2025年09月

パテック フィリップのリファレンス3970に注目すべき理由。

サラブレッドのDNAを持ちながら、最初の1歩を踏み出せなかった。それは変えるべきだろうか?

パテック フィリップのリファレンス3970を初めて見たときのことは覚えていないが、最初に見たある時計のことは覚えており、かなり印象に残っている。それは2014年、わたしがサザビーズのカタログ係からアソシエイト・スペシャリストへと昇進したばかりだったときのこと。過去に仕事をしたことのあるクライアントで、小さな作品をいくつか委託していた人がいた。いつも気さくで温厚な彼がある日わたしに、イエローゴールドの3970Eを委託する準備ができたと連絡をくれた。わたしは緊張しつつもコンプ(類似モデル)を探し、6万ドルから8万ドル(当時の相場で約635万~850万円)というエスティメートを出した。オークションは間もなく始まったが、わたしの期待を裏切るように、この時計に興味を示す人はほとんどいなかった。オークション前夜、わたしは必死で委託者に電話し、入札が活発になるようにリザーブを下げたが、言うまでもなく彼は不機嫌だったし、わたしはきつい小言をもらった(オークションハウスでの生活なんてそんなもの)。この時計は結局6万8000ドル(当時の相場で約720万円)で落札されたが、委託者、そしてわたし自身もがっかりした。今でも3970と聞くとこのエピソードがフラッシュバックする。時計への愛が冷めたわけではないだろうに、3970はどうしたのだろう、なぜ誰も気にしていないのだろう? と、いつも不思議に思っていた。


パテック フィリップ Ref.3970。

 わたしにとって、その魅力は常にそこにあった。パテック フィリップ最後の偉大なデザインのひとつとされ、かなり複雑な作品である。美しく、サイズ感もよく、ムーブメントもいい。コレクターズウォッチとしてすべての要素を備えているのだが、なぜか結果はいつも少し控えめで、やや冴えない。そこでわたしはこの時計を真に理解し、その本質を見極めることにした。さっそく見ていこう。

まずリファレンス3970とは?
 リファレンス3970は1986年に誕生した(自分で言うのもなんだが、いい生まれ年だ)。1980年代は機械式時計にとって奇妙な時代だったことを忘れてはならない。クォーツムーブメントが状況を一変させ、人々はコンプリケーションウォッチに見向きもしなくなったのだ。実際、クロノグラフでさえまったくもって人気がなかった。そのため、1986年にパーペチュアル・カレンダー・クロノグラフ 3970が発売されたとき、リテーラーは簡単には動かなかった。クリスティーズの時計部門責任者で、パテック フィリップのあらゆる権威であるジョン・リアドン氏(彼は文字どおり、数冊の本を執筆している)によると、リテーラーは売るのが難しすぎたために、パテックを引き取りたがらなかったというのだ。しかし、これらの時計の人気と価格について説明する前に、3970が実際にどのようなものであるかを知る必要がある。

3970はパーペチュアルカレンダー機能のついたクロノグラフで、1951年から1986年まで生産されたアイコニックな2499の後継機である。それ以前は、Ref.1518がパテックの“永久カレンダー・クロノ”の称号を占めていた。実際、1518は全体的に見て初めて連続生産されたパーペチュアル・カレンダー・クロノグラフであり(詳細はこちら)、20世紀時計製造の真のアイコンである。

 3970はホワイトゴールド、イエローゴールド、ローズゴールド、そしてプラチナで生産された。ケース自体のサイズは36mmで、2499よりも1.5mm小さい。ダウンサイジングはパテックにとって興味深い選択だった。うるう年表示とクロノグラフ30分積算計(3時位置)、ムーンフェイズと日付表示(6時位置)、クロノグラフ12時間積算計とランニングセコンド(9時位置)という3つのインダイヤルを備えた、伝統的なダイヤルディスプレイが特徴的だ。12時位置には曜日・月のふたつの開口部があり、伝統的な丸いクロノグラフプッシャーがリューズに隣接している。全体的に見てもパテック フィリップらしく、1518や2499など、いずれも聖杯の域に達したネオ・ヴィンテージ時代の傑作のあとにリリースされるモダンな作品として、ブランドの過渡期を表している。なお、2499/100は1980年代に入っても生産されていたので、3970はそのリファレンスに近い素晴らしい後継モデルだった。


左から、初のパーペチュアルカレンダー・クロノグラフのRG、SS、YG製のパテック フィリップ Ref.1518。

 3970の中心にあるのはムーブメント、すなわちCal.CH 27-70 Qである。このキャリバーはパテックがクロノグラフで使用した最初の非バルジュベースのムーブメントであった。このキャリバーは、初期のオメガ スピードマスターに搭載されていたCal.321のベースにもなった、レマニア2310をベースにしている。約60時間のパワーリザーブを確保した手巻きムーブメントで、後の5970、5004(ラトラパンテ機能追加)でも採用されている。3970の全系譜で採用され続けた美しくも信頼性の高いムーブメントであり、現代においてもヴァシュロン コルヌ・ドゥ・ヴァッシュのようないくつかの特別モデルに搭載されている。このキャリバーの仕上げは素晴らしく、もちろんすべて手作業で行われている。CH 27-70 Qは製造当時、世界で最も優れたムーブメントのひとつであり、まさにジュネーブの流儀を体現していた。


Cal.CH 27-70 Q。

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第1、2、3、4世代
 先述したように、3970は1986年に誕生し、2004年まで生産されていたが、これは現代のパテックのリファレンスとしては決して短くはない期間である。これは4つの世代で分類され、それぞれ少しずつ異なり、またあるものはほかのものより希少である。変更されるディテールはすべて素晴らしく、針、インデックス、および裏蓋で確認できる。

第1世代(1986年)

アンティコルム オークション 2015にかけられた、パテック フィリップ初となるリファレンス 3970。Photo: courtesy of Antiquorum

 第1世代はわずか100本しか作られておらず(3971を除いて)、シリーズのなかで最も希少なモデルである。第1世代は、シルバーのダイヤル、フィーユ (英語でリーフ)針、バーインデックス、そして少し色の違うインダイヤルによって定義される。さらにこの個体はスナップ式のケースバックを備え、すべてYG製、しかもすべて1986年にのみ製造された。さらにブレスレット(うっとりするね)がセットされたものも見つけることができ、それらについてはリファレンスのうしろに“-1”が付く。これは3970および3971の両方に当てはまる。

リファレンス3971(1986年)

レジナルド“ピート”フラートンが所有していたパテック フィリップ 3971。


3971と3970の明確な違いである、スナップ式のシースルーバック。

 1986年に3970と並んで生まれたもうひとつのリファレンスが、3971である。このリファレンスはフィーユ針、バーインデックス、異なる色のインダイヤルを備えた第1世代の3970とまったく同じ仕様だが、同リファレンスにはスナップ式のサファイアクリスタルバックがあった。このモデルは第1世代、第2世代と並行して生産されたが、後に生産終了となった。Ref.3971の製造本数は300本にも満たないという超レアなリファレンスだ。だがスナップ式のサファイアクリスタルバックを欲しがる人を、本当に責めることはできないだろう?


3971のカタログ。

第2世代(1987~1990年)

色が統一されたダイヤル&インダイヤルに、バーインデックス(わたしのお気に入り)、フィーユ針を備えた第2世代の3970ER。ケースバックはネジ込み式だ。

 第2世代は1986年から1991年までYG、RG、WGで製造され、またプラチナでも少量だが生産された。厳密には、ネジ止め式の頑丈なケースバックから3970E(Eはétancheの略、防水の意)として知られている。全部で約650本(3970と3971)作られたが、なかでもWG製は最も希少である(現在知られているのは6本だけだ)。第1世代との差別化は、インダイヤルが文字盤と同色であることと、ケースバックがネジ止め式のソリッドバックであることの2点である。クライアントがサファイアのネジ込み式シースルーバックを追加注文できるオプションもあったが、これは希だ。フィーユ針とバーインデックスに変更はなく、また1990年まではケースが手作業で仕上げられていたため、第1、第2世代がコレクションとしての価値が高いことは覚えておく必要がある。


ネジ込み式の裏蓋を備えた、第2世代の3970EP。

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第3世代(1990~1995年)

砲弾型インデックスとバトン針を備えた、第3世代の3970。

 第3世代の3970は、生産数がやや多くなり始めた時期である。1989年から1995年頃までに全4種の金属で作られ、総生産数は約1350本だ。ここでの大きな違いは、ソリッドケースとサファイアクリスタル製のスクリューバックケース、先のとがった砲弾型インデックス、そしてリーフ針の代わりにバトン針が採用されたことである。また文字盤も明るいシルバーになり、プリントがより重く、鮮明な仕上がりになっている。これは最もありふれた3970であるためいちばん手ごろで、第4世代とも並行して生産されていた。

第4世代(1995~2004年)
 最終シリーズとなる第4世代は、1994年から2004年頃まで生産されていたもので、第3世代とまったく同じだが、シリアルナンバーのレンジが新しくなり、Dバックルクラスプがセットされた。およそ2000本が作られ、4種類の金属すべてが使用された。最後の生産であり、コレクターもあまりいないモデルだ。


これは2002年製第4世代の3970EPで、基本的には第3世代と同じ、尖ったバトン針とインデックス、ネジ込み式のサファイア製シースルーバックを備えている。


ネジ込み式のサファイア製シースルーバックからは、Cal.CH 27-70 Qが鑑賞できる。

 3970は20年以上にわたって生産され、そのライフサイクルが終わるまでに複雑なリファレンスのひとつであり続けた。このリファレンスは、クッション型ケースにQP(パーペチュアルカレンダー)クロノグラフというコンプリケーションを搭載したRef.5020により途絶えた(わたしの好みではなかったし、ほかの誰の好みでもなかった)。3970は最終的に2004年に5970、そして2011年には5270へと続いた。もちろん、5970は3970とまったく同じキャリバーを使用しているが、刷新されたケースサイズとクリーンなダイヤルは、限られた生産量と相まって、ほとんどのコレクターにとってはるかに魅力的な時計として映っている。

3970はコレクターズアイテムなのか?
 さて、この記事を執筆しようと思ったとき、この時計が次に収集すべき時計であるという非常識な発見に出くわすだろうと確信していた。しかし、この時計について長い時間をかけてみると、この時計の素晴らしさはスーパースターのような地位にあることではないことに気づいた。実際はその逆だ。平均的な3970の価格は、素材や世代によって7万ドルから20万ドル(当時の相場で約775万~2210万円)程度であるが、ユニークピースは依然として最も収集価値が高い。ここでは、そのハイライトをいくつか紹介する。

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スペシャルな3970たち
 ヴィンテージウォッチで忘れてはならないのは、特別なダイヤルや構成があれば、いつでも価値が上がるということ(そう、当たり前なことだが、あえて言う必要がある)。これは3970でも同様で、さまざまなバリエーションが存在する。最近、オークションに出品されたもののなかには、ブラックダイヤルにブレゲ数字(何と名付ける?)の構成を持つプラチナ製3970がある。この時計は“おそらくユニークピース”(みんなそうだろうが) で、またタキメータースケールが加えられている(ここにエリック・ウインドが叫んでいる絵文字が入る)。この時計は20万から40万スイスフラン(当時の相場で約2260万~4520万円)で落札されると予測され、今月後半にフィリップスでオークションにかけられる予定だ(編集追記:結果は34万8500スイスフラン、当時の相場で約3940万円にて落札)。


おそらく唯一無二のパテック フィリップ 3970P。

 上の時計に似ているのは、WGにサーモンダイヤル、ブレゲ数字、タキメータースケールが描かれたエリック・クラプトンの3970である。クラプトンのものであること、ブレゲ数字をあしらったユニークなサーモンダイヤルであることなど、明らかにこの時計には重要なポイントが詰まっている。この時計の最も興味深い点は、同じオークションで販売されたクラプトンの5004を5万ドル上回り、3970が45万9000ドル(当時の相場で約5000万円)、5004が40万5000ドル(当時の相場で約4410万円)で販売されたことである。この時計の詳細はこちらを参照して欲しい。


エリック・クラプトンが所有していた3970。Image: courtesy of Phillips

 また、2015年のアンティコルムで20万スイスフラン(当時の相場で約2520万円)以上の値をつけた、史上初めてのパテック フィリップ 3970も公に販売された。もちろん、このような斬新なモデルとしてはかなり魅力的な価格ではあるが、最初の世代がYGであるため、例えばフィリップスで発売されるスペシャルダイヤルを持つプラチナ製3970に比べると、この価格は弱い。変わったダイヤルが最初のシリアルナンバーのようなものに勝るのは明らかだが、それでもあまり強力ではない。スペシャルダイヤルは常に最も望ましいものであるが、希少な製品である3970には、ある種固有のクールさと望ましさがあると言いたい。特殊なダイヤルは、特別であるために大物から依頼されているのだ。スナップバックを備えた初期の3970は、信じられないほど希少で特別な時計であり、わずか100本しか製造されなかった。また本当のヴィンテージ感があり、比較的高価ではない。それならWGでできた第2世代の時計があるので、探してみて。本当だ。

オリスとコレクティブ・オロロジーによる70年代風ウォッチが登場。

コレクティブ・オロロジー(Collective Horology)は、モンブランとコラボした1858 ミネルバ モノプッシャー クロノグラフのリリース後、大盛り上がりを見せている。今回のコラボ相手はオリスだ。1970年代にタイムスリップしたような新作を紹介しよう。

オリス ダイバーズ65 キャリバー400 C.04
ベースはほかのオリス ダイバーズ65と同じ、40mm径×12.8mm厚のステンレススティールケースを採用(少なくともCal.400ムーブメントを載せたモデルと)。今回の時計は1975年までさかのぼり、ブロンズのアクセントと、1970年代のキッチン(今まで想像したなかで最も派手なタイプ)から飛び出してきたような配色をまとう。本作はブロンズ製逆回転防止ダイビングベゼル、センターリンクにブロンズを配したブレスレットを備え、さらにイエローの夜光塗料を塗布したブロンズ針が、同じくイエロー夜光塗料のインデックスとマッチしている。文字盤はオレンジとイエローの夜光、そして赤みがかったオレンジが混ざり合っていて、70年代を生きたことがなくても直感的に70年代風だと思える。

オリス ダイバーズ65 キャリバー400 C.04
前述したように、時計は自社製ムーブメントのCal.400を搭載しており、約120時間のパワーリザーブを確保する。シースルーバックを備えたケースは100mの防水性を備えるなど、ほとんどの用途には十分なスペックだ。価格は4500ドル(日本円で約67万8000円)だが、これは自社製ムーブメントを考慮したものだ。本当に悔しいのは、これが連続生産されるわけではなく、250本しか製造されないことである。

我々の考え
我慢できない。言わせてくれ。これはグルーヴィー(超イイもの)だ。

オリス ダイバーズ65 キャリバー400 C.04のリストショット
コレクティブ・オロロジーのチームは、初期のダイバーズ65で様式化された夜光インデックスをうまく利用している(それ自体がヴィンテージオリスへの回帰である)。そこにブロンズの逆回転防止ベゼル、70年代らしいカラーリング、ブロンズ&SSのブレスレットでパンチを効かせており、今年発表されたオリスのなかでいちばん好きなモデルかもしれない。

ある時点で私は、オリスが旧来の非自社製ムーブメントをやめ、ダイバーズ65のラインナップをCal.400ムーブメントに完全移行するだろうと思っていた。結果は、ふたつの異なる価格帯を展開することで、ブランドを身近なものにさせた。しかしコレクティブ・オロロジーは少し高級なものにして、約120時間パワーリザーブを持つムーブメントをチョイスした。これは正しい選択だと思う。確かに、“ダイバー”と名を冠しているのに100mの防水性能しかないため、ダイビングに適した時計ではないが、カジュアルなスキンダイバースタイルの時計としては、とても楽しい選択肢であることは間違いない。

オリス ダイバーズ65 キャリバー400 C.04
コレクティブ・オロロジーのガーベ・レイリー(Gabe Reilly)氏が指摘しているように、ほかのブランドがブレスレットやベゼルに温かみのある色合いを出すときは、ゴールドキャップ(金メッキ等)を採用していたのに対し、オリスはラインナップの大部分をブロンズが占めている。多少の経年変化は起こるものの、ケース全体がブロンズで作られていないため、ヴィンテージの金無垢モデルや金メッキ時計で見られるパティーナのような雰囲気を演出し、しかもそのパティーナを得るのに50年もかからないという長所が、本当にクールに感じるのだ。

基本情報
ブランド: オリス × コレクティブ・オロロジー(Oris × Collective Horology)
モデル名: オリス ダイバーズ“75” キャリバー400 C.04(Divers "Seventy-Five" Calibre 400 C.04)
直径: 40mm
厚さ: 12.8mm
ラグからラグまで: 48mm
ケース素材: ステンレススティール、ブロンズベゼル
文字盤: オレンジ、イエロー、レッドのマルチカラー
インデックス: 70年代風のオーバーサイズプリント
夜光: あり、インデックスと針
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: ブロンズ&SSブレスレット

オリス ダイバーズ65 キャリバー400 C.04に搭載されたCal.400
ムーブメント情報
キャリバー: 400
機能: 時・分・センターセコンド
直径: 30mm
厚さ: 4.75mm
パワーリザーブ: 約120時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 21

価格 & 発売時期
価格: 4500ドル(日本円で約67万8000円)
発売時期: 現在生産中で、2023年12月に出荷予定
限定: 世界限定250本、コレクティブ・オロロジー公式ECサイトで販売

ゾディアック×ローイングブレザーズ いくつかの都市を変更した新しいワールドタイム GMTが登場

80年代…ディスコトップ、パンクロック、レザーブレザー、グラムロック。この時代にはすべてがあった。そして、もし本当にその時代をぜいたくに暮らしたいと思うなら、唯一無二の時計、彫刻のようなデザイン、スイスで手作りされた時計が欲しいはずだ。モンテカルロ、ビバリーヒルズ、ロンドン、パリ、ローマ、グシュタードの時間を同時に教えてくれる時計を。まあ、数十年遅れてしまったが、ゾディアックとローイングブレザーズは、まさにそんなシナリオにぴったりの時計をつくってくれた。

映画『大逆転(原題:Trading Places)』にてダン・エイクロイド(Dan Aykroyd)が嫌味なほど堅苦しく話していたロシュフコー(映画内で登場したブティックブランド)のような、ある種の薄さと彫刻のようなエレガンスはないが、ゾディアックとローイングブレザーズの新しいコラボレーションは、40mm径×13.6mm厚のステンレススティール製ケースとブルーベゼルを採用し、そこに映画で登場する重要な都市をすべて配した、新しいGMTワールドタイムウォッチだ。

内部には、ソプロード社製キャリバーをゾディアックがSTP7-20にアップグレードした、時・分・センターセコンド、日付表示を備えたコーラー(独立したGMT針)GMTを搭載する。ブラック文字盤にホワイトの24時間トラック、スーパールミノバ、文字盤にはローイングブレザーズのサインが入っており、5リンクのSSブレスレットが付いている。新しいゾディアックをつけて(ダン・エイクロイド演じる)ルイス・ウィンソープ3世のコスプレをしたければ、2195ドル(日本円で約31万9000円)かかる。彼が映画のなかで買った時計よりははるかに安いが、質屋で50ドルで買うよりかは高い。

我々の考え
恣意的であり知る人ぞ知る限定版ということで、これはこれでなかなかおもしろい。スーパーシーウルフGMTは、私のお気に入りの手頃なヴィンテージウォッチのひとつだが、ヴィンテージウォッチの堅牢性を心配していて、かつ新しくて信頼性が高くて楽しいものを求めているなら、ゾディアックとローイングブレザーズの新コラボ以上のものはないだろう。

実機を見たことがないので、新しいSTP7-20ムーブメントが使用中にどのような動きをするのかはわからない。自社製で(というよりゾディアックとSTPを所有するフォッシルグループとそのグループ内)、シリコンとアップグレードされたコンポーネントを追加することにより、強度の高いムーブメントを実現すると同時に、外部の業界プロバイダーに依存するサプライチェーンの問題を取り除くことができる。

それはそれでいいことだし、前モデルのスペックから少し価格が上がったことも正当化されるだろう。結局のところ、この時計は楽しさがすべてであり、私にとってはその条件を満たしている。さて、(映画のデューク兄弟のように)誰かジュースの先物取引をしたい人はいるだろうか?


基本情報
ブランド: ゾディアック×ローイングブレザー(Zodiac × Rowing Blazers)
モデル名: ワールドタイム GMT(World Time GMT)

直径: 40mm
厚さ: 13.6mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック
インデックス: アプライド、ワールドタイムベゼル
夜光: スーパールミノバ
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: 5リンクのSS製ブレスレット、NATOストラップ付属

Zodiac x Rowing Blazers World Timer
ムーブメント情報
キャリバー: STP7-20
機能: 時・分・センターセコンド、日付表示、コーラーGMT(独立GMT針)
パワーリザーブ: 約40時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 26
クロノメーター: なし
追加情報: 1980年代のホットスポットの都市に入れ替えたローイングブレザーズのシグネチャーブルーのワールドタイムベゼル

価格 & 発売時期
価格: 2195ドル(日本円で約31万9000円)
発売時期: すぐに
限定: あり、世界限定282本

ドイツの有名なカメラメーカーから発売された貴重な腕時計の、超限定バージョンだ。

ライカが新しいZM 11モデルを発表してからわずか数カ月後、ブランドはオリジナルのZM 1をベースにした最初のリミテッドモデルを正式ローンチした。新しいモデルはZM 1 ゴールド リミテッドエディションで、オリジナルのZM 1(以前のL 1)を踏襲しており、18Kレッドゴールド製ケースと、ブラウンのグラデーションダイヤルが特徴だ。

50本限定のZM 1 ゴールド リミテッドエディションは、オリジナルのZM 1の機能はそのままに、ケースとダイヤルを変更し、より温かみのある貴重なカラーリングに仕上げた、ブランドの最も熱心なファンのための特別なモデルだ。スタンダードモデルがブラック文字盤、赤のアクセント、スティールケースを備えているのに対し、ZM 1 ゴールドは特別な素材、特にゴールドとチタン(ムーブメントに使用)を使って表現する既存のライカ製品を再現している。

 ZM 1(これはこの記事でL2としてレビューしたZM 2の姉妹モデル)はレーマン・プレシジョン社(Lehmann Präzision)のカスタムムーブメントを採用した41mm径の時計で、時刻、日付、パワーリザーブインジケーターを提供。またパワーリザーブの巻き上げと時刻合わせのどちらを行うか、コントロールする特別な機能も備えている。この機能は第3のリューズに設定された赤いキャップのボタンで制御される。ボタンを押すとムーブメントが停止し、秒表示がゼロに帰零してリューズを回して時刻を合わせることができる。

 リューズの上にあるプッシャーで日付を進め、ワインディングモード(作動中)の場合は白、セッティングモードの場合は赤の小窓が開く。最後にカメラをテーマにしたもうひとつの演出として、ZM 1はカメラのシャッターのブレードを模した中央から開くパワーリザーブインジケーターを備えている。

leica ZM 1 gold
 リューズとプッシャーはチタン製で、ZM 1 ゴールド リミテッドエディションはブラウンのアリゲーターに18KRGのデプロワイヤントクラスプが付いており、価格は2万8000ドル(日本円で約411万8000円)となっている。

我々の考え
ZM 1 ゴールド リミテッドエディションは、ゴールドとブラックのカラーバリエーションを施した1929年発表のカメラ、“IA Luxus”へのオマージュとして製作された。しかし時計製品という観点から見ると、ZM 1とZM 2が発売されたときには感動したものの、時計がカメラのM 11と同等かそれ以上の価格で販売されることに、僕は純粋に疑問を感じていた。さて、数カ月前にライカ本社でZM 1 ゴールドエディションを見たとき、僕はいくつかの数字(とカラスのプレート)も手に入れた。

leica ZM 1 gold
leica ZM 1 gold
leica ZM 1 gold
 結局のところ、ライカはZM 1とZM 2を合わせて年間約500本しか生産しておらず、そのうちの30%はライカ以外の顧客に販売される。ということは、ライカのカメラを持っていない人たちが購入しているということだ。これは特筆すべきことであり、このリミテッドエディションがZM 1と2の年間生産本数の約10%を占めていることを意味する。すでに同意している人から賛同を得ようとしているようなものだ。

 時計のなかでも、ZM 1は非常に印象的なモデルだ。よくできていて、ライカのデザイン言語を踏襲し、カメラ関連のギミックを搭載しているが、それをまったく感じさせない。ケースと文字盤はデザインの顕著な表現であり、特に本当に特別なものを求めるライカコレクターのためのものである。とはいえ、ブラウン文字盤が僕の好みに合っているとは言えない。個人的にはやはりベゼルベースのGMT機能があるブラックとSSのZM 2を今でも気に入っているのだ。

 主な争点は価格だろうが、SS製のZM 1がおよそ1万2000ドル(日本円で約176万6000円)という値段を考えると、このゴールドとチタン製リミテッドエディションのライカからの提示価格には驚かない。50本しかないし、通りすがりの人に提供するような商品でないことは間違いない。この種のライカ製品は、あらかじめ購入資格がある可能性が高く、その魅力はフォーマットと極めて限定された生産数にある。私がヴェッツラー(またしても賛同を得よう)にいたとき、私は少なくともふたりの深いライカコレクターと話をしたが、彼らはゴールド製ZM 1のリストに名前が載ったことをとてもよろこんでいた。

leica ZM 1 gold
 ZM 1、ZM 2が発売されてから(2022年春以降に発売)、極めて短期間で成功を収めたことを考えると(最近のZM 11によるライカウォッチファミリーの拡大は言うまでもない)、ZM 1 ゴールド リミテッドエディションはライカからの真っ当な試みであり、本質的にはブランドの最もアクティブなコレクターのための特別なモデルとして機能するように感じられるのだ。

基本情報
ブランド: ライカ(Leica)
モデル名: ZM 1 ゴールド リミテッドエディション(ZM 1 Gold Limited Edition)

直径: 41mm
厚さ: 14.5mm
ラグからラグまで: 48mm
ケース素材: 18Kレッドゴールド
文字盤: アルミニウム、グラデーションブラウン仕上げ、ゴールドアクセント
インデックス: ゴールドプレートとダイヤモンドカット
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: アリゲーターレザーストラップ、18KRG製ディプロワイヤントクラスプ

leica ZM 1 gold
ムーブメント情報
キャリバー: LH-1001
機能: 時・分表示、スモールセコンド、日付表示、パワーリザーブインジケーター
パワーリザーブ: 約60時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 26
追加情報: リューズプッシャーで時刻設定モードを起動

価格 & 発売時期
価格: 2万8000ドル(日本円で約411万8000円)
発売時期: 本日より世界各地のライカストアで販売
限定: あり、世界限定50本

唯一無二の時計、彫刻のようなデザイン、スイスで手作りされた時計が欲しいはずだ。

モンテカルロ、ビバリーヒルズ、ロンドン、パリ、ローマ、グシュタードの時間を同時に教えてくれる時計を。まあ、数十年遅れてしまったが、ゾディアックとローイングブレザーズは、まさにそんなシナリオにぴったりの時計をつくってくれた。

映画『大逆転(原題:Trading Places)』にてダン・エイクロイド(Dan Aykroyd)が嫌味なほど堅苦しく話していたロシュフコー(映画内で登場したブティックブランド)のような、ある種の薄さと彫刻のようなエレガンスはないが、ゾディアックとローイングブレザーズの新しいコラボレーションは、40mm径×13.6mm厚のステンレススティール製ケースとブルーベゼルを採用し、そこに映画で登場する重要な都市をすべて配した、新しいGMTワールドタイムウォッチだ。

内部には、ソプロード社製キャリバーをゾディアックがSTP7-20にアップグレードした、時・分・センターセコンド、日付表示を備えたコーラー(独立したGMT針)GMTを搭載する。ブラック文字盤にホワイトの24時間トラック、スーパールミノバ、文字盤にはローイングブレザーズのサインが入っており、5リンクのSSブレスレットが付いている。新しいゾディアックをつけて(ダン・エイクロイド演じる)ルイス・ウィンソープ3世のコスプレをしたければ、2195ドル(日本円で約31万9000円)かかる。彼が映画のなかで買った時計よりははるかに安いが、質屋で50ドルで買うよりかは高い。


我々の考え
恣意的であり知る人ぞ知る限定版ということで、これはこれでなかなかおもしろい。スーパーシーウルフGMTは、私のお気に入りの手頃なヴィンテージウォッチのひとつだが、ヴィンテージウォッチの堅牢性を心配していて、かつ新しくて信頼性が高くて楽しいものを求めているなら、ゾディアックとローイングブレザーズの新コラボ以上のものはないだろう。

実機を見たことがないので、新しいSTP7-20ムーブメントが使用中にどのような動きをするのかはわからない。自社製で(というよりゾディアックとSTPを所有するフォッシルグループとそのグループ内)、シリコンとアップグレードされたコンポーネントを追加することにより、強度の高いムーブメントを実現すると同時に、外部の業界プロバイダーに依存するサプライチェーンの問題を取り除くことができる。

それはそれでいいことだし、前モデルのスペックから少し価格が上がったことも正当化されるだろう。結局のところ、この時計は楽しさがすべてであり、私にとってはその条件を満たしている。さて、(映画のデューク兄弟のように)誰かジュースの先物取引をしたい人はいるだろうか?

基本情報
ブランド: ゾディアック×ローイングブレザー(Zodiac × Rowing Blazers)
モデル名: ワールドタイム GMT(World Time GMT)

直径: 40mm
厚さ: 13.6mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック
インデックス: アプライド、ワールドタイムベゼル
夜光: スーパールミノバ
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: 5リンクのSS製ブレスレット、NATOストラップ付属


ムーブメント情報
キャリバー: STP7-20
機能: 時・分・センターセコンド、日付表示、コーラーGMT(独立GMT針)
パワーリザーブ: 約40時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 26
クロノメーター: なし
追加情報: 1980年代のホットスポットの都市に入れ替えたローイングブレザーズのシグネチャーブルーのワールドタイムベゼル

価格 & 発売時期
価格: 2195ドル(日本円で約31万9000円)
発売時期: すぐに
限定: あり、世界限定282本

古い機械式時計の特徴は、ほかのものと一緒に販売されていたことだ。

世の中の販売には商品のほかに広告、付帯サービス、そして、フィルムをプリントしているあいだの待ち時間をつぶすキオスクのように、すでに廃れてしまったものの、さまざまな方法・サービスがあった。生き残っているブランドや製品は、多かれ少なかれ、また高価であろうとなかろうと、時計に対するウォルター・ミティ(自身を有能だと勘違いする)的アプローチとでも呼ぶべきものをサポートするためのサービスを提供していた。機械式時計には、実用的なニーズがないにもかかわらず、我々の“こうありたい”、“こう見られたい”というさまざまな空想を満たすために存在しているのだ。

クォーツ以前が黄金時代だったとは言わないが、1969年以前もそれと同じように、狡猾で、貪欲で、道徳に反する小売業者やいわくつきのブランドはたくさんあったが、平均的な時計所有者の実用的なニーズに対する確かな答えを、大した額にはならない程度の価格で提供することを意図した製品を大量に生産している会社もたくさん存在していた。そのような会社のひとつがシュパイデル(Speidel)社だった。1970年代にテレビを見ていた人は、同社のテレビコマーシャルを覚えているかもしれないが、彼らは有名人を宣伝マンとして起用し、刺激的で記憶に残るようなジングルを見つけるとよろこんで使っていた。そこにいるのは、フリッツ・ラング監督の『M』に登場する子どもを狙った連続殺人犯のハンス・ベッケルト役、あるいは『マルタの鷹(原題:The Maltese Falcon)』に登場するエレガントで反社会的なジョエル・カイロ役を務めたピーター・ローレだ。今、彼を時計ストラップの“破壊者”として見て欲しい。彼はツイスト・オー・フレックス(Twist-O-Flex)ブレスレットで勝負に出たのか? 詳しく見ていこう。

エクスパンションブレスレットはかつての時計製造の定番だった。オメガ 1039、そしてスピードマスターに初めて採用されたスティール製ブレスレットの7077と7912など、オメガ スピードマスターを手首につけておくための最初のソリューションのひとつがエクスパンションブレスレットだったのだ(イアン・フレミングはジェームズ・ボンドに、無名のメタルエクスパンションブレスレットを合わせたロレックスをつけさせたが、ジェームズ・ボンドがすべての決断を正当化してくれるのを待っていたら、我々は1日中ここにいることになる)。フルレングスのエクスパンションブレスレット(伸縮性のある部分はクラスプに近い数本のリンクにだけ採用している)ではないが、Twist-O-Flexブレスレットがそれに近いと思った。そのとき、実はシュパイデルがまだ運営しているのかどうか知らなかったことに気づいた。でも、彼らは営業していたのだ。

これはシュパイデル社製の230186WL エクスパンションブレスレットで、シュパイデルが1959年に提供を開始したTwist-O-Flexブレスレットに似ている。そのころには会社はかなり大きくなっていて、年間数百万ドルの売り上げがあったが、会社の創業はそれよりもっと前のことだった。フリードリッヒ・シュパイデルがドイツのプフォルツハイムで起業したのは、1867年のことである。その後、ロードアイランド州プロビデンスに拠点を移し、Twist-O-Flexだけでなくそのほかの多くのブレスレットや製品を製造し、一時はメンズフレグランスの製造にまで手を広げた(テキストロンの傘下に入っていた時期もあった)。

現在、同社は2009年に買収したチェルシーキャピタルコーポレーション(Cerce Capital LLC)が所有しており、現在もTwist-O-Flexブレスレットの製造と販売を続けている。オメガのブレスレットではないものの、スピードマスターにつけると非常にシャープに見え、1950年代のスピードマスターのデザインにもふさわしい。私の7インチ(約17.7cm)の手首に装着しているのだが、手を加えなくても本当に快適だし、バネ式のエンドピースが付いているため18mmから20mmのラグスペースへも装着できる。私はAmazonで12ドル弱(正確には11.95ドルという超低価格)で購入したのだが、今まで見たレトロウォッチオタクのキットのなかでは最高の部類に入る(編集注記:現在のAmazonでは約1万円、公式サイトだと30ドル前後で販売している)。

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タフで長持ちしそうだし、ぜひ試してみて欲しい(実際、チューダー ブラックベイにもう1本つけて様子を見てみるつもりだ)。これは単なるヒップスター(流行に従う人)の皮肉なウォッチアクセサリーではない。アメリカや時計製造の歴史に残る超クールなアイテムであり、12ドルという価格を出せば誰でもそれを自分の目で確かめることができるのだ。これは素晴らしい再発見であり(父はそれ以外のものにはほとんど時計をつけなかった)、時計アクセサリーとしては最高の価値提案である。

ロンジン コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブ

ヘリテージへのオマージュを大切にしつつも、現代的な感覚を取り入れてアップデート。その歴史にあぐらをかくことのない、進取果敢な今のロンジンらしい新作だ。

ロンジン初の名前を冠するコレクションとして誕生したコンクエストが、1954年にスイス・ベルンのFederal Intellectual Property Office(連邦知的財産庁)にその名が保護されてから今年で70周年を迎えた。これを記念して、歴代コレクションのなかでも特徴的なダイヤルデザインが異彩を放つロンジン コンクエスト パワーリザーブへのオマージュモデル、コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブが発表された。

ロンジン コンクエスト パワーリザーブ(1959年製)。

インスピレーションの源になったのは、1959年に登場したRef.9028のロンジン コンクエスト パワーリザーブだ。この時計はダイヤル中央にふたつの回転ディスクでパワーリザーブを表示するユニークなインジケーターシステムを採用するが、これはロンジンが開発したものであり、現在でも同ブランドでのみで使用される歴史的遺産である。

新作のコンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブのダイヤルは、バトン形のパワーリザーブインジケーターを配置した中央巻き戻しディスク、64から0までの数字とドットによる目盛りを設けた外周の巻上げディスク、そして一番外側の固定されたアウターダイヤルの3つで構成されている。

ユニークなのはパワーリザーブを表示する仕組みだ。リューズ、もしくは手首を動かして回転ローターで香箱車を巻き上げると、バトン形のパワーリザーブインジケーターを配置した中央ディスクはそのままの位置で固定され、外周の目盛りディスクが64を最大値として時計回りに回転する。そして通常時は外周の目盛りディスクの0に向かってバトン形のパワーリザーブインジケーターを持つ中央ディスクのみが時計回りに回転し、パワーリザーブ残量、つまり時計の残り駆動時間を表示する。64から0までの目盛りでパワーリザーブ残量を読み取るこの外周ディスクは、任意の場所でバトン形のインジケーターと合わせることができるが、その動きは動画を見るとより理解しやすいので、こちらもぜひご覧いただきたい。

本作は通常コレクションとして展開されるもので、下地のサーキュラー装飾が透けた絶妙な色合いのアンスラサイトをはじめ、上品で温かみのあるシャンパン、精悍なブラックの3色ダイヤルをラインナップする。

歴代コレクションにも見られ、アイコニックなモチーフでもある細いサークルが彫られたアウターダイアルには、12個の立体的なファセット加工のアプライドアワーマーカー、特徴的なスカイクレーパー(超高層ビルのような形状からこう呼ばれる)形の時・分針をセット。アンスラサイトダイヤルにはローズゴールドカラー、シャンパンダイヤルにはイエローゴールドカラー、ブラックダイヤルにはシルバーカラーのものをそれぞれ合わせて、12時位置には同じカラーリングで台形型の日付表示窓をレイアウトした。

既存のコンクエスト ヘリテージコレクション同様、ケースはサテン仕上げとポリッシュ仕上げを交互に施した38mm径のステンレススティール製だ。ヴィンテージ感を高めるボックス型サファイアクリスタル風防を合わせるが、両面に多層反射防止コーティングを施すことで視認性にも配慮。3モデルはすべて新しいSS製ピンバックル付きのアリゲーターストラップ仕様で、アンスラサイトダイヤルにはグレー、シャンパンダイヤルとブラックダイヤルにはブラックカラーとすることで時計全体の統一感を確保した。


 そんな小振りなケースに収まるのは、ロンジンの新たなエクスクルーシブ自動巻きキャリバーとなるL896.5。前述の伝統的でユニークなパワーリザーブインジケーターシステムに加えてシリコン製ひげゼンマイを持つこのムーブメントは、ISO764規格が定める耐磁性基準(4800A/mの磁気にさらされても日差±30秒以内を維持)を大きく上回る耐磁性を備えており、ねじ込み式のシースルーバック越しにその動きを見ることができる。


Photo by Yuki Matsumoto

 3モデルとも価格はすべて共通で59万5100円(税込)。すでに発売を開始しているが、これに合わせてコンクエスト 初代モデル(1955年製)や、コンクエスト パワーリザーブ(1959年製)をはじめとする貴重なアーカイブモデルを展示するフェアが銀座三越 新館4階 ウォッチと阪急うめだ本店 6階 インターナショナルブティックス ウォッチギャラリーにて期間限定で開催される。

 期間中は新作はもちろんのこと、銀座三越 新館4階 ウォッチではコンクエストやコンクエスト ヘリテージコレクションの多彩なモデルをラインナップ。阪急うめだ本店 6階 インターナショナルブティックスウォッチギャラリーでは、ヘリテージにルーツを持つベストセラーコレクションが揃うという。

銀座三越 新館4階 ウォッチ ロンジン フェア
期間:2024年1月31日(水)~2月20日(火) ※アーカイブモデルの展示は2月12日(月・祝)まで
場所:銀座三越 新館4階 ウォッチ

阪急うめだ本店 6階 ウォッチプロモーション ロンジン ヘリテージウォッチ フェア
期間:2024年月15日(木)~2月27日(火)
場所:阪急うめだ本店 6階 インターナショナルブティックス ウォッチギャラリー

ファースト・インプレッション
今回、オリジナルと新作を同時に見る機会が得られたので断言したい。新作は決して忠実な復刻を狙ったモデルではない。プレスリリースのなかで、“画期的モデルにオマージュを捧げ、デザインとテクノロジーを進化させたのが、この新作”と評しているが、まさにその通り。オリジナルに敬意を払いつつも、現在でき得る最善を盛り込んだ挑戦的なモデルだ。


Photo by Yuki Matsumoto

 まずはダイヤル。新作はオリジナルの特徴をよく捉えている。6時位置のコレクション名を表すフォントは、オリジナルにほぼ忠実で見事な再現度である。一方で、ボンベダイヤルのカーブは新作のほうがより強く、オリジナルではダイヤルに彫られた細いサークルを分断して埋め込まれるようにアプライドインデックスがセットされているのに対し、新作ではインデックスが溝の上をまたがり浮いているように見える。

 加えて、新作では彫られたサークルにも処理が施され、インデックスの立体感がより強調されている。時・分針、そして3・6・9時位置の一部にもスーパールミノバ®を塗布することで暗所でも見やすく視認性が高い。また新作ではオリジナルになかったハック機能と日付の早送り機能が実装されており、実用性が確実にアップデートされている。

 あえて難点を言えば、ラグ幅が19mm(オリジナルは18mm)とスタンダードな数字ではないこと、それと特別な工具なしに簡単にストラップ交換ができるイージークリックが付いていないところだろう。頻繁にストラップ交換をしたいという人は注意しておきたいポイントだ。


左が新作、右は元となったオリジナルだ。並べて見比べると違いがよくわかる。Photo by Yuki Matsumoto

 オリジナルのケース径が35mmであるのに対して、新作は38mmだ。ヴィンテージ好きからはオリジナルと同サイズにして欲しいという声が聞こえてきそうだが、筆者が新作でもっとも感心したのは、その優れたバランスである。確かに3mmほど径が大きくなっているため、手首に乗せると新作のほうが存在を主張する。パッと見のサイズ感はかなり大きくなったが、ラグ・トゥ・ラグは新作が約45mm、オリジナルは約43mmで、ケース厚は前者が約12.3mm、後者が約10mm(新作のケース厚のみ公式による。それ以外は筆者の計測値)。新作はラグを太く短くすることで、オリジナル全体のサイズ感から逸脱しないように配慮されている。

 また、どちらも手首に巻いてみたが、重量バランスがほぼ同じだったのも感心したところだ。これは筆者の私感だが、オリジナルはクローズドケースバックであるのに対して、新作では重いサファイアクリスタルのシースルーバックとすることで手首側の重量が増して時計の重心を下げ、フィット感を高めているように感じた。本作で採用されているシースルーバックは単にムーブメントを見せるというだけでなく、フィット感を高めるのにも効果的で意味のある仕様なのだと思う。


Photo by Masaharu Wada

 ちなみにシャンパンとブラックダイヤルは下地の仕上げが見えないマットな質感だが、これも針とインデックスの存在感を強調し、視認性を高めているようだ。なお、アンスラサイトダイヤルはオリジナルのような下地のサーキュラー装飾が感じられる質感を持つため、オリジナルの雰囲気が好みに近いならアンスラサイトダイヤルをおすすめしておく。

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基本情報
ブランド: ロンジン(Longines)
モデル名: コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブ(Conquest Heritage Central Power Reserve)
型番:L1.648.4.78.2(シャンパン)、L1.648.4.62.2(アンスラサイト)、L1.648.4.52.2(ブラック)

直径: 38mm
厚さ: 約12.3mm
ケース素材: SS
文字盤色: シャンパン(L1.648.4.78.2)、アンスラサイト(L1.648.4.62.2)、ブラック(L1.648.4.52.2)
インデックス: ファセット仕上げの12のアプライドインデックス(L1.648.4.78.2は2Nイエローゴールドカラー、L1.648.4.62.2は5Nローズゴールドカラー、L1.648.4.52.2はシルバーカラー)
夜光: 時・分針、3・6・9時位置にスーパールミノバ®
防水性能: 5気圧
ストラップ/ブレスレット: SS製バックル、L1.648.4.78.2とL1.648.4.52.2はブラックアリゲーター、L1.648.4.62.2はグレーアリゲーターストラップ

ムーブメント情報
キャリバー: L896.5(ロンジン エクスクルーシブ)
機能: 時・分表示、センターセコンド表示、12時位置に台形型の日付表示、ダイヤルセンターに2枚の回転ディスクによるパワーリザーブインジケーター
パワーリザーブ: 約72時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万5200振動/時
石数: 21
クロノメーター認定: なし
追加情報: シリコン製ひげゼンマイ採用

価格 & 発売時期
価格: 59万5100円(税込)

時計市場で注目すべき(予測ではない)4つのこと。

ご心配なく。これはまたそれと異なる予測記事ではないし、いかに小振りな時計が“流行”しているかについて話すつもりもない。2月中旬なんて予測の期限を過ぎているし、そもそも予測を立てること自体あまり好きではない。その代わりに、2024年がおよそ2カ月終わった今、すでに起こっていることと、そして今年中に見られるかもしれないほかのことについて話をしよう。

小振りな時計のトレンドは少し誇張されているように感じるが、ドレッシーなものや金無垢への関心が続いているのは事実かもしれない。スティールウォッチに対する純粋な関心、少なくとも、いいものへの純粋な関心はどこにも消えてはいない。あくまでも該当するのは投機的なものだ。

 その一方で、2024年に期待することについて尋ねると、 人々が口にしたのは“拡大していく”というワードだった。

 最近、GQ誌が数字を分析したところ、実際には時計のサイズは小さくなっていないと指摘した(そのように感じるかもしれないが)。各ブランドはより多くの小ぶり時計をリリースしているが、それらのリリースは既存のカタログの延長線上に過ぎない。チューダーは37mmのブラックベイ54を投入したかもしれないが、より大型のブラックベイはどこにも行かないだろう。

 ブランドは、コレクターがまさにそれを求めていることを認識して、提供するラインナップを広げている。しかし、これはサイズだけにとどまらない。スポーツウォッチの覇権を握る時代は終わった。コレクターはあらゆる収集における種類のコーナーを発見(または再発見)している。カルティエやピアジェだけでなく、もっと小さくてドレッシーなものまでだ。

iwc cloissone enamel dial
もうひとつのエナメル文字盤について、私は考えすぎてしまう。写真は昨年12月に開催されたクリスティーズにて、2万7720ドル(日本円で約420万円)で落札された、美しいクロワゾネエナメル文字盤のIWC。

 このような嗜好の広がりは2024年も続くだろう。2020年や2014年と比べて、時計に関心を持つ人は非常に増え、あらゆる観点から時計に注目している。

 大衆の意識を捉えてしまうほどのニッチさを予測できるほど大胆ではないため、私が興味を抱いているものをいくつか紹介しよう。これらに交渉の余地はない。ジャガー・ルクルトからアメリカンウォッチブランド(エルジン、ハミルトン)まで、アール・デコ全般。そしてエナメル文字盤だ。昨年、サンドロ・フラティーニ(Sandro Fratini)氏のエナメルコレクションのごく一部を見たと書いたが、今でも毎日のように考えている。ほとんどの場合、私は時計を“芸術”だと思っていないが、エナメル文字盤は例外だ。そして最後にジョン・リアドン(John Reardon)氏が何年も前から話している、パテックのエリプスだ。

勝者と敗者
vacheron 222 gold diamonds
 市場に“調整”があったとはいえ、これは単にパンデミック前の水準と成長率に戻ったことを意味する。オークショナーのフィリップスは、これを説明するためにいくつかの数字を示した。

 時計オークション全体で、フィリップスの2019年の登録パドル(入札者)は8097本だった。さらに2023年には1万3747パドルと、70%増加した。一方でフィリップスでの購入者の平均年齢は、同じ期間で集計したところ57歳から50歳にまで減少している。時計は成長を続けるが、どんどん若返っているのだ。2023年のオークションは2022年に比べて若干減少したものの、長期的な傾向では依然として上向きだ。

 しかし、だからといって価格が同じ方向に向かっているわけではない。

breguet chronograph
ブレゲやブランパンなどのブランドによる90年代の複雑時計製造には、未だわくわくさせられるものがある。

 モルガン・スタンレーがWatchChartsと共同で毎月発表している時計市場に関する最新レポートによると、2024年第4四半期の流通市場での価格は7四半期連続で低下した。

 レポートは、“流通市場への価格圧力はあと6カ月続く可能性がある”とし、平均在庫年数を引き合いに出している。これは一部のディーラーが、古い在庫の損失計上をまだ控えていることを示唆している。これにより、少なくとも2024年前半は価格が下落し続ける可能性があるのだ。

 地球上で最も有名な人物が、文字どおり首に時計を巻いているのだから、時計への関心はどこにも行かないような気がする。そして価格は下がり続けており、おそらく今年のどこかの時点で底を打つだろうから、それは時計に興味のある人にさらなる購入機会を提供することになるかもしれない。

cartier bamboo coussin
見苦しいと思うかもしれないが、カルティエ バンブー クッションは明らかに勝者である。この例は最近、LoupeThisで6万7000ドル(日本円で約1005万円)で落札された。

longines 13zn
一方でスペシャルなロンジンへの関心も依然として高い。この13ZNは今週、小さなオークションハウスにて、3万6000ドル(日本円で約540万円)で落札されている。Image: Rich Fordon

 ちなみに価格は全面的に下がっているというわけではない。特別な時計にはまだまだスペシャルな価格がついている。以下一例だ。

1991年製のカルティエ パリ クラッシュが先週、15万2800ユーロ(日本円で約2475万円)で落札。ピーク時より下がったものの、それでも非常に好調な結果だ。
ロンジン 13ZN “ドッピア・ランチェッタ”が小さなオークションハウスにて3万6000ドル(日本円で約540万円)で落札され、話題を呼んだ。
別のカルティエ “バンブー”は6万7100ドル(日本円で約1005万円)で販売された。
Artcurialが2024年に初めて販売した時計は、ネオヴィンテージのブレゲとブランパン(パテックとロレックスも)を中心に、ほぼ全面的に好調な結果を収めた。
 しかしすべてが右肩上がりなわけではない。これらのオークションの結果を見てみると、不振の時計も目につく。準備期間中、買い手は時計を買う理由を探した。しかし不確定要素が多いために、コレクターたちは時計を買わない理由も探している。それはコンディション、価格、または単に雰囲気が悪いだけであったりだ。

“今は普通のSS製デイトジャストを手放すことはできない”というのが、私が話を聞いた人たちの共通の意見だった。今、時計を売るのは誰にとっても簡単なことではない。一般的な量産モデルの場合は特にだ。

 全面的に、この二極化は続くだろう。大手ブランドは今後も成長を続け、最も重要なモデルの需要が増加する。同じことが大手独立時計メーカーにも起こり、残りのメーカーは遅れを取るだろう。

再三にわたり話題に上るオメガについて
vintage omega speedmaster
ヴィンテージオメガ、あなたがいなくて寂しいよ!

 昨年、オークションの世界ではあまりにも多くの論争が起きたが、最大の論争は、フィリップスが販売しレコードを樹立したトロピカルオメガ スピードマスターがフランケンウォッチであったと判明したことだ。それ以来、スピードマスター市場は生命維持装置につながれている。時計オークション史上最大の論争を呼んだ1本が市場を冷え込ませたのだ。オークションハウスがリスクを冒してスピードマスターを出品しても、多くの場合、売れ行きが悪かったり売れなかったりする。

 これは完全に理解できるが、オメガの話をするのがちょっと恋しい。ヴィンテージスピーディ、そしてより広い意味でのヴィンテージオメガの時計は本当に素晴らしいのだ。そのカタログも実に多彩だ。スピーディからシーマスター、コンステレーション、30T2まで、あらゆるタイプのコレクターが楽しめる。

 2024年、私たちは再びオメガについて語るだろう。同ブランドのヴィンテージカタログが永遠に無視されるには、あまりにも素晴らしいものばかりなのだ。

ガラスの国のアリス

 最後に、これは予測というより希望に近い。ジャーナリストのクリス・ホール(Chris Hall)氏は最近、現代のブランドがもっとうまくやれる分野として“透明性”を挙げた。私の希望は、ディーラーやオークションハウスもこのことに着目することだ。

 昨年のオークション論争の多くは透明性を高めることで解決できたか、少なくとも緩和はできたはずだ。より優れた状態のレポート、財務上の利害関係の明確な開示など。

 一方でもし2024年、あなたが自尊心の高い時計ディーラーならウェブサイトに自分の名前、それと理想であれば写真も載せた、シンプルな“アバウト”ページの開設を求めるのは高望みだろうか? 私はしばしば、操作の背後にいる実際の人間を把握するために、P.I.(計画・実施の過程に関係する利用者に情報を公開したうえで、広く意見を求めてそれを反映する役割)を演じていることに気づく。

 また、Instagramが素晴らしいのは知っているが、ディーラーの販売やリスティングの歴史的なアーカイブもあれば、物事が横道に逸れても(また実際にそうなるのだが)、実際に記録が残るからいい。最後に、あまりにも多くのディーラーが“コレクター”を装っている。私たちは皆、時計が大好きで、情熱と職業のあいだに線を引くのが難しいことも理解している。時計を売買してお金を稼ぐのは構わないが、正直に言って欲しい。たくさんやって利益を出そうとしているのであれば、コミュニティに対して透明性を持つべきだ。なぜなら、そうすることで別の義務や期待が生じるからである。

カルティエはアイコニックな(と、本気で言っている)パンテール ドゥ カルティエを再リリースした。

告白しなければならないことがある。女性用の時計は小さすぎると文句を言い、36mmはどんな女性にもぴったりのサイズだと主張してきたわたし、カーラ・バレットは、小さな時計への愛を再発見した。わかっている、偽善だってことは! しかしファッションやスタイルとはそういうものだ。波はあるし流れもある。それは時計も例外ではない。この小振りウォッチへの新たな関心について言えば、原因がひとつある。それは新しいパンテール ドゥ カルティエだ。

パンテール ドゥ カルティエの新作トリオ。左からツートンのスモール、スティールのミディアム、ローズゴールドのミディアム。

 この1月(2017年1月)に、カルティエはアイコニックな(と、本気で言っている)パンテール ドゥ カルティエを再リリースした。この時計は、1980年代の名だたる顧客に向けて販売されていたマスト ドゥ カルティエ時代に初めて発表されたもので、それ以来、常に定番ラインとして位置付けられている。この新しいバージョンを見たとき、わたしはすぐにこの時計を理解し、一刻も早く手首につけてレビューしなければならないと思った。

ちょっとした歴史
 タンクと違い、パンテールの知名度はそれほど高くない。華やかな全盛期である1983年に初めて発表されたパンテールは、その洗練されたデザイン、隠しクラスプ、連結されたリンクブレスレットが賞賛された。そして、男女問わず名だたるセレブリティのあいだで瞬く間に大ヒットし、その著名なオーナーのなかにはピアース・ブロスナン(Pierce Brosnan)やキース・リチャーズ(Keith Richards)などのセレブもいた(下のブロスナンの写真が好きでたまらない)。スタジオ54が街で最もホットなナイトクラブであり、華やかさがすべてだった時代に、この時計がヒットしたのも当然だろう。

 このような時計の影響を十分に理解するためには、当時の状況を知ることが重要である。1964年にピエール・カルティエ(Pierre Cartier)が亡くなったあと、彼の2人の子どもと甥が家業の売却に乗り出した。その結果、会社はカルティエ・ニューヨーク、カルティエ・パリ、カルティエ・ロンドンの3つの半独立企業へと分割され、それぞれが異なる時期に異なる製品を生産するようになる。これによりブランド戦略にばらつきが生まれ、それぞれの拠点が独自性を発揮できるようになった。その一例として、カルティエ・ニューヨークが1971年に金メッキのSS製タンクを150ドル(当時の相場で約5万3000円)で販売し始めた。当時としては前代未聞のことであり、多くの長年の愛用者の目にはブランドイメージを大きく損なうものに映った。

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pierce brosnan watch
パンテール ドゥ カルティエを着用するピアース・ブロスナン。Photo: courtesy of Revolution

keith richards and mick jagger watches
パンテール ドゥ カルティエを着用したキース・リチャーズ。奥にいるのはミック・ジャガー(Mick Jagger)。Photo: courtesy of Revolution)

 当時、カルティエは究極のラグジュアリーブランドであり、1970年代までは超高級品かつ天文学的な価格で、非常に高品質なものを製造していたと覚えておく必要がある(例えばミステリークロック、個性的なシャッターウォッチ、華麗なシガレットケースなどを手がけていた)。そのため金メッキの時計を売ることは、たとえその時計が商業的にかなりうまくいったとしても冒涜的な行為であった。イメージは損なわれたものの、カルティエが投資家グループに買収されたあと、この安価な時計のアイデアは、1977年のマスト ドゥ カルティエ コレクションにつながった。同コレクションはジョゼフ・カヌイ(Joseph Kanoui、投資家グループを集めてカルティエ・パリを買収した)、アラン・ドミニク・ペラン(Alain Dominique Perrin)、ロベルト・ホック(Robert Hocq)の発案によるものである。コレクションはさまざまなシェイプで展開され、また金メッキされたシルバーで生産されていたため、よりリーズナブルな価格設定を実現していた。それはブランドを再構築し、より幅広いユーザーにアピールするための方法であり(今日、モンブランやタグ・ホイヤーがスマートウォッチを製造しているように)、そしてクォーツムーブメントが登場したことで、それはより一層身近なものになった。

panthere de cartier medium steel
SS製で、独特のねじ込み式ベゼルを備えたミディアムサイズのパンテール ドゥ カルティエ。

 ではこれがパンテールと何の関係があるのか? 念のため言っておくと、パンテールはマスト ドゥ カルティエのコレクションには含まれていない。だからこそ、特定の顧客層には大ヒットしたのだろう。さらに、当時は市場に出回る新鮮なデザインがそれほど多くなかったため、パンテールはさらに魅力的に映ったのだ。しかし1983年にパンテール発表というタイミングで最も興味深いのは、シンプルなレディスウォッチでありながら、手頃な価格の時計が増えつつあった時代にカルティエがリリースしたものであり、世界市場で足場を取り戻そうとしているヘリテージメゾンにとっては救世主的なコレクションだったに違いないということだ。ミニサイズ、スモールサイズ、ミィデアムサイズ、ラージサイズが用意され、ツートン、イエローゴールドカラー(1991年にはSSモデルも登場している)が発売された。しかしパンテールは2000年代初頭に姿を消し、カルティエのラインナップに穴を開けたまま現在に至っていた。

新しいパンテール
 パンテールは、初代サントスをベースにしたかのようなレディスウォッチだが、カルティエはそのような説明は一切していない。ただサントスと同じようなスクエアケースに、8本の小さなネジで固定されたベゼルが特徴だ。クラシカルなフラットホワイトの文字盤に細長いローマ数字、そして10時の“X”には秘密の“カルティエ”シグネチャーをあしらっている。

 デザインは大胆だが控えめであり、実用的である。これが成功の秘訣であり、多くの人を魅了する理由なのだ。サイズはスモールサイズ(22mm)とミディアム(27mm)があり、RG、YG、SS、ツートンカラーで展開。ほかにもブラックラッカー仕上げのリンクがついたものなど、いくつかのバージョンがあるが、それらはハイジュエリーの領域に入っている。今回のレビューでは、SSのミディアムサイズに焦点を当てているが、わたしにとっては最高の普段使いの選択のように思う。

cartier panther steel watch
クラシカルなホワイト ダイヤルには、10時位置の“X”に隠れたシグネチャーをはじめ、カルティエに求められる小さなデザイン上の工夫が随所に施されている。

 これは一般的なスクエアケースに見えるかもしれないが、そうではない。スクエアウォッチはニッチな層しか魅力を感じないことが多いが、パンテールはそのデザインの複雑さと精巧さによって、より普遍的な魅力を演出している。特に湾曲したエッジと、すぐにそれとわかるねじ込み式ベゼルは、この時計を際立たせているものだ。

 ダイヤルは角が丸みを帯びたSS製スクエアベゼルで囲まれており、先ほど述べたように8本のネジで固定されている(裏蓋にも同じものがある)。ケースデザインで興味深いのは、カーブしたラグとリューズガードである。どちらも見た目は流動的で、取るに足らないものに感じるかもしれないが、時計全体のデザインを引き立てている。これらがなければ躍動感はまったく感じないだろう。

cartier caseback
パンテール ドゥ カルティエの裏蓋には、ベゼルと同様に8本のネジを配している。

 この時計で2番目に重要なのがブレスレットだ。このブレスレットが発売された当初、人々は汎用性と、その洗練された外観を称賛した。サテン仕上げの大きなセンターリンクを持つパンテールのブレスレットは、工業的な雰囲気を持つタンクのブレスレットと異なり、小さなレンガのようなリンクでつながれている。これらはレンガパターンに配置され、リンクの上部と下部で内部的に互いに取り付けられている。さらに重量が軽減されたリンク自体がカーブしているため、より多くの動きが可能になり、快適に着用できるようになっているのだ。

panther cartier steel on the wrist
SS製のミディアムサイズのパンテール ドゥ カルティエは、しなやかかつ軽量なブレスレットのおかげもあり、常に優れたつけ心地を提供している。

 この時計にはカルティエの定番のクォーツムーブメントを採用している。同社はコストを抑え、コレクションを可能な限り入手しやすく、商業的に成り立つものにしたいと考えていた可能性が高いため、この選択はわたしにとって驚きではない。覚えておいてほしいのは、わたしたちが話しているのはニッチな製品ではないということだ。そのためこの時計がクォーツであることは少しも気にならない。高級時計はこの時計が目指すものではないし、この時計がそうでないと装ってはいないことを高く評価したい。

手首の上で過ごしてみて
 パンテールで最も気に入っているのは、かっちりとした装いの女子大生にも、流行に敏感なファッショニスタにも同じように似合うことだ。誰にでも着こなせるタイムレスな品質で、さまざまな素材とサイズで展開されている。どんなにシンプルに見えても、この時計を自分だけのものにすることができるのだ。

 わたしのお気に入りは一辺が27mm径の、SS製のミディアムサイズだ。RGも美しいが、SSのほうが汎用性が高く、カルティエの最も人気のあるモデルになりそうだ。価格は4600ドル(編注:当時の販売価格は税込で51万300円)と、カルティエウォッチのなかでは低価格帯の部類に入る。

cartier de panthere on the wrist
ミディアムサイズのSS製パンテール ドゥ カルティエは、合わせるものによってカジュアルにもドレッシーにもなる。

 手首に巻いた感触は最高だった。それほどシンプルだということだ。スポーティで洗練されており、エレガントで着用しやすい。これをつけてテニスをしたり(そうできるよう心の準備をしている。このような時計はそう扱うべきだ)、あるいはあまり招待されないブラックタイのガラパーティに出席したりする自分が目に浮かぶ(メットガラ、君のことだ)。この時計と一緒にいる時間が長くなればなるほど、当初発表されたときに人気を集めていた理由がわかった。

Panthère de Cartier steel
リューズのサファイアカボション、先の尖ったリューズガード、ケースのカーブなど、ちょっとしたディテールがこの時計の特徴である。

 先ほども言ったように、ブレスレットがこの時計の魅力の50%を占めている。見た目ももちろん素晴らしいが、つけやすさも重要である。リンクがどのように配置され、またどう相互に接続されているかによって、ブレスレットは手首を挟むことなくフィットし、さらにクラスプの近くにあるスクリューネジでリンクを簡単に調整できる。デプロワイヤントクラスプはオリジナル同様見えないようになっており、片手で簡単に外すことができる。唯一の不満は、ブレスレットのエンドリンクがラグの端ではなくケースに接続されていることだ。これによりラグがほんの少しはみ出し、奇妙な出っ張りができることもあるが、たいしたことではない。

panthere de cartier up close
ダイナミックなSS製ケースとクラシックな文字盤をクローズアップ。細部にまでこだわりが感じられる。

競合モデル
 では、SS製のパンテール ドゥ カルティエに対抗できる時計は、ほかにどんなものがあるだろうか。いくつか候補がある。一番わかりやすいのはカルティエ タンク フランセーズだろう。

large cartier tank francaise
SS製のカルティエ タンク フランセーズ ラージ。

 タンク フランセーズも、ブレスレットが付いたカルティエのスクエア(のような)型SS製ウォッチという意味で似ている。その美しさは熟練された目には審美的にまったく異なるかもしれないが(サテン仕上げ、重厚感のあるブレスレット、レクタンギュラーケースなど)、明らかに同じ系統のものである。しかし、これらの時計は主に審美的な理由で人々に販売されており、その点では、誰かがどちらか一方を望む例がたくさんある。手首につけてみると、タンクとパンテールはまったく違って見え、後者のほうがずっと女性らしい。なお、ミディアムサイズのSS製タンクの価格は3750ドル(当時の相場で約40万7000円)で、同等のパンテールは4600ドルだ。結局のところ、これは個人のスタイル(それと850ドル)にかかっているということだ。

rolex oyster perpetual 36mm
ロレックス オイスターパーペチュアル 36mm。

 市場に出回っていて、パンテールに対抗できるもひとつの時計は36mmのロレックス オイスターパーペチュアルだ。オイスターパーペチュアルはパンテールよりもはるかにスポーティで、価格も5400ドル(当時の相場で約58万7000円)と高いが、SS製ブレスレットが付いたデイリーウォッチとして、役割を簡単に果たすことができるだろう。この時計はまた、自動巻きムーブメントとロレックスの名前の両方をもたらすが、どちらも特定の顧客にとっては明らかに状況を一変させるものだ。

rolex lady datejust
SS製のロレックス レディデイトジャスト 28mm。

 よりいい比較は、2017年のバーゼルワールドにて、3つの新しいバージョンで再発表されたSS製レディデイトジャスト 28mmかもしれない。ピンク文字盤とローマ数字のSSバージョンは、パンテールの繊細な女性らしさに近づくかもしれないが、これもまたカルティエ特有の美学とはかけ離れている。希望小売価格は6300ドル(当時の相場で約68万5000円)と、価格帯も高めだ。

 これらの比較が少し異例で、直接競合しているように感じられないとしたら、それは本当に競合するものが何もないからである。SS製のパンテールはほかでは見られないカルティエのスタイルがすべて詰まっている。正直に言うと、カルティエの時計が欲しい人のほとんどは、カルティエの時計だけが欲しいのだ。人々が購入しようとしているのはスタイル、ブランド、そして歴史なので、ほかのものでは満足できない可能性が高い。

ノダス×レイブンのリーズナブルなGMTウォッチの新作情報です。

これは志を同じくする2つのアメリカンブティックブランドがコラボレートした、お得感満載のフライヤーGMTだ。
 

ご存じだろうか? カリフォルニア発のノダス(Nodus)ウォッチとカンザス発のレイブン(Raven)ウォッチというふたつのスポーツウォッチ専門ブランドとのコラボレーションにより、手頃なトラベルウォッチカテゴリーにまた新たな時計が加わったことを。そこで僕、ジェームズ・“GMT”・ステイシーが、その優れたエントリーモデルについて紹介しよう。結果、ノダスのコントレイルコレクションと、レイブンのトレッカーコレクションから大きなインスピレーションを得て、各ブランドのコアラインナップの要素を組み合わせた時計が誕生した。このふたつのフォーマットは、カリフォルニアを目指して西に向かったアメリカの探検家たちに敬意を表した、超絶マットなトラベルウォッチに仕上げられている。スーパーコピー 激安その名もノダス トレイルトレッカーだ。

 トレイルトレッカーの大まかな特徴から述べると、直径39.5mm、厚さ11.8mm、ラグからラグまで46.6mmのスティール製ウォッチである。200mの防水性、ドリルラグ、サファイア風防、そして堅牢なSS製ソリッドバックを備えたこの製品は、ツータイムゾーンを管理できるアドベンチャーウォッチというロレックスの考えからインスピレーションを得ていることは明白だ。

 定評ある既存のプロポーション、そしてベゼルのデザインからの逸脱は、本モデルにマットなグレートーンのDLC仕上げを全面的に採用しているところにある。この加工により、ケースと付属のSSブレスレットの両方が保護・彩色されるのだ。さらに24時間表示の固定ベゼルには、セラコートセラミックコーティングが施されている。カラーリングは非常にフラットな深みのあるグレーで、ノダスが“クレイ”と呼ぶ、砂のようなブラウンのカラーリングがほんの少しだけ含まれている。同処理は時計を手首につけた際、チタンを誇張したような(この時計には基本的に光沢がまったくない)独特の体験をもたらすほか、視認性の高い文字盤デザインのための土台を形成している。
 僕は過去に、ダイバーズウォッチであるトレッカーコレクションをはじめ、レイブンのスポーツウォッチと長く過ごしていたことがある。彼らは過去10年間にわたって、“マイクロブランド”の概念を確立するのに貢献した時計を提供し続けており、僕は今でもこのブランドのファンであり続けている。数年前、マイクロブランド(もしかしたら“ブティック”ブランドという表現がぴったりかもしれない)の世界の変化を考察するために、このブランドを取り上げたことさえある。

レイブン トレッカー 39。
 一方ノダスについてだが、僕は過去数年間にわたってこのブランドを追跡してきた。以前のミートアップやWindUpでかなりの数を見かけたが、このブランドの時計を扱った経験はほとんどない。とはいえノダスは、“The Smoking Tire”や“Random Rob”、また“Watch Clicker”といった、熱狂的なファンとコラボレーションをして、適正な価格かつ楽しい時計を製造し、ファンを獲得してきた。
 レイブンと同じように、ブティックブランドの時計を好む方に向けて、ノダスは500ドルから1000ドル(日本円で約7万4000~14万8000円)のカテゴリーにしっかりと位置しながら、デザインとカラーバリエーションを豊富に展開しているとお伝えしておこう。両ブランドとも、おもしろくなりそうなコラボレーションに積極的であり、価値ある製品に注力し続けているため、今後も視野に入れておくメリットはあると言える。

 トレイルトレッカーの話に戻るが、この時計の内部には人気上昇中のミヨタ 9075を搭載している。これは振動数2万8800振動/時の自動巻きムーブメントで、ローカル(メイン)時針を単独セットすると時計の精度や計時を妨げることなく、新しいタイムゾーンにアップデートができる。このムーブメントはシチズングループ傘下のミヨタで作られたもので、シチズン シリーズエイト GMT(税込で22万円)を筆頭に、ブローバ オーシャノグラファー GMT(1295ドル~、日本円で約19万1000円)、ロリエ ヒュドラ SIII(599ドル、日本円で約8万9000円)、そしてヴェアー、リップ、ボルダー、トラスカといったブランドの選択肢(ほんの一部)など、最近エントリーGMT市場に参入したいくつかのブランドで採用されている。
 そんななか、ノダスはその9075を進化させ、ムーブメントを社内で調整し、日差±8秒を実現させた。自宅にタイミングマシンがあるので、受け取ったサンプルで数値を試してみようと思ったのだが、時計を完全に巻いた状態で6つの姿勢位置で計測したところ、平均で日差+7秒だった。悪くない結果だ。

 固定式ベゼルを持つトレイルトレッカーは、ロレックス エクスプローラーII(特に16570だろう)からインスピレーションを得ていることが明らかで、9075に派生した機能性が反映されている。つまりツータイムゾーンを追跡するのに最適なレイアウトと、特定のタイムゾーンから別のタイムゾーンに変更するための特別な機能を備えているのだ。回転ベゼルが、GMTの使い道をどう向上させてくれるのか、詳しく知りたい方はGMTベゼルの使用方法に関するこのガイドを参照して欲しい。トレイルトレッカーのベゼルは回転しないので、機能はこれ以上ないほどわかりやすく、旅行に焦点を当てたこのモデルは、6時位置の日付表示によってその機能を補完している(9075のおかげで、ローカル時針に連動して両方向に調整可能だ)。
 ケースデザインは滑らかで、柔らかなファセットのラグ、突出したリューズガード、ローレット加工をしたブラックリューズを備えている。短いドリルラグは、工具不要なクイックレバーのバネ棒を備えた、隙間のないしっかりとしたエンドリンクを介してブレスレットとつながっている。ブレスレットリンクは細く、快適に着用できるよう連結部分が柔軟で、さらに片側ネジ式(ブレスレットのサイズ調整が非常に簡単にできる)となっている。ラグ幅20mm、クラスプ16mmとテーパーがかったソリッドSSにセットされたクラスプには、プッシュボタン式のクロージャー(留め具)と、NodeXと呼ばれる、完全統合された工具不要のマイクロアジャストシステムを搭載している。

ノダスが開発したNodeXというマイクロアジャストシステムのボタン。その左側に延長できるパーツ部分が見える。
 このシステムはノダス独自のものだが、ほかのブランドへもライセンス提供が可能である。シンプルなボタン操作ながら、クラスプに完全に組み込まれており、10mmの調整が可能なスライド式のエクステンションを解除できる。チューダーのT-Fitシステムよりも使いにくいということはないし、ブレスレットにこの機能を追加してくれるブランドに感謝し続けるのは僕だけではないはずだ。
 僕は何年もブレスレットを避けてきたが、フィット感を細かく調整できるこのコンセプトにより、ブレスレットを身につけるという行為を快適なものにしてくれた。

 少し余談になるが、ブティックブランドは、大規模なブランドでは一般的に不可能な価格とスピード感で真のマニア向け製品を提供して市場を拡大してきたが、これらのブランドが提供する製品が多様化することで、同カテゴリー内でも進化を続けてきた。核となる価値のひとつは、大規模ブランドではしばしば無視される、多くの小さな配慮にある。これはラグに穴をあけたり、ブレスレットに片側ネジを使ったりといった単純なものから、クイックリリースブレスレット、工具を使わないマイクロアジャストシステム、セラコートのような特殊コーティングにまで発展している。



 これらのデザイン要素は、多くのブランドで見られるものではあるが、トレイルトレッカーはその要素を備えるだけでなく、多くの高級SS製スポーツウォッチのブレスレットを買うよりも低価格で提供されている。確かに、これらの要素は平均的な時計購入者にとっては重要ではなく、琴線にも触れないかもしれない。しかしあなたや僕、そして僕たちの(主にオンライン上の)友人といった特定の愛好家にとっては、これらの小さな要素が、ひとつの時計と別の時計を比較検討する際に大きな影響を与える可能性がある。ディテールが重要であり、マイクロ/ブティックブランドの市場が、時計をより使いやすくするための機能を惜しみなく搭載し、価値を提供し続けている姿勢が僕は大好きなのだ。それはさておき、本題に戻ろう。
 手首に装着すると、ノダス トレイルトレッカーはそのプロポーションを最大限に発揮してくれる。比較的軽量でありながら、ノダスの文字やレイブンのロゴが入った視認性の高いマットな仕上がりのダイヤル。そして文字盤の端まで届く、宇宙からでも見えるほど特大なオレンジイエローのGMT針は独特のシェイプを持ち、タクティカルな雰囲気や要素を提供している。

 大型のアプライドインデックスと、それにマッチするサテン仕上げの針を合わせたトレイルトレッカーの夜光には、暗所で青みがかった強い光を放つ、スーパールミノバBGW9を使用。6時位置に配された枠付きの日付表示は、インデックスの代わりとなるよう、ホワイトのデイトホイールにブラックの数字を用い、視認性を高めている。
 僕の7インチ(約17.7cm)の手首に合うサイズのトレイルトレッカーは140gで、特にNodeXのマイクロアジャストシステムのおかげでかなり快適につけられる。フラットリンクと短いラグも、着用時にバランスを保ってくれていた。さらに12時間針と24時間(GMT)針のコントラストにより、タイムゾーンを読み取る際のシンプルさをより高めているのもよかった。

 時計には2つ目のストラップオプションとして、バリスティックファブリックを使用したオリーブグリーンのNATOスタイルストラップが付属している。僕は市場で提供されている、ほとんどのNATO風オプションを試しているが、このストラップと似たようなものに出合ったことがない。柔らかくしなやかでありながら、しっかりとした作りで、カジュアル感がありとてもつけ心地がいいのだ。ノダスとレイブンの完璧なパッケージに加えられた、素晴らしいオプションである。
 結局のところ、前述したロリエと同様に、トレイルトレッカーに関してほとんど不満はない。確かに、個人的にはロレックスを意識していないベゼルデザインを選んで欲しかったが、文字盤のデザインとフルグレーのカラーリングでそのようなつながりを排除しており、もうひとつ似たような別の時計、チューダー ブラックベイ プロ(これもエクスプローラーIIにインスパイアされた時計だ)との距離も置いていると感じる。

 とはいえ定価875ドル(日本円で約12万9000円)のトレイルトレッカーが、ベゼル関連でロレックスに似ているとしても、本当に世も末になるのだろうか? あるいは同じ(少なくとも似ている)ロレックスを連想させるチューダー? いつものように財布事情をベースに投票するのは自分次第だ。しかし僕は16570のエクスプローラーIIを持っていて、似たようなベゼルと見比べたが、それほど気にはならなかった。
 またノダスはロレックスの2倍の防水性能を持ち、チューダーと性能が同等でありながら、それより約3mm薄くなっていることも忘れてはならない(しかも価格は875ドル)。しかもトレイルトレッカーは限定版ではないため、この値段も短期間のみの予約価格ではない。時計は3月15日午前9時(太平表標準時)にノダスを通じて発売される。最近のブティックウォッチにはよくあることだが、生産は数回に分けて計画しているとのこと。これは購入希望者としっかりコミュニケーションが取れていれば、おおむね許容される方法である。

 斬新なムーブメントの利用可能性によって加速するブティックウォッチシーンの現代的な解釈として、トレイルトレッカーはノダスとレイブン、両チームの才能と展望を効果的に表現したプラットフォームだ。
 トレイルトレッカーは文字どおり熱狂的なファン向け製品(つまり超特定の層へと訴えかけるような時計)として、優れたスペック、意味のあるディテール、旅行にも適した機能性、そして希望価格に見合った確かな価値を持つ価格帯のスポーツウォッチが好きな層にアピールする。万人向けの時計か? それは違う。ただそれがマニアの選択の楽しみでもある。この場合、僕は確かに超特定の層のなかにいるし、皆さんの多くも僕と同じだと思う。