れてしまったが、ゾディアックとローイングブレザーズは、まさにそんなシナリオにぴったりの時計をつくってくれた。

映画『大逆転(原題:Trading Places)』にてダン・エイクロイド(Dan Aykroyd)が嫌味なほど堅苦しく話していたロシュフコー(映画内で登場したブティックブランド)のような、ある種の薄さと彫刻のようなエレガンスはないが、ゾディアックとローイングブレザーズの新しいコラボレーションは、40mm径×13.6mm厚のステンレススティール製ケースとブルーベゼルを採用し、そこに映画で登場する重要な都市をすべて配した、新しいGMTワールドタイムウォッチだ。

内部には、ソプロード社製キャリバーをゾディアックがSTP7-20にアップグレードした、時・分・センターセコンド、日付表示を備えたコーラー(独立したGMT針)GMTを搭載する。ブラック文字盤にホワイトの24時間トラック、スーパールミノバ、文字盤にはローイングブレザーズのサインが入っており、5リンクのSSブレスレットが付いている。新しいゾディアックをつけて(ダン・エイクロイド演じる)ルイス・ウィンソープ3世のコスプレをしたければ、2195ドル(日本円で約31万9000円)かかる。彼が映画のなかで買った時計よりははるかに安いが、質屋で50ドルで買うよりかは高い。


我々の考え
恣意的であり知る人ぞ知る限定版ということで、これはこれでなかなかおもしろい。スーパーシーウルフGMTは、私のお気に入りの手頃なヴィンテージウォッチのひとつだが、ヴィンテージウォッチの堅牢性を心配していて、かつ新しくて信頼性が高くて楽しいものを求めているなら、ゾディアックとローイングブレザーズの新コラボ以上のものはないだろう。

実機を見たことがないので、新しいSTP7-20ムーブメントが使用中にどのような動きをするのかはわからない。自社製で(というよりゾディアックとSTPを所有するフォッシルグループとそのグループ内)、シリコンとアップグレードされたコンポーネントを追加することにより、強度の高いムーブメントを実現すると同時に、外部の業界プロバイダーに依存するサプライチェーンの問題を取り除くことができる。

それはそれでいいことだし、前モデルのスペックから少し価格が上がったことも正当化されるだろう。結局のところ、この時計は楽しさがすべてであり、私にとってはその条件を満たしている。さて、(映画のデューク兄弟のように)誰かジュースの先物取引をしたい人はいるだろうか?

基本情報
ブランド: ゾディアック×ローイングブレザー(Zodiac × Rowing Blazers)
モデル名: ワールドタイム GMT(World Time GMT)

直径: 40mm
厚さ: 13.6mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック
インデックス: アプライド、ワールドタイムベゼル
夜光: スーパールミノバ
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: 5リンクのSS製ブレスレット、NATOストラップ付属


ムーブメント情報
キャリバー: STP7-20
機能: 時・分・センターセコンド、日付表示、コーラーGMT(独立GMT針)
パワーリザーブ: 約40時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 26
クロノメーター: なし
追加情報: 1980年代のホットスポットの都市に入れ替えたローイングブレザーズのシグネチャーブルーのワールドタイムベゼル

価格 & 発売時期
価格: 2195ドル(日本円で約31万9000円)
発売時期: すぐに
限定: あり、世界限定282本

古い機械式時計の特徴は、ほかのものと一緒に販売されていたことだ。

世の中の販売には商品のほかに広告、付帯サービス、そして、フィルムをプリントしているあいだの待ち時間をつぶすキオスクのように、すでに廃れてしまったものの、さまざまな方法・サービスがあった。生き残っているブランドや製品は、多かれ少なかれ、また高価であろうとなかろうと、時計に対するウォルター・ミティ(自身を有能だと勘違いする)的アプローチとでも呼ぶべきものをサポートするためのサービスを提供していた。機械式時計には、実用的なニーズがないにもかかわらず、我々の“こうありたい”、“こう見られたい”というさまざまな空想を満たすために存在しているのだ。

クォーツ以前が黄金時代だったとは言わないが、1969年以前もそれと同じように、狡猾で、貪欲で、道徳に反する小売業者やいわくつきのブランドはたくさんあったが、平均的な時計所有者の実用的なニーズに対する確かな答えを、大した額にはならない程度の価格で提供することを意図した製品を大量に生産している会社もたくさん存在していた。そのような会社のひとつがシュパイデル(Speidel)社だった。1970年代にテレビを見ていた人は、同社のテレビコマーシャルを覚えているかもしれないが、彼らは有名人を宣伝マンとして起用し、刺激的で記憶に残るようなジングルを見つけるとよろこんで使っていた。そこにいるのは、フリッツ・ラング監督の『M』に登場する子どもを狙った連続殺人犯のハンス・ベッケルト役、あるいは『マルタの鷹(原題:The Maltese Falcon)』に登場するエレガントで反社会的なジョエル・カイロ役を務めたピーター・ローレだ。今、彼を時計ストラップの“破壊者”として見て欲しい。彼はツイスト・オー・フレックス(Twist-O-Flex)ブレスレットで勝負に出たのか? 詳しく見ていこう。

エクスパンションブレスレットはかつての時計製造の定番だった。オメガ 1039、そしてスピードマスターに初めて採用されたスティール製ブレスレットの7077と7912など、オメガ スピードマスターを手首につけておくための最初のソリューションのひとつがエクスパンションブレスレットだったのだ(イアン・フレミングはジェームズ・ボンドに、無名のメタルエクスパンションブレスレットを合わせたロレックスをつけさせたが、ジェームズ・ボンドがすべての決断を正当化してくれるのを待っていたら、我々は1日中ここにいることになる)。フルレングスのエクスパンションブレスレット(伸縮性のある部分はクラスプに近い数本のリンクにだけ採用している)ではないが、Twist-O-Flexブレスレットがそれに近いと思った。そのとき、実はシュパイデルがまだ運営しているのかどうか知らなかったことに気づいた。でも、彼らは営業していたのだ。

これはシュパイデル社製の230186WL エクスパンションブレスレットで、シュパイデルが1959年に提供を開始したTwist-O-Flexブレスレットに似ている。そのころには会社はかなり大きくなっていて、年間数百万ドルの売り上げがあったが、会社の創業はそれよりもっと前のことだった。フリードリッヒ・シュパイデルがドイツのプフォルツハイムで起業したのは、1867年のことである。その後、ロードアイランド州プロビデンスに拠点を移し、Twist-O-Flexだけでなくそのほかの多くのブレスレットや製品を製造し、一時はメンズフレグランスの製造にまで手を広げた(テキストロンの傘下に入っていた時期もあった)。

現在、同社は2009年に買収したチェルシーキャピタルコーポレーション(Cerce Capital LLC)が所有しており、現在もTwist-O-Flexブレスレットの製造と販売を続けている。オメガのブレスレットではないものの、スピードマスターにつけると非常にシャープに見え、1950年代のスピードマスターのデザインにもふさわしい。私の7インチ(約17.7cm)の手首に装着しているのだが、手を加えなくても本当に快適だし、バネ式のエンドピースが付いているため18mmから20mmのラグスペースへも装着できる。私はAmazonで12ドル弱(正確には11.95ドルという超低価格)で購入したのだが、今まで見たレトロウォッチオタクのキットのなかでは最高の部類に入る(編集注記:現在のAmazonでは約1万円、公式サイトだと30ドル前後で販売している)。

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タフで長持ちしそうだし、ぜひ試してみて欲しい(実際、チューダー ブラックベイにもう1本つけて様子を見てみるつもりだ)。これは単なるヒップスター(流行に従う人)の皮肉なウォッチアクセサリーではない。アメリカや時計製造の歴史に残る超クールなアイテムであり、12ドルという価格を出せば誰でもそれを自分の目で確かめることができるのだ。これは素晴らしい再発見であり(父はそれ以外のものにはほとんど時計をつけなかった)、時計アクセサリーとしては最高の価値提案である。

ロンジン コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブ

ヘリテージへのオマージュを大切にしつつも、現代的な感覚を取り入れてアップデート。その歴史にあぐらをかくことのない、進取果敢な今のロンジンらしい新作だ。

ロンジン初の名前を冠するコレクションとして誕生したコンクエストが、1954年にスイス・ベルンのFederal Intellectual Property Office(連邦知的財産庁)にその名が保護されてから今年で70周年を迎えた。これを記念して、歴代コレクションのなかでも特徴的なダイヤルデザインが異彩を放つロンジン コンクエスト パワーリザーブへのオマージュモデル、コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブが発表された。

ロンジン コンクエスト パワーリザーブ(1959年製)。

インスピレーションの源になったのは、1959年に登場したRef.9028のロンジン コンクエスト パワーリザーブだ。この時計はダイヤル中央にふたつの回転ディスクでパワーリザーブを表示するユニークなインジケーターシステムを採用するが、これはロンジンが開発したものであり、現在でも同ブランドでのみで使用される歴史的遺産である。

新作のコンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブのダイヤルは、バトン形のパワーリザーブインジケーターを配置した中央巻き戻しディスク、64から0までの数字とドットによる目盛りを設けた外周の巻上げディスク、そして一番外側の固定されたアウターダイヤルの3つで構成されている。

ユニークなのはパワーリザーブを表示する仕組みだ。リューズ、もしくは手首を動かして回転ローターで香箱車を巻き上げると、バトン形のパワーリザーブインジケーターを配置した中央ディスクはそのままの位置で固定され、外周の目盛りディスクが64を最大値として時計回りに回転する。そして通常時は外周の目盛りディスクの0に向かってバトン形のパワーリザーブインジケーターを持つ中央ディスクのみが時計回りに回転し、パワーリザーブ残量、つまり時計の残り駆動時間を表示する。64から0までの目盛りでパワーリザーブ残量を読み取るこの外周ディスクは、任意の場所でバトン形のインジケーターと合わせることができるが、その動きは動画を見るとより理解しやすいので、こちらもぜひご覧いただきたい。

本作は通常コレクションとして展開されるもので、下地のサーキュラー装飾が透けた絶妙な色合いのアンスラサイトをはじめ、上品で温かみのあるシャンパン、精悍なブラックの3色ダイヤルをラインナップする。

歴代コレクションにも見られ、アイコニックなモチーフでもある細いサークルが彫られたアウターダイアルには、12個の立体的なファセット加工のアプライドアワーマーカー、特徴的なスカイクレーパー(超高層ビルのような形状からこう呼ばれる)形の時・分針をセット。アンスラサイトダイヤルにはローズゴールドカラー、シャンパンダイヤルにはイエローゴールドカラー、ブラックダイヤルにはシルバーカラーのものをそれぞれ合わせて、12時位置には同じカラーリングで台形型の日付表示窓をレイアウトした。

既存のコンクエスト ヘリテージコレクション同様、ケースはサテン仕上げとポリッシュ仕上げを交互に施した38mm径のステンレススティール製だ。ヴィンテージ感を高めるボックス型サファイアクリスタル風防を合わせるが、両面に多層反射防止コーティングを施すことで視認性にも配慮。3モデルはすべて新しいSS製ピンバックル付きのアリゲーターストラップ仕様で、アンスラサイトダイヤルにはグレー、シャンパンダイヤルとブラックダイヤルにはブラックカラーとすることで時計全体の統一感を確保した。


 そんな小振りなケースに収まるのは、ロンジンの新たなエクスクルーシブ自動巻きキャリバーとなるL896.5。前述の伝統的でユニークなパワーリザーブインジケーターシステムに加えてシリコン製ひげゼンマイを持つこのムーブメントは、ISO764規格が定める耐磁性基準(4800A/mの磁気にさらされても日差±30秒以内を維持)を大きく上回る耐磁性を備えており、ねじ込み式のシースルーバック越しにその動きを見ることができる。


Photo by Yuki Matsumoto

 3モデルとも価格はすべて共通で59万5100円(税込)。すでに発売を開始しているが、これに合わせてコンクエスト 初代モデル(1955年製)や、コンクエスト パワーリザーブ(1959年製)をはじめとする貴重なアーカイブモデルを展示するフェアが銀座三越 新館4階 ウォッチと阪急うめだ本店 6階 インターナショナルブティックス ウォッチギャラリーにて期間限定で開催される。

 期間中は新作はもちろんのこと、銀座三越 新館4階 ウォッチではコンクエストやコンクエスト ヘリテージコレクションの多彩なモデルをラインナップ。阪急うめだ本店 6階 インターナショナルブティックスウォッチギャラリーでは、ヘリテージにルーツを持つベストセラーコレクションが揃うという。

銀座三越 新館4階 ウォッチ ロンジン フェア
期間:2024年1月31日(水)~2月20日(火) ※アーカイブモデルの展示は2月12日(月・祝)まで
場所:銀座三越 新館4階 ウォッチ

阪急うめだ本店 6階 ウォッチプロモーション ロンジン ヘリテージウォッチ フェア
期間:2024年月15日(木)~2月27日(火)
場所:阪急うめだ本店 6階 インターナショナルブティックス ウォッチギャラリー

ファースト・インプレッション
今回、オリジナルと新作を同時に見る機会が得られたので断言したい。新作は決して忠実な復刻を狙ったモデルではない。プレスリリースのなかで、“画期的モデルにオマージュを捧げ、デザインとテクノロジーを進化させたのが、この新作”と評しているが、まさにその通り。オリジナルに敬意を払いつつも、現在でき得る最善を盛り込んだ挑戦的なモデルだ。


Photo by Yuki Matsumoto

 まずはダイヤル。新作はオリジナルの特徴をよく捉えている。6時位置のコレクション名を表すフォントは、オリジナルにほぼ忠実で見事な再現度である。一方で、ボンベダイヤルのカーブは新作のほうがより強く、オリジナルではダイヤルに彫られた細いサークルを分断して埋め込まれるようにアプライドインデックスがセットされているのに対し、新作ではインデックスが溝の上をまたがり浮いているように見える。

 加えて、新作では彫られたサークルにも処理が施され、インデックスの立体感がより強調されている。時・分針、そして3・6・9時位置の一部にもスーパールミノバ®を塗布することで暗所でも見やすく視認性が高い。また新作ではオリジナルになかったハック機能と日付の早送り機能が実装されており、実用性が確実にアップデートされている。

 あえて難点を言えば、ラグ幅が19mm(オリジナルは18mm)とスタンダードな数字ではないこと、それと特別な工具なしに簡単にストラップ交換ができるイージークリックが付いていないところだろう。頻繁にストラップ交換をしたいという人は注意しておきたいポイントだ。


左が新作、右は元となったオリジナルだ。並べて見比べると違いがよくわかる。Photo by Yuki Matsumoto

 オリジナルのケース径が35mmであるのに対して、新作は38mmだ。ヴィンテージ好きからはオリジナルと同サイズにして欲しいという声が聞こえてきそうだが、筆者が新作でもっとも感心したのは、その優れたバランスである。確かに3mmほど径が大きくなっているため、手首に乗せると新作のほうが存在を主張する。パッと見のサイズ感はかなり大きくなったが、ラグ・トゥ・ラグは新作が約45mm、オリジナルは約43mmで、ケース厚は前者が約12.3mm、後者が約10mm(新作のケース厚のみ公式による。それ以外は筆者の計測値)。新作はラグを太く短くすることで、オリジナル全体のサイズ感から逸脱しないように配慮されている。

 また、どちらも手首に巻いてみたが、重量バランスがほぼ同じだったのも感心したところだ。これは筆者の私感だが、オリジナルはクローズドケースバックであるのに対して、新作では重いサファイアクリスタルのシースルーバックとすることで手首側の重量が増して時計の重心を下げ、フィット感を高めているように感じた。本作で採用されているシースルーバックは単にムーブメントを見せるというだけでなく、フィット感を高めるのにも効果的で意味のある仕様なのだと思う。


Photo by Masaharu Wada

 ちなみにシャンパンとブラックダイヤルは下地の仕上げが見えないマットな質感だが、これも針とインデックスの存在感を強調し、視認性を高めているようだ。なお、アンスラサイトダイヤルはオリジナルのような下地のサーキュラー装飾が感じられる質感を持つため、オリジナルの雰囲気が好みに近いならアンスラサイトダイヤルをおすすめしておく。

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基本情報
ブランド: ロンジン(Longines)
モデル名: コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブ(Conquest Heritage Central Power Reserve)
型番:L1.648.4.78.2(シャンパン)、L1.648.4.62.2(アンスラサイト)、L1.648.4.52.2(ブラック)

直径: 38mm
厚さ: 約12.3mm
ケース素材: SS
文字盤色: シャンパン(L1.648.4.78.2)、アンスラサイト(L1.648.4.62.2)、ブラック(L1.648.4.52.2)
インデックス: ファセット仕上げの12のアプライドインデックス(L1.648.4.78.2は2Nイエローゴールドカラー、L1.648.4.62.2は5Nローズゴールドカラー、L1.648.4.52.2はシルバーカラー)
夜光: 時・分針、3・6・9時位置にスーパールミノバ®
防水性能: 5気圧
ストラップ/ブレスレット: SS製バックル、L1.648.4.78.2とL1.648.4.52.2はブラックアリゲーター、L1.648.4.62.2はグレーアリゲーターストラップ

ムーブメント情報
キャリバー: L896.5(ロンジン エクスクルーシブ)
機能: 時・分表示、センターセコンド表示、12時位置に台形型の日付表示、ダイヤルセンターに2枚の回転ディスクによるパワーリザーブインジケーター
パワーリザーブ: 約72時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万5200振動/時
石数: 21
クロノメーター認定: なし
追加情報: シリコン製ひげゼンマイ採用

価格 & 発売時期
価格: 59万5100円(税込)

時計市場で注目すべき(予測ではない)4つのこと。

ご心配なく。これはまたそれと異なる予測記事ではないし、いかに小振りな時計が“流行”しているかについて話すつもりもない。2月中旬なんて予測の期限を過ぎているし、そもそも予測を立てること自体あまり好きではない。その代わりに、2024年がおよそ2カ月終わった今、すでに起こっていることと、そして今年中に見られるかもしれないほかのことについて話をしよう。

小振りな時計のトレンドは少し誇張されているように感じるが、ドレッシーなものや金無垢への関心が続いているのは事実かもしれない。スティールウォッチに対する純粋な関心、少なくとも、いいものへの純粋な関心はどこにも消えてはいない。あくまでも該当するのは投機的なものだ。

 その一方で、2024年に期待することについて尋ねると、 人々が口にしたのは“拡大していく”というワードだった。

 最近、GQ誌が数字を分析したところ、実際には時計のサイズは小さくなっていないと指摘した(そのように感じるかもしれないが)。各ブランドはより多くの小ぶり時計をリリースしているが、それらのリリースは既存のカタログの延長線上に過ぎない。チューダーは37mmのブラックベイ54を投入したかもしれないが、より大型のブラックベイはどこにも行かないだろう。

 ブランドは、コレクターがまさにそれを求めていることを認識して、提供するラインナップを広げている。しかし、これはサイズだけにとどまらない。スポーツウォッチの覇権を握る時代は終わった。コレクターはあらゆる収集における種類のコーナーを発見(または再発見)している。カルティエやピアジェだけでなく、もっと小さくてドレッシーなものまでだ。

iwc cloissone enamel dial
もうひとつのエナメル文字盤について、私は考えすぎてしまう。写真は昨年12月に開催されたクリスティーズにて、2万7720ドル(日本円で約420万円)で落札された、美しいクロワゾネエナメル文字盤のIWC。

 このような嗜好の広がりは2024年も続くだろう。2020年や2014年と比べて、時計に関心を持つ人は非常に増え、あらゆる観点から時計に注目している。

 大衆の意識を捉えてしまうほどのニッチさを予測できるほど大胆ではないため、私が興味を抱いているものをいくつか紹介しよう。これらに交渉の余地はない。ジャガー・ルクルトからアメリカンウォッチブランド(エルジン、ハミルトン)まで、アール・デコ全般。そしてエナメル文字盤だ。昨年、サンドロ・フラティーニ(Sandro Fratini)氏のエナメルコレクションのごく一部を見たと書いたが、今でも毎日のように考えている。ほとんどの場合、私は時計を“芸術”だと思っていないが、エナメル文字盤は例外だ。そして最後にジョン・リアドン(John Reardon)氏が何年も前から話している、パテックのエリプスだ。

勝者と敗者
vacheron 222 gold diamonds
 市場に“調整”があったとはいえ、これは単にパンデミック前の水準と成長率に戻ったことを意味する。オークショナーのフィリップスは、これを説明するためにいくつかの数字を示した。

 時計オークション全体で、フィリップスの2019年の登録パドル(入札者)は8097本だった。さらに2023年には1万3747パドルと、70%増加した。一方でフィリップスでの購入者の平均年齢は、同じ期間で集計したところ57歳から50歳にまで減少している。時計は成長を続けるが、どんどん若返っているのだ。2023年のオークションは2022年に比べて若干減少したものの、長期的な傾向では依然として上向きだ。

 しかし、だからといって価格が同じ方向に向かっているわけではない。

breguet chronograph
ブレゲやブランパンなどのブランドによる90年代の複雑時計製造には、未だわくわくさせられるものがある。

 モルガン・スタンレーがWatchChartsと共同で毎月発表している時計市場に関する最新レポートによると、2024年第4四半期の流通市場での価格は7四半期連続で低下した。

 レポートは、“流通市場への価格圧力はあと6カ月続く可能性がある”とし、平均在庫年数を引き合いに出している。これは一部のディーラーが、古い在庫の損失計上をまだ控えていることを示唆している。これにより、少なくとも2024年前半は価格が下落し続ける可能性があるのだ。

 地球上で最も有名な人物が、文字どおり首に時計を巻いているのだから、時計への関心はどこにも行かないような気がする。そして価格は下がり続けており、おそらく今年のどこかの時点で底を打つだろうから、それは時計に興味のある人にさらなる購入機会を提供することになるかもしれない。

cartier bamboo coussin
見苦しいと思うかもしれないが、カルティエ バンブー クッションは明らかに勝者である。この例は最近、LoupeThisで6万7000ドル(日本円で約1005万円)で落札された。

longines 13zn
一方でスペシャルなロンジンへの関心も依然として高い。この13ZNは今週、小さなオークションハウスにて、3万6000ドル(日本円で約540万円)で落札されている。Image: Rich Fordon

 ちなみに価格は全面的に下がっているというわけではない。特別な時計にはまだまだスペシャルな価格がついている。以下一例だ。

1991年製のカルティエ パリ クラッシュが先週、15万2800ユーロ(日本円で約2475万円)で落札。ピーク時より下がったものの、それでも非常に好調な結果だ。
ロンジン 13ZN “ドッピア・ランチェッタ”が小さなオークションハウスにて3万6000ドル(日本円で約540万円)で落札され、話題を呼んだ。
別のカルティエ “バンブー”は6万7100ドル(日本円で約1005万円)で販売された。
Artcurialが2024年に初めて販売した時計は、ネオヴィンテージのブレゲとブランパン(パテックとロレックスも)を中心に、ほぼ全面的に好調な結果を収めた。
 しかしすべてが右肩上がりなわけではない。これらのオークションの結果を見てみると、不振の時計も目につく。準備期間中、買い手は時計を買う理由を探した。しかし不確定要素が多いために、コレクターたちは時計を買わない理由も探している。それはコンディション、価格、または単に雰囲気が悪いだけであったりだ。

“今は普通のSS製デイトジャストを手放すことはできない”というのが、私が話を聞いた人たちの共通の意見だった。今、時計を売るのは誰にとっても簡単なことではない。一般的な量産モデルの場合は特にだ。

 全面的に、この二極化は続くだろう。大手ブランドは今後も成長を続け、最も重要なモデルの需要が増加する。同じことが大手独立時計メーカーにも起こり、残りのメーカーは遅れを取るだろう。

再三にわたり話題に上るオメガについて
vintage omega speedmaster
ヴィンテージオメガ、あなたがいなくて寂しいよ!

 昨年、オークションの世界ではあまりにも多くの論争が起きたが、最大の論争は、フィリップスが販売しレコードを樹立したトロピカルオメガ スピードマスターがフランケンウォッチであったと判明したことだ。それ以来、スピードマスター市場は生命維持装置につながれている。時計オークション史上最大の論争を呼んだ1本が市場を冷え込ませたのだ。オークションハウスがリスクを冒してスピードマスターを出品しても、多くの場合、売れ行きが悪かったり売れなかったりする。

 これは完全に理解できるが、オメガの話をするのがちょっと恋しい。ヴィンテージスピーディ、そしてより広い意味でのヴィンテージオメガの時計は本当に素晴らしいのだ。そのカタログも実に多彩だ。スピーディからシーマスター、コンステレーション、30T2まで、あらゆるタイプのコレクターが楽しめる。

 2024年、私たちは再びオメガについて語るだろう。同ブランドのヴィンテージカタログが永遠に無視されるには、あまりにも素晴らしいものばかりなのだ。

ガラスの国のアリス

 最後に、これは予測というより希望に近い。ジャーナリストのクリス・ホール(Chris Hall)氏は最近、現代のブランドがもっとうまくやれる分野として“透明性”を挙げた。私の希望は、ディーラーやオークションハウスもこのことに着目することだ。

 昨年のオークション論争の多くは透明性を高めることで解決できたか、少なくとも緩和はできたはずだ。より優れた状態のレポート、財務上の利害関係の明確な開示など。

 一方でもし2024年、あなたが自尊心の高い時計ディーラーならウェブサイトに自分の名前、それと理想であれば写真も載せた、シンプルな“アバウト”ページの開設を求めるのは高望みだろうか? 私はしばしば、操作の背後にいる実際の人間を把握するために、P.I.(計画・実施の過程に関係する利用者に情報を公開したうえで、広く意見を求めてそれを反映する役割)を演じていることに気づく。

 また、Instagramが素晴らしいのは知っているが、ディーラーの販売やリスティングの歴史的なアーカイブもあれば、物事が横道に逸れても(また実際にそうなるのだが)、実際に記録が残るからいい。最後に、あまりにも多くのディーラーが“コレクター”を装っている。私たちは皆、時計が大好きで、情熱と職業のあいだに線を引くのが難しいことも理解している。時計を売買してお金を稼ぐのは構わないが、正直に言って欲しい。たくさんやって利益を出そうとしているのであれば、コミュニティに対して透明性を持つべきだ。なぜなら、そうすることで別の義務や期待が生じるからである。

バーゼルフェアで3つのプロトタイプ・シンプリシティを発表した。

3本のうち、ふたつはギヨシェダイヤルのホワイトゴールドモデル。ひとつはデュフォー氏本人が個人的に所有し、もうひとつはのちにフィリップ・デュフォーの日本代理店であるシェルマンの、当時の社長だった磯貝吉秀氏に贈られたという。そして残る1本が、ホワイトラッカーダイヤルのピンクゴールドモデルだ。これらの時計(デュフォー氏所有のもの以外)は2000年のバーゼルフェア後、フィリップ・デュフォーの時計を求める顧客に見せるための展示ピースとしてシェルマンに預けられたのだという。オークションに出品されたのは、ホワイトラッカーダイヤルのPGモデルだった。そしてオーナーは、その時計をデュフォー氏本人とシェルマンの許可を得て出品したようだった。

磯貝氏に贈られたという、もうひとつのプロトタイプ・シンプリシティはいまも彼が所有していた。別件で磯貝氏にコントタクトを取る最中、筆者は彼が所有するというプロトタイプ・シンプリシティを見せてもらう機会を得た。時計はもちろん素晴らしいものであったが、それ以上に興味深いこの時計にまつわるバックストーリーを知ることができた。

「コロナ禍もあって僕が仙人みたいな生活をしているあいだに、あのプロトタイプのシンプリシティはそんなことになっていたんですね」

ご存じの方も少なくないと思うが、磯貝氏は2018年にシェルマンの代表取締役を退任した。その後はどうやら時計業界とは積極的に関わることなく過ごしていたらしく、プロトタイプ・シンプリシティのひとつがオークションに出品されていたことは今回の取材があるまで知らなかったようだ。そもそも2本のプロトタイプ・シンプリシティはどのような経緯で磯貝氏に、シェルマンに贈られたのだろうか。彼は快くその詳細を語ってくれたが、その全貌を知るには、デュフォー氏と磯貝氏の関係についても少し知っておく必要がある。

時計師たちが嬉々としてこだわりの時計を作り発表していたアカデミー黎明期
 1980年代終わり頃からバーゼルフェアを訪れるようになった磯貝氏は、当時スヴェン・アンデルセン、フォルジェという独立時計師ブランドを扱っていた関係で、1987年から出展していた独立時計師アカデミー(通称はアカデミー。1985年に設立)のブースへも当初から通っていた。当時の独立時計師たちの評価はいまとは異なるもので、それほど注目されることもなく、メインホールから離れた倉庫のような会場(ホール5)の片隅で自身のこだわり満載の作品をひっそりと展示・発表しているような状況だったという。

 1990年代になると、日本では時計ブームが起こり時計専門誌が次々に創刊されたが、超絶技巧が光るアカデミーメンバーたちの作品は日本の時計愛好家たちの嗜好にマッチ。アカデミーと懇意にしていた磯貝氏が協力して日本のメディアが取材に訪れ、独立時計師の作品が日本に紹介されるようになり、次第に日本以外でも名声を得るようになっていった。そのなかで磯貝氏と付き合いを深めていった独立時計師のひとりがフィリップ・デュフォー氏だった。

 「グラン&プチソヌリ ミニッツリピーター(1992年発表。83年にデュフォー氏が作り上げた懐中時計版ムーブメントを腕時計サイズに縮小して完成)、デュアリティー(1996年発表)と、ユニークな時計を作っていることはもちろん知っていましたが、実はデュフォーさんとのお付き合いが本格的に始まったのは2000年からでした。その年のバーゼルフェアで新作として発表されたシンプリシティにひと目惚れして、ぜひ取り扱わせて欲しいとオファーをしたのがすべての始まりです。そして会場で展示されていたのが、プロトタイプのシンプリシティでした」(磯貝氏)

 当時のデュフォー氏は孤高の人という印象だったらしく、代理店を望まず、直接エンドユーザーに自身の時計について説明し、本当にその時計を理解できた人にしか売らない、というようなスタンスだったそうだ。デカ厚時計が全盛のなか、34mm(37mmモデルも当初から作られていた)という小さなサイズで、ヴィンテージのパテック フィリップのような最高の職人の手で丹精込めて徹底的に作りこまれた、繊細でありながら力強く美しいシンプリシティに感銘を受けた磯貝氏は、自身の時計に対する考え方や、日本の時計愛好家のことなどさまざまなことを熱心に彼に伝え、デュフォー氏の作品を取り扱わせて欲しいとお願いした。それに対し、デュフォー氏は磯貝氏の考え方を高く評価し、その提案を喜んで受け入れてくれたという。

自身の工房から窓越しに外を眺めた様子を再現したバーゼルフェアでフィリップ・デュフォー氏の展示ブース。2000年。写真は磯貝氏の提供。
 シンプリシティの価格は、当時の価格で3万4000スイスフラン(当時の日本での販売価格は約280万円)。いまの感覚からすると破格の印象だが、当時のデュフォー氏は一部の好事家だけが知るような存在で、しかもシンプリシティに比肩する素晴らしい作りを持つパテック フィリップのRef.3796が100万円前後で手に入った時代だ。シンプリシティに関心を持つ人はいても、その価格に尻込みする人は少なくなかった。

 そんな心配をよそに、2000年10月に当時のシェルマン銀座店を会場に開催されたフィリップ・デュフォーのフェアは大成功。そこにはバーゼルフェアの会場で展示されていた2本のプロトタイプ・シンプリシティが日本へ持ち込まれたが、それを見た多くの時計愛好家たちから好評を得たほか、なかでも意外だったのが時計職人たちまでシンプリシティに惚れ込んでいたということだ。

「フェアも成功して、注文も入りました。対してデュフォーさんは当初、1年かけて50本製作すると言ってくれたのですが、結局10数本しかできなかったんです。彼はこだわりの強い人ですからね。ほとんどの作業を自分でやることにこだわるし、作っているうちにここはこうしたい、ああしたい…となって。そうすると3万4000スイスフランという価格設定では成り立たず価格を上げざるを得なくなったり、最初の3年ほどは赤字で時計づくりも大変だったようでした」(磯貝氏)

 注文数は順調に延びていきビジネスとしては順調だったが、時計づくりのほうはスムーズにいかなかったようだ。シンプリシティは200本(当初は100本、その後追加で100本が製作されることになった)製作したらを販売終了としていたが、最後の時計が製作されたのは2013年。2000年の発表から13年もかかったことは、時計好きの方ならご存じだろう。2005年には予約も埋まり、納品は1年、2年と伸びていき、なんと最終的には8年待ちという状況に。そのあいだも、磯貝氏はデュフォー氏の工房をたびたび訪問して彼の時計づくりの状況を伝えたほか、心待ちにしている顧客のためにデュフォー氏からグリーティングカードを送ってもらえるように依頼するなど、心を砕き苦心したという。

「販売が終了したので本来ならプロトタイプは返却しないといけないわけですけど、それこそ何千人という方に紹介してきた時計ですからね。名残り惜しいというか、思い入れが強くなって返すのが惜しくなってしまったんですよ。そこで彼にプロトタイプを売って欲しいと言ったところ、それまでの僕の活動に感謝を込めてプレゼントするよと。どっちがいいかと彼に言われたんですが、デュフォーさんとお揃いになるねということでギヨシェダイヤルのホワイトゴールドモデルをいただくことにしました。そしてもう一方のピンクゴールドモデルも譲り受け、会社に保管しておくことにしたんです」
 そうして磯貝氏の手にやってきた2本のプロトタイプ・シンプリシティ。実は製品版とは異なるところがいくつか存在していた。もっとも大きな違いはテンプ。製品版はチラネジテンプ仕様だったが、なんとプロトタイプはジャイロマックステンプを載せていたのだ。また、通常はシリアルナンバーが刻印されるプレート部分はプロトタイプでは数字がなく、ブランク状態になっていた。

「時計を譲ってもらう際に、製品版と同じように入れ替えて渡そうかとデュフォーさんから言われたんですが、この時計に思い入れがあるから、そのままでいいと伝えました。ただ、もう13年以上も経っている時計でしたからね。じゃあオーバーホールだけはしておこうかということでデュフォーさんに時計を戻したんですが、そのときにシリアルナンバーが刻印されるプレート部分にホワイトゴールドモデルのほうは“Yoshi”、 ピンクゴールドモデルのほうには“000”と彼自ら刻印してくれたんです」

 そして冒頭のPGモデルのプロトタイプ・シンプリシティである。本来であればこの時計はシェルマンに保管されているべき時計のはずだが、磯貝氏のもとに熱心に通っていたあるコレクターの方にどうしても譲って欲しいと頼まれ根負けし、絶対に手放さないことを条件に譲ることになったのだという。
 

バンドまでをカラフルに染め上げたカラーバリエーションが一斉に発表されている。

1988年生まれの僕と同世代の人なら、カシオ スタンダードという名前のほうが聞きなじみがあるかもしれない。現在まで続くロングセラーである1987年のMQ-24、1989年のF-91Wをはじめとし、バリューな価格に高い性能を備えたカシオ スタンダードは2021年7月に「カシオ コレクション」と名前を変えた。そして、それ以降積極的にラインナップを拡充してきている。昨今のカタログを見ると、トレンドを汲んだ爽やかなアイスブルーや鮮やかなグリーンダイヤルのアナログモデルもあったり、G-SHOCKを思わせるタフな外装の多機能モデルもあったりと、バリエーションも豊かだ。本日7月16日(火)にもダイヤルにケース、バンドまでをカラフルに染め上げたカラーバリエーションが一斉に発表されている。

そして同じタイミングで、このABL-100もリリースされた。一見すると往年のカシオウォッチのようだが、6時位置には見慣れない“Bluetooth”の文字がある。そう、ABL-100はモバイルリンクを可能にしたモデルなのだ。

デザインを見てみると、1995年に登場したA168の面影が強い。液晶の外周をぐるりと囲むブルー&ホワイトのラインに、各ボタンの機能を示す表示、色こそ変わったが“ILLUMINATOR”や“WATER RESIST”(とWRのアイコン)なども共通している。そのうえでさりげなく、右上にあった“ALARM CHRONO”が“STEP TRACKER”に置き換わっているのも面白い。トノー型のケース形状に変わりはないが、現行のA168と比較するとサイズは横幅が41.6mmと3mm増、縦が37.9mmで1.6mm増、しかし厚さに関しては8.2mmと1.4mmもシェイプされている。モバイルリンクに加えて歩数計測、デュアルタイムと機能的には大きく拡充しつつ、薄型化を実現している点は素晴らしい。オシアナス、G-SHOCKで培われた高密度実装技術の恩恵を受けているように思う。重さも60gと、10gのみの増加にとどまっている。

 歩数表示やBluetoothのアイコンなど表示内容は増えてはいるものの、デジタル数字のフォントやアンバーな液晶は1989年のA159W(そしてカシオのデジタルウォッチにおいてアイコン的な存在であるF-91W)から続く雰囲気を踏襲している。また、ブレスレットのデザインも、1980年代前半のT-1500やCFX-200など当時のメタルモデルによく見られたフラットな多列ブレスを想起させるものになっている。しかも、作りも昔懐かしい巻きブレスだ。総じてルックスはとことんクラシックに寄せられている。

 今回のリリースではシルバーカラーのABL-100WEに加え、全面にゴールドIPが施されたABL-100WEGも用意された。価格はABL-100WEが1万1000円、ABL-100WEGが1万3750円(ともに税込)で、今年8月に発売を予定している。



ファースト・インプレッション
古きよきカシオファンのツボをつく1970〜80年代のデザインを踏まえながら、現代的な機能を搭載。このギャップに僕はすっかりやられてしまった。現在ではG-SHOCKでもほとんどのモデルにも搭載されるようになったモバイルリンク機能だが、まさかカシオ コレクションの見た目でライフログがとれるようになるとは思ってもいなかった。あえてスマートフォンと接続できる新モデルとしてではなく、なじみ深いデザインに同機能を載せたところにカシオの遊び心が感じられる。価格こそカシオ コレクションでは珍しく1万円を超えているが、機能を拡充しながらも極力キープされたケースサイズ、クラシックながら着用感に優れるブレスと、細部に目を向けると値ごろ感さえある。動力がタフソーラーではなく電池式になっている点だけ惜しくはあるが、その結果ダイヤルの質感が変化したり、G-SHOCKのプライスレンジに突入してしまったりするのならこのままでもいいと僕は思う。あくまでこの時計はカシオ コレクションであり、気軽に手が出せる存在であるほうがしっくりとくる。


 昨年、G-SHOCK初代モデルが立体商標を取得したことがニュースになった。G-SHOCKというプロダクトが長い時間をかけて僕たちの生活の一部となった結果だが、ABL-100で採用されたこのフォルムもまた、カシオのデジタルウオッチにおけるスタンダードだと思う。今日では、SNS上でも国境を超えてA168、A159といった名機が愛されている様子が日々アップされている。それだけ認知された存在だからこそ、ハイテクな“チプカシ”という今回の新作はシャレが効いていて思わずニヤリとしてしまう。僕はひと目でそれとわかる、シルバーのABL-100WEを手に入れるつもりだ。このクラシックな液晶でワールドタイムを操作してみるのが、今から楽しみでならない。


基本情報
ブランド: カシオ コレクション(CASIO Collection)
型番: ABL-100WE-1AJF(シルバー)、ABL-100WEG-9AJF(ゴールド)

直径: 41.6mm
厚さ: 8.2mm
ケース素材: メッキ加工を施した樹脂素材
文字盤色: ブラック(ABL-100WE)、ゴールド(ABL-100WEG)
夜光: LEDライト
防水性能: 日常生活防水
ストラップ/ブレスレット: ステンレススティール
追加情報: モバイルリンク機能(自動時刻修正、ライフログデータ、簡単時計設定、タイム&プレイス、ワールドタム、携帯電話探索)、デュアルタイム、歩数計測機能、100分の1秒ストップウォッチ、タイマー、時刻アラーム(5本)

価格 & 発売時期
価格: ABL-100WE 1万1000円、ABL-100WEG 1万3750円(ともに税込)

カルティエはミニサイズのタンク ルイ カルティエを発表した。

ワンサイズで全員に合うわけではない。これはラージ、スモール、ミニのサイズ展開で提供される。

小柄な手首はもちろん、大柄で毛深い手首にもよく似合うミニはInstagramで華々しく紹介され、一躍話題となった。実はこのミニLCには年上のいとこが存在する。それが今回新たにイエローゴールドで登場したタンク アメリカン ミニだ。このミニモデルはスモールとラージサイズが同時にリリースされた。そこでスモールとミニを実際に手に取って、よりわかりやすい比較を行うことにした。

タンク アメリカンは1989年に初めて発表され、当時の大き目な時計に対する現代的な需要に応える形で登場した。YGでつくられ、タンク サントレにインスパイアされたカーブを描くケースが特徴だったが、よりコンパクトでがっしりとしたシェイプを持っていた。そのあとアメリカンはデイト機能やクロノグラフなど、さまざまな機能を備えた多彩なバージョンが展開された。昨年、カルティエはタンク アメリカンのラインを控えめながらも視覚的に分かりやすいデザイン変更を加えて刷新し、ステンレススティールやローズゴールドの新作モデルを、ダイヤモンドやブレスレットのバリエーションとともに発表した。アメリカンはより薄く、よりスリムで、より洗練されたデザインとなり、タンク サントレのオリジナルモデルに1歩近づいたといえる。
現在、時計愛好家たちは小さな時計に夢中になっている。だが同じ愛好家たちが巨大なタンク サントレに熱狂している姿も見受けられる。だからこそ、カルティエが最新モデルで過去のデザインを繰り返すのも理解できる。2017年にA Week On The Wristで試したミディアムサイズのアメリカンは廃止され、今残っているのは44.4mm×24.4mmのラージサイズ(ヴィンテージのジャンボサントレに近い9リーニュ、約2cm)、35.4mm×19.4mmのスモールサイズ(ミドルサイズのヴィンテージ サントレに近い8リーニュ、約1.8cm)、そしてヴィンテージの“レディース”サントレに近い28mm×15.2mmのミニサイズだ。

新しいアメリカンのYG製ケースは、サテン仕上げの側面、レール部分にはポリッシュ仕上げが施されており、エッジの輪郭がより際立っている。このケースはスモールやミニサイズであっても建築的な印象である。表面はまるでミース・ファン・デル・ローエのブルーノチェア フラットバーのように滑らかだ。ケース裏側にはカーブした裏蓋が採用されており、タンク サントレのような劇的なカーブではないものの、十分に曲線的に見えるデザインだ。結果技術的に製造しやすくなりながら、湾曲しているように見える時計が誕生した。
ミニとスモールのダイヤルはどちらもいたってシンプルだ。両モデルともシルバーのバーティカルサテン仕上げが施され、すべてのアメリカン同様、チャプターリングの両端がケースのカーブに合わせて湾曲している。そのためダイヤルには多くの余白が生まれ、ローマ数字がより際立つデザインとした。サントス ドゥ カルティエやタンク フランセーズ、1950年代以降のタンク サントレと同様、八角形のサファイア製リューズはフラットでファセット加工が施されている。スモールとミニモデルはともにクォーツで動き、30mの防水性を備えている。

再びスモールウォッチの話題に戻ろう(これは至るところで話されている)。ときに、まるで“ワンサイズで全員に合う”ような時代に生きているように感じることがある。そして個人的な好みを内に秘めておくプレッシャーが重くのしかかる。“その小振りな時計、君にも僕にも…そして、この部屋で試着したすべての人に似合っているね”と、明らかにつくり笑いを浮かべながら言うのだ。なぜなら、時計愛好家の選ぶ権利を否定してはならないのだから!
このような状況では、誰もが持っていた何がよいかという感覚が政治的な空気のなか消え去ったように思える。そんなときこそ、カルティエのようなブランドに解決策を求めるべきだ。彼らは3つのサイズでアメリカンを提供しており、いずれも見た目はほぼ同じ(ケースのサイズの違いを除いて)である。ラージ、スモール、ミニから選べるというのは、2024年における時計界の民主主義といえるだろう。時計のサイズやミニモデルが話題になる今日だが、カルティエは100年近く前からさまざまなサイズの時計を提供してきた。またどのモデルの最小サイズが真に“女性向け”としてつくられたものなのか、実際にはよく分からない。

はっきり言っておくが、誰でも好きな時計を自由につけられるべきだという考えをこれからもずっと貫くつもりだ。ただスモールウォッチを推奨する風潮を押し付けないでほしい。自分の意志で選ぶことはできるから…もしそうする気になればの話だが。そして私は実際、YGのタンク アメリカン ミニ(そしてWatches & Wondersで見たミニLC)を手に入れた
 YGモデルが登場するまで、自分がタンク アメリカン好きだとは言えなかった。ずっとタンク サントレ派だったし、正直アメリカンは今のところサントレに手が届かないけれど、アメリカンならというサントレ派向けの時計だ。スモールのYGは1万1600ドル(日本円で約165万円)、そしてミニのYGは122万7600円(税込)だ。

ヴィンテージノルマル、シノワーズ、サントレに対する執着以外で、より商業的に流通しているタンクに引かれることはあまりなかった。しかしタンクをつけると何かたまらない(いい言葉が見つからない)、控えめでありながらも抗えない魅力がある。仕立てのいい黒いパンツとパリッとした白シャツというシンプルなスタイルに、袖口からタンクがちらりと見える女性になりたいと憧れているのだ。もしかするとこのYG製アメリカンは、ミニマルな美学を最大限に表現するための切符なのかもしれない。アメリカンは控えめでありながらも、太めのブランカード(フランス語で担架の意。タンクのケース側面が担架のハンドルに似ていることからその名がついた)が手首で存在感を示している。そのカーブにより手首のラインに自然にフィットし、肌に完全に平らに乗るのではなく、より個性的で官能的な印象を与えてくれる。

ミニとスモールのあいだでしばらく悩んだ結果、スモールのほうが自分にしっくりくると感じた。ただクロコダイルストラップは外して、シンプルなカーフレザーに付け替えたいと思った。そこにいつものレイヤーやカラフルな服、たくさんのジュエリーと一緒にこの時計をつけるだろう。なぜならミニマルやミニというスタイルは、自分らしくないからだ。

魅力的な機能だが、もう少し洗練されたデザインが必要だろう。

フォーメックスは技術革新において確固たる評判を築いている。同社の姉妹会社であるデクセルは、数多くのスイスブランドにパーツを製造・供給するサプライヤーだ。厄介な秘密保持契約(NDA)があるため、どのブランドが何を作っているのか明らかにされないことが多いが、デクセルのウェブサイトには、ジラール・ペルゴやモンブランのブレスレット、ウブロのケースなどが掲載されている。これらの技術の多くは、デクセルのインハウスブランドとも言えるフォーメックスにも生かされている。主にブレスレットやクラスプ、ケースの技術で知られるフォーメックスだが、最近GMT機能に挑戦すると決意したようだ。その結果がフォーメックス ストラトス UTCであり、フライヤーGMTとして機能的なパイロットウォッチに仕上がっている。デザインは少し粗いものの、ストラトス UTCはリーズナブルな価格ながら斬新なGMT機能を提供した。

 ストラトス UTCは“フライヤー”GMT機能を備えているが、通常のリューズ操作ではなく、2時位置と4時位置にあるプッシャーで現地時間の時針を操作できる仕様になっている。リューズを引き出すことなく(またテンプの動作を止めることすらせず)、ローカルアワーを1時間進めたり戻したりすることができるのだ。
 フォーメックスは、ETA 2892にデュボア・デプラ社製のカスタムモジュールを組み合わせることでこの機能を実現している。日付はローカルタイムの時針と連動しているが、ミドルケースの左側には、独立した日付修正機構が隠されている。日付は6時位置のインダイヤルに表示され、9時位置には小さな昼夜表示が配置されている。また見返しリングに24時間表示があり、さらに双方向回転ベゼルにも24時間スケールが付いている。このため、同時に3つのタイムゾーンを追跡できるが、そのぶんデザインはかなり賑やかである。フォーメックスはムーブメントを日差±7秒の精度に調整しており、サファイア製シースルーバックをとおしてムーブメントを見ることができる。


 フォーメックスはこれらすべての機能を41mmのコンパクトなステンレススティールケースに収めている。ラグからラグまでは47mm、厚さは快適な11.8mmで、100mの防水性能を備えている。ストラトス UTCはストラップまたはブレスレット(ラグ幅20mm)で提供されるが、私はブレスレットを強くおすすめする。ブレスレットには工具不要のマイクロアジャスト機能とクイックリリースが完備。フォーメックスはケースとブレスレットの製造や仕上げにおいて優れており、ストラトス UTCも例外ではない。ブレスレットは頑丈でありながら薄く、手首にしっかりとフィットした。

 さらにダイヤルにはサンレイ仕上げ、インダイヤルとアウターリングには異なる質感のグレイン加工を施している。ダイヤルのカラーオプションはブルー、グレー、グリーンの3種類で、すべてに鮮やかなオレンジのアクセントが加えられている。ブレスレット仕様のフォーメックス ストラトス UTCは3990ドル(日本円で約60万円)で、ストラップ仕様は3850ドル(日本円で約58万円)。現在予約注文受け付け中だ。



我々の考え
フォーメックスの実用的なGMTアプローチは気に入っているが、この時計は技術仕様や複雑機構を優先して、デザインが後回しにされた印象を受ける。ダイヤルは情報量が多く、さらにベゼルがごちゃついた感じだ。それにストラトス UTCにはフォントが多すぎる。それでもケースの装着感はとてもよく、厚さわずか11.8mmのGMTというのは軽視できないポイントだ。またポリッシュ仕上げ、サテン仕上げ、マット仕上げが混在しており、仕上げもきちんとしている。

 プッシャーでGMTを操作するのは目新しいわけではない。たとえばパテックの5164やブルガリのオクト フィニッシモ クロノグラフ GMTがその例だ。しかしフォーメックスがETAのムーブメントにモジュールを追加し、この機能を比較的手ごろな価格に抑えたことは評価に値する。
 フォーメックスがこの機能を別のモデルに採用するか、ストラトス UTCのデザインを洗練させてくれることを期待している。というのも、このアイデアには大きな可能性があるからだ。ストラトス UTCのデザインは自分には合わないかもしれないが、フォーメックスの技術力、エンジニアリング、製造に関しては誰もが評価できるものだ。
フォーメックス ストラトス UTC。316Lステンレススティールケース、41mm × 11.8mm(ラグからラグまで47mm)、100m防水。48クリックの双方向回転SS製ベゼル。ストラトス UTCは、カスタムされたデュボア・デプラモジュールを搭載した自動巻きETA 2892ムーブメント(日差±7秒)を使用した“フライヤー”GMT機能、サファイア製シースルーバックからムーブメントを鑑賞できる。6時位置に日付表示。サンレイ仕上げのダイヤルはグリーン、ブルー、グレーの3色展開。ブレスレットは工具不要のマイクロアジャストとクイックリリースの付いたスクリューリンク。メーカー希望小売価格はブレスレット仕様が3990ドル(日本円で約60万円)、ストラップ仕様が3850ドル(日本円で約58万円)。

これは業界的にかなり高い評価を受けているといえるだろう。

彼は『One Good Reason』や『Wanted』などのヒットシングルでカントリーアルバムチャートで1位、ビルボード200では7位を獲得している。先日には新曲『If You Change Your Mind』もリリースした(記事掲載時)。節目として特筆すべき機会が多いアーティストといえるだろう。そして、彼にとってその喜びを表現する手段のひとつが時計なのだ。
 現在29歳(記事掲載時)のヘイズ氏は10年前、カントリー歌手を目指してルイジアナからナッシュビルに初めて移り住んだ。当時の彼はフォッシルの時計をいくつか所有しており、今でもそのころの製品に愛着を感じているというが、現在はキャリアのハイライトごとに増やしてきた成熟したコレクションを持っている。ヘイズ氏が時計を購入するのは節目や目標を達成した時だけで、彼のコレクションにはそれぞれの物語がある。ここに紹介する時計も例外ではない。

彼の4本
ベル&ロスのパイロットウォッチ

ヘイズ氏は2013年にデビューアルバムである『The Four』がグラミー賞3部門にノミネートされたあとで、初めて時計を購入した時のことをはっきり覚えている。時計に大金を費やすことに抵抗がなかったのは、これが初めてだった。そして結果的に、グラミー賞の獲得時にその時計を身につけることとなった。この時計を購入する際、彼はベル&ロスのふたつのモデルで迷っていたという。ひとつはもう片方より約400ドル高かった。
マネージャーと時計の購入について話していると、マネージャーは「5年後には400ドルの差額については忘れるが、時計は残る。妥協すればその事実ものちに残る。この先も常に妥協することになるからだ」と言った。
そのため値段が高くても本当に欲しいモデルを購入することにした。ヘイズ氏によると、このときの購入体験はすぐに報われ、その後に続く大きな物語の一部となったという。
 「ジョン・メイヤー(John Mayer)が激励のためにグラミー賞の楽屋に駆け込んできたんだ。僕の時計に気付いてくれることを期待したけど気付かなかったから、自分から話題にしたんだよ。そしたら彼は『ああ、いや、確かに目の端で見ていたよ!』と言ったんだ」
メイヤー氏が続けて「その時計のことを聞こうと思っていたんだ。詳しく教えてくれ!」と言ったため、ふたりはグラミー賞の舞台裏でこの時計について約5分間ほど語り合った。

ロレックス チョコレートダイヤルのデイトナ Ref.116515

ヘイズ氏がロレックスに興味を持ち始めたのは、ロレックスの傘下ブランドであるチューダーが2014年に1日で10都市を巡る記録的なツアー用の時計をプレゼントしてくれたことがきっかけだった。その時計はツアー終了後にチャリティーオークションにかけられたが、この時を境に彼のロレックスへの関心が芽生えたのだという。「特別な機会につける時計を探していて、このローズゴールド(RG)製のデイトナにたどり着いたんだ。思い切って大きな夢を描いていたんだよ。そしてこの時計がどれだけ気に入ったかを友人に話したら、何の前触れもなく彼が突然プレゼントしてくれたのさ。彼とはいくつかのイベントで共演して知り合ったんだ」
ヘイズ氏は冗談混じりに「2年間警備員を雇っていたけど、それは僕のためじゃなくてデイトナのためだったんだよ!」と話してくれた。
ウブロ ビッグ・バン ジーンズ

履き古したジーンズほどカントリーっぽいものがあるだろうか? ただの常套句ではなく、ヘイズ氏は「ありとあらゆるデニムに夢中」だと語る。
 「2013年ごろはジーンズとデニムジャケットばかり着ていたよ」と彼は言う。「僕にとってはそれが制服みたいなものだったんだ」
そこで、そのスタイルに合う時計を買ったのだという。
ブライトリング ヴィンテージ コスモノート

「昔から航空関係に興味があって、ナビタイマーが好きだったんだ」とヘイズは言う。「でもこの時計が気に入った理由は、ナビタイマーではないからなんだ。コスモノート独自の24時間表示のダイヤルなんだよ」


ヘイズ氏はシドニーでロストバゲージを経験してユニクロでステージ衣装を調達することなった。その際、時計を買う予定はなかったもののひときわ目に留まったのだという。「この時計やベル&ロスのことを話題にしてくれる人がいると、航空分野が好きな仲間と話しているんだなってわかるんです」と彼は言う。そしてその会話がパイロット免許を取るまでの励みになっているのだという。

もうひとつ
マーティン 1958年製Size-5

 「ギターは僕の仕事道具だよ」とヘイズ氏は言う。「仕事に欠かせないものだから、ストーリーがあるとさらに魅力的なんだ」。彼のお気に入りは日本で入手した1958年製のマーティン Size-5だ。「壊れて修理されたギターを見つけるのが好きなんだ。そういったギターのほうが価値があって、弾きやすいことが多いからね」
 ヘイズ氏がこのマーティンを特に気に入っている理由には、見た目だけでなくもちろんその音色も含まれている。「年月とともに木材のコーティングが剥がれて、音色がより豊かでエキサイティングなものになるんだ。弾いていてもっと楽しくなる」。彼は曲作りの旅に出る時にはこのマーティンを持って行く。ユニークなチューニングが強みなのだという。「昔はこれらのギターは“練習用”として作られていたんだ」と彼は言う。「だからほかのギターにはない特別な演奏ができるんだ」

ルイ・エラー×ヴィアネイ・ハルター レギュレーターIIを発表した。

両者の最初のコラボレーションをまだご存じない方のために説明すると、2020年に登場した初代ルイ・エラール×ヴィアネイ・ハルター レギュレーターは、ハルター独特の美学を広く届けるための試みとして作られた。ルイ・エラールが製造を担当し、ハルターがデザインを手掛けたこのレギュレーターは、価格が3500スイスフラン(日本円で約59万2000円)に設定され、ハルターのオリジナル作品に小売市場やセカンダリーマーケットで一般的につけられる高額な価格とは一線を画していた。

2020年、ルイ・エラールとヴィアネイ・ハルターによる初のコラボレーションが実現した。
 両者において初のコラボレーションが、ハルターのモダンな美学を反映したものであったのに対し、今回の第2弾はハルター氏の代表作であるアンティコアからインスピレーションを得たものだ。スチームパンクを思わせるその独特のデザイン言語は、温かみのある金属の色合い、シャープに面取りされたフォルム、そして何よりも特徴的な(しかも大量の)リベットによって際立っている。今回のレギュレーターは、特異で魅力的なアンティコアのパーペチュアルカレンダーに見られる分割式の文字盤と精神的に通じるデザインを強く表現しているといえよう。

 このコラボレーションでは価格を抑えるために機能をシンプルにし、時計は時刻表示のみに絞ったレギュレーターモデルとして仕上げられている。ここにはハルターならではの複雑機構は存在しないが、その代わりにデザインが全面に押し出される形となった。文字盤上には、時・分・秒表示がそれぞれ分割され、独立したレイアウトで配置されている。これまでのルイ・エラールのレギュレーターは、基本的にセリタ製ムーブメントSW266-1を採用した対称的な配置が主流だったが、今回は大胆に非対称性を採用。ムーブメント自体を時計ケース内で数度回転させたデザインとなっている。その結果としてリューズが2時位置に配置されることになり、この小さな変更が大きな視覚的インパクトを生み出し、より“ハルターらしい”仕上がりとなっている。文字盤上で盛り上がったインダイヤルと外周のチャプターリングにはサーキュラーブラッシュ仕上げが施され、ダイヤモンドポリッシュによるシャープな面取りが加えられている。これらの立体的な要素は垂直にヘアライン仕上げが施された文字盤プレートの上に配置され、ハルターらしいブルースティール針がその美観を完成させている。



 時計のベゼルにもサーキュラーブラッシュ仕上げが施され、ポリッシュ加工された12個の“レッドギルト”(ブランドによると5NのPVDコーティングが施されたもの)のリベットが、事実上の時刻マーカーとして配置されている。ケースのサイズは直径43mmとかなり大きいが、厚みは10.95mmと適度に抑えられている。またラグ幅が22mm、ラグトゥラグの長さが49.6mmであることから、装着時には非常に力強い存在感を放つであろうと想像できる。さらに特筆すべきは、リューズを取り囲むリベットのデザインであり、時計愛好家ならフランスの時計職人によるものであることをひと目で見抜けるような際立った特徴を有している。

左のモデルはeコマース専用で、右のモデルは小売店専用である。
 今回のコラボレーションでは、実は2種の異なるモデルが発表されている。両モデルともレイアウトは同じだが、文字盤の配色が反転している。一方は公式eコマース限定で販売され、もう一方はパートナーである小売店専用で展開される予定だ。それぞれ178本限定となり、価格は4444スイスフラン(日本円で約75万円)に設定されている。

我々の考え
これは前述のとおり釘づけになる(リベットを使った=riveting)デザインである。冗談はさておき本作はルイ・エラールのレギュレーターモデルとして非常に魅力的なアプローチであり、アラン・シルベスタイン、クドケ、マッセナ LABなどと行ってきた強力なコラボレーションモデルのなかでも、現時点では特に私のお気に入りとなっている。
 近年、高級時計メーカーが有する強力なデザイン言語をより手ごろな価格帯のモデルに反映させようとする試みが数多く見られる。つい先日もグローネフェルド(Grönefeld)兄弟が自身の新ラインでこのコンセプトに即したモデルを発表したばかりであり、MB&Fから派生したM.A.D.エディションもここ数年話題の中心となっている。さらにはムーンスウォッチでさえも、このアイデアに当てはまる時計だと言えるだろう。

 ルイ・エラールとヴィアネイ・ハルターのコラボレーションにより誕生した今回の時計は、デザイナーとしてのヴィアネイ・ハルター(Vianney Halter)氏の美学に魅了されながらも、時計師としてのハルター氏が要求する価格には手が届かないという人々にとって非常に魅力的な一品となっている。今回のモデルは初回コラボレーション時の価格である3500スイスフラン(日本円で約59万2000円)よりも高額になっているが、新モデルは以前のモデルよりもはるかに洗練されていると感じられる。しかしケースサイズの大きさについては、個人的には気になる点のひとつである。というのも、ハルターの作品はこれまで一貫して比較的小振りなサイズ感を保ってきたからだ。特に時刻表示のみのモデルでは36mm程度が主流であった。しかしこの時計を実際に手に取って見たわけではないため、この点についての最終的な判断は保留としたい。

基本情報
ブランド: ルイ・エラール×ヴィアネイ・ハルター(Louis Erard x Vianney Halter)
モデル名: レギュレーターII(Le Régulateur II)
型番: 85246AA03.BVA172(小売店専用モデル)/85246AA02.BVA172(eコマース専用モデル)

直径: 43mm
厚さ: 10.95mm
ケース素材: SS
文字盤色: レッドゴールド(小売店専用モデル)/シルバー(eコマース専用モデル)
インデックス: プリント
夜光: なし
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: レザー


ムーブメント情報
キャリバー: セリタ SW266-1
機能: レギュレーター表示による時・分・秒表示
直径: 25.6mm
厚さ: 5.6mm
パワーリザーブ: 38時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 31