2025年05月

ブザンソン天文台クロノメーターを取得した、新生タカノのファーストモデルを手がけるのは、

時計愛好家にとってビッグニュースだ。タカノが復活を遂げたのだ! …のっけから興奮気味に書き出してしまったものの、“タカノってなんだ?”という方も少なくないかもしれないので紹介したい。

タカノはかつて存在した日本の時計ブランドだ。1899年に設立された高野時計金属製品製造所を前身としており、1938年に高野精密工業と改称。1957年からタカノの名で腕時計の製造を開始したが、長くは続かなかった。1962年に理研光学工業(現リコーエレメックス)のグループ会社が事業を継承したことで、時計ブランドとしてのタカノは終焉を迎え、その後はリコーの名のもとで時計製造を続けた。


ロレックス スーパーコピー腕時計 代引きの製造開始から5年と経たずにリコーに吸収されてしまった理由だが、1959年9月に紀伊半島から東海地方を中心に襲った伊勢湾台風により工場が打撃を受けて、というのが通説だ。だが、かねてより過大な設備投資などをしていたということも背景にあったとも言われている。

1958年に創刊した『TAKANO REPORT No.1』に掲載されたイメージ写真。
そんなタカノでは世界的な高級時計を目指すことをコンセプトに掲げ、1957年に“タカノ銘での”ファーストモデルとなる200シリーズを送り出した。“タカノ銘での”とわざわざ強調したのは、実は54年にタカノ初の腕時計が製造されているからだ。その時計は“ラコ(ラコーとも)型”という愛称で呼ばれているが、これはダイヤルにドイツの時計ブランドであるラコの名前が入っていることに加えて、ムーブメントにドイツ・ドローヴェ社製のムーブメントを搭載していたからだ。これには当時の高野精密工業が54年からラコの腕時計の組み立てを請け負っていたことが背景にある。
そうした経緯もあり、タカノの名で初めて製造された腕時計には面取り仕上げや耐震装置に変更はあるものの、ほぼドローヴェの機械といって差し支えのないのムーブメントを同社のライセンスを取得して製造したと言われている。下の2枚の写真を見比べてみると、それがよく分かる。

ラコ型に搭載されたムーブメント。“LACO”の名がしっかりと刻印されている。キャリバーはドローヴェ D522だ。

200シリーズに搭載されたムーブメント。“TAKANO”の名が入り耐震装置も異なるが、ドローヴェのCal.D522とそっくり。

新生タカノの復活を主導し、腕時計の製造を手がけるのは、浅岡 肇氏が率いる東京時計精密だ。復活に際して、同社はタカノの商標を持つリコーエレメックスからライセンスを取得。満を持して先日発表されたのが、シャトーヌーベル・クロノメーターだ。

当時のタカノが目指した“世界的高級時計を目指す!”というコンセプトを受け継ぎ、浅岡氏が出した答えが日本初のブザンソン天文台クロノメーターウォッチだ。ブザンソン天文台のクロノメーター検定に合格したのは、国産時計としてはこのシャトーヌーベル・クロノメーターが史上初となった。

ケースバックから見える蛇の頭の刻印(回転ローターに小さく入れられている)は、ブザンソン天文台クロノメーター合格品の証。ケース径は37mmで、ケース素材はステンレススティール。高級時計にふさわしい仕上げとして、ケース全面に鏡面のザラツ研磨を施している。ダイヤルはいかにも浅岡氏らしいデザインを採用する。象徴的なのが超高層ビルディングを模したスカイスクレーパー針。その針先は、ボンベダイヤルや風防のカーブに沿うようにカーブを描くが、これらのディテールはクロノ ブンキョウ トウキョウの時計にもよく見られるもので、浅岡氏らしいポイントだ。

ダイヤルはホワイトとブラックの2種類。前者はベージュの表地とブラウンの裏地、後者はブラウンの表地とブラックの裏地を合わせたレザーストラップを合わせる。気になる価格は88万円(税込)。限定モデルではないが、購入は抽選販売方式で、2024年8月中旬からの一般発売を予定している。

ファースト・インプレッション

天文台への時計の搬送には、磁気シールド素材であるパーマロイ合金で内部を覆ったトランクが用意された。ちなみにこれは1個のみ。というのも、パーマロイ合金がとんでもなく高価なため、おいそれと作れないからだそうだ。
先日催された新生タカノ披露のレセプションに参加したのだが、会場でのプレゼンテーションでは、浅岡氏がいかにこだわり抜いてシャトーヌーベル・クロノメーターを手がけたのかが、よく分かった。ムーブメントは2万8800振動/時の国産自動巻き、ミヨタの自動巻きムーブメントをベースに東京時計精密でクロノメーター仕様に調整されたものを搭載している。浅岡氏はミヨタベースにした理由として、国産ムーブメントをベースに用いることにこだわりを持っていて、国産ムーブメントの価値向上を願っているからこそ、今回の企画に至ったのだと話す。

ちなみに現在クロノメーター検定を行っているのは、スイスだとCOSCとTIME LAB、ドイツのグラスヒュッテ天文台、そしてフランスのブザンソン天文台。そのなかで、自国以外の時計を試験で受け入れているのがブザンソン天文台だ。日本の時計ブランドが、なぜフランスのブザンソン天文台クロノメーターを取得するのかというのは、これが理由である。

試験はどのように行われるのかというと、ブザンソン天文台ではケーシングされた状態、つまり製品の状態で実施される。これがかなりハードルが高い。というのも、ムーブメントに対して検査が行われるCOSCでは製品には使用されない軽い針を付けてのテストが可能なため、精度が出やすいと言われているのだ。そのため、ブザンソン天文台でクロノメーター認定を得ようとするのであれば、そうしたことも念頭にデザインされる必要がある。

本作はシースルーバック仕様になっているが、これも試験の特性ゆえだ。ブザンソン天文台では試験に際してムーブメントのシリアル番号が確認されるのだが、クローズドケースバックでは確認するにはケースバックを開けないといけなくなる。そんなことをしたらせっかく精度を追い込んでも調整に影響しかねない。つまり確認しやすくするための配慮なのだが、実質シースルーバックにすることは試験の前提条件となっている。

なお、最初に天文台に送られた10本のうち合格したのは3本。その結果を受けて精度調整をかなり厳しくしたそうだが、それでも試験をパスできるのは全体の60%ほどだという。

タカノのロゴがあしらわれた尾錠は一体成形されたように見えるが、実は溶接により作られている。こうした製法はタカノが存在した当時の高級時計ではよくあった技術のようだが、いまや失われし技術となりつつある。
いかにクロノメーター認定を得るのが大変かという話を聞いたものの、筆者が個人的に引かれたのは、その整ったダイヤルだった。タカノの初代シャトー(1961年登場)に倣ったというボンベダイヤルには、フラットだが縁が柔らかくカーブしたサファイアクリスタル風防を合わせる。そこから見えるダイヤルにはポリッシュ仕上げのドットとバーの植字インデックスが浮かび、バーインデックスに至ってはエッジが90°に整えられている。スカイスクレーパー針は全面ポリッシュとすることで繊細だが存在感があり、精緻なレイルウェイインデックスにぴたりと合うように考えられたデザインはクロノメーター機であることを静かに、だが力強く主張する。しかもホワイトは梨地風のわずかに表面を荒らした仕上げであるのに対し、ブラックは艶やかな仕上げと、ダイヤルの質感を変えている。そうした細やかで神経の行き届いたディテールは、いかにも浅岡氏らしさを感じさせていた。

時計は極めて魅力的であったが、気になった点がふたつある。まずひとつは、このタカノプロジェクトが今後も続くのかどうかということだ。実はタカノの時計はタカノ創立60周年の1998年と80周年の2018年に復刻モデルがリコーエレメックスから限定で発売されているが、一部の愛好家の注目を浴びただけで継続生産には至らなかった過去がある。タカノは5年弱のわずかな期間であるが、さまざまなモデルが作られている。そうした魅力的なアーカイブにインスピレーションを得た新作が今度も登場してくれることを個人的には期待している。

そしてもうひとつは価格だ。こだわりは理解できたが、税込で88万円。この価格になると選択肢は非常に多い。それを押してこの時計を選ぶには、もう少し別の、特別感のあるムーブメントが欲しいというのが筆者の正直な気持ちだ。とはいえ、本作は限定ではないといっても、クロノメーター取得の手間を考えるとそれほど数は生産できないだろう。抽選販売という方式を取ることからもそのあたりの事情はうかがえるが、“浅岡氏が手がけた”ということがブランド化しているいま、同じようなスタイルで販売をしてきたクロノ ブンキョウ トウキョウでの販売実績を考えると、おそらくあっという間に売れてしまうのだろうと想像している。
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基本情報
ブランド: タカノ(TAKANO)
モデル名: シャトーヌーベル・クロノメーター(Chateau Nouvel Chronometer)
型番:PWT

直径: 37mm
厚さ: 8mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ホワイトとブラック
インデックス: 3・6・9・12時位置はバー、それ以外はドロップインデックス
夜光: なし
防水性能: 3気圧
ストラップ/ブレスレット:レザーストラップ、SS製尾錠

ムーブメント情報
キャリバー: 90T
機能: 時・分表示、センターセコンド
直径: 約25.9mm(11 1/2’’’)
厚さ: 3.9mm
パワーリザーブ: 約42時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 24
クロノメーター認定: あり。ブザンソン天文台によるクロノメーター認定書付き

価格 & 発売時期
価格: 88万円(税込)
発売時期: 2024年8月中旬からの一般発売を予定
限定:限定モデルではないが、抽選販売。

A.ランゲ&ゾーネ ダトグラフの周年を祝う限定

A.ランゲ&ゾーネスーパーコピー 代引きはブランド設立30周年とダトグラフの25周年を祝うイベントをスタートさせた。そこではふたつの目を引く新作が発表された。125本限定のホワイトゴールド製ダトグラフ・アップ / ダウン “ルーメン”のリミテッドエディションと、50本限定のダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”だ。そして今日、ランゲはダトグラフの祝賀をまだ終わらせていないことを示すべく、イエローゴールド製のまったく新しいダトグラフ・ハンドヴェルクスクンストを発表した。通常は“我々の考え”のパートまではリアクションを控えるべきだが、これは本当に素晴らしいものだ。

1815トゥールビヨン “ハンドヴェルクスクンスト”

1815ラトラパント・パーペチュアルカレンダー “ハンドヴェルクスクンスト”
ハンドヴェルクスクンストシリーズは、グラスヒュッテを拠点とするこのブランドが誇る最高かつ複雑な手仕上げと彫刻技術を際立たせてきた、ランゲのフラッグシップコレクションである。2011年に初登場を果たし、1815トゥールビヨン “ハンドヴェルクスクンスト”や、星空のように幻想的な1815ラトラパント・パーペチュアルカレンダー “ハンドヴェルクスクンスト”など、少数限定のエディションがいくつも発表されている。特徴的なサファイアダイヤルと全面夜光のエレメントを備えたルーメンシリーズとは異なり、ハンドヴェルクスクンストシリーズは特定の美学に固執しない。しかし私にとって最も印象的なのはトレンブラージュ装飾が施されたレリーフダイヤルを持つエディションである。


この新作でランゲはダトグラフの深い歴史に敬意を表し、視覚的に最大限の魅力を持たせた時計をつくり上げた。この新作は現行のアップ/ダウンモデルと同じ41mmのケースを採用しており、YG製のメインダイヤルには複雑なトレンブラージュ装飾が施されている。またメインダイヤルにはブラックロジウム仕上げが施されているほか、ライトグレーのロジウム仕上げがされたインダイヤルも特徴的だ。その結果、通常はダイヤルにプリントされる要素がすべてソリッドなYGダイヤルの一部としてレリーフ状に彫刻されており、ほかの部分に施された手彫りのトレンブラージュ装飾と対比をなしている。

ローマ数字やアワーインデックスは植字されているが、タキメーターやミニッツトラックといった要素は、実際にはソリッドなYGダイヤルの一部として浮き彫り状になっている。


この立体的なダイヤルのテクスチャを実現するために、彫刻師は特別に作られたビュラン(刃先が鋭くとがった工具)を使用して、ほかのすべての要素を保ちながらも細かい粒状のコントラストをつくり出した。近くで見ると、特にA.ランゲ&ゾーネのロゴ、ミニッツ&セコンドの目盛り、タキメータースケールのような微細なサイズと角度を持つ要素をレリーフ状に保ちながら、その鋭さを損なわないようにすることはまさに芸術的な偉業である。最後に、面取りとストレートグレイン仕上げを施したあと、インデックスとローマ数字がダイヤルに植字される。


ダイヤルの装飾が注目されるが、もうひとつ重要なのは今回の新作がオリジナルの39mmダトグラフ 403.041(通称“イエロージャケット”)以外で、ごく少数ではあるがYGを使用したダトグラフが久々に登場したことだ。ただその時計でさえもランゲのカタログには正式には掲載されなかったため、存在自体が少し謎めいており、今回の新作と同様に非常に限られた数しか生産されていないと噂されている。この時計がイエロージャケットの存在を暗黙的に認めるものなのか? ランゲはこの点について明確には触れていないが、この新作が熱心なコレクターに向けたさりげないメッセージのようにも思える。

オリジナルの403.041 “イエロージャケット”。Image: courtesy of Phillips

新しいダトグラフ・ハンドヴェルクスクンスト。類似点がお分かりになるだろうか?


本作はダトグラフ アップ/ダウンと同じケースを使用しているが、実際にはアップ/ダウンモデルではない点にも注目して欲しい。2時、6時、10時位置にローマ数字が配置されており、通常6時位置に見られるアップ/ダウンのパワーリザーブインジケーターが取り除かれていることから、このモデルが1999年に発表された初代クロノグラフへのオマージュであると示していると言える。

時計を裏返すと、手巻きクロノグラフムーブメントであるL951.8のメカニカルな美しさが広がる。このムーブメントはHODINKEEでも何度も取り上げてきたが、今回のバージョンが特別なのは、ハンドヴェルクスクンストの原則を継承している点だ。視覚的に最も注目すべきは、ジャーマンシルバー製のムーブメントプレートに施されたフロスト仕上げであり、これは過去のハンドヴェルクスクンストやF.A.ランゲへのオマージュ作品でも多くに見られた特徴である。

今回は、クロノグラフのレバーすべてに手作業でブラックポリッシュ仕上げが施されている。そのため特定の角度ではポリッシュ仕上げされたパーツが真っ黒に見える。これまでのフロスト仕上げのムーブメントでは、レバーの上部は通常サテン仕上げが施されていたが、このミラーポリッシュ仕上げによりムーブメント内部に鮮やかなコントラストが生まれることは間違いない。

最後に、すべてのランゲの時計に見られる手彫りのテンプ受けにもハンドヴェルクスクンストなりにひねりが加えられている。ダトグラフ・ハンドヴェルクスクンストのテンプ受けにはレリーフ彫刻でツタの模様が施されており、これまでの多くの彫刻に見られたフローラルモチーフに遊び心を加えたものとなっている。

このツタのモチーフは、レリーフ彫刻として施されている。

フロスト仕上げのプレートとブラックポリッシュ仕上げのレバーのコントラストが際立っている。
A.ランゲ&ゾーネのダトグラフ・ハンドヴェルクスクンストは25本限定で生産され、すべてA.ランゲ&ゾーネのブティックでのみ販売される。

我々の考え
まだお気づきでない方もいるかもしれないが、私はこの時計を本当に驚くほど美しいと思っている。この意見には多くの読者も同意してくれるのではないだろうか。ランゲのハンドヴェルクスクンストモデルは、まさに見る者にとって特別なものであり、限られた少数のコレクターにしか手に入らない運命にあるが、このシリーズはブランドの技術力を象徴するフラッグシップとして大好きなコレクションなのだ。

ダトグラフ・ハンドヴェルクスクンストは、ドイツ特有の厳格さを最高の形で保ちつつ、その見せ方において驚くほど劇的な要素を兼ね備えている。まさにランゲらしい時計だ。これまでに何度か、ブランドのトレンブラージュ彫刻が施されたレリーフダイヤルを見る機会に恵まれたが、そのたびに感動を覚えた。職人がこれだけの立体的な要素を持つダイヤルを、ひとつも傷つけることなく仕上げるなんて本当に信じられない。だからこそ、私はグラスヒュッテでこれらの時計に携わることなく、キーボードを叩いているのだろう。

この新作は、Watches & Wondersで発表されたふたつの新作を凌ぐかのように、熱心なコレクターのためのものに感じられる。ある意味ではオリジナルのダトグラフを完全に現代風に再解釈したものであり、この時計こそがオリジナルを真に祝うものとして最も近い存在だと言える。

YGのダトグラフというだけで魅了されるが、そこにハンドヴェルクスクンストの装飾が加わることで、その魅力はさらに高まっている。25本限定のリリースであることを考えると、新作は即完売してしまうだろう。ランゲは価格を“要問い合わせ”としているが、昨年のスペシャルエディションの価格を考えると、この時計の価格も相当なものになるだろう。もし究極のダトグラフを求め、そしてお金に糸目をつけないなら、この時計がその答えかもしれない。

基本情報
ブランド: A.ランゲ&ゾーネ(A. Lange & Söhne)
モデル名: ダトグラフ・ハンドヴェルクスクンスト(Datograph Handwerkskunst)
型番: 405.048F

直径: 41mm
厚さ: 13.1mm
ケース素材: 750イエローゴールド
文字盤: 750YG、トレンブラージュ彫刻を施したメインダイヤルにブラックロジウム仕上げ&インダイヤルにグレーロジウム仕上げ
インデックス: アプライド
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: 手縫いのダークブラウンアリゲーターストラップ、YG製ディプロワイヤントクラスプ

ムーブメント情報
キャリバー: L951.8
機能: 時・分・スモールセコンド、アウトサイズデイト表示、クロノグラフ
直径: 30.6mm
厚さ: 7.9mm
パワーリザーブ: 約60時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 1万8000振動/時(2.5 Hz)
石数: 43
追加情報: フロスト仕上げのムーブメントプレート、ブラックポリッシュ仕上げのレバー、ツタのモチーフがレリーフ彫刻された手彫りのテンプ受け

価格 & 発売時期
価格: 要問い合わせ
発売時期: A.ランゲ&ゾーネのブティックにて販売
限定: あり、世界限定25本(シリアルナンバー入り)

ロレックス初のサブマリーナー正史から学んだ5つのこと

これは単なる高級なコーヒーテーブルブックではない。ニコラス・フォークス(Nicholas Foulkes)氏による『Oyster Perpetual Submariner – The Watch That Unlocked The Deep(オイスター パーペチュアル サブマリーナー – 深海を切り開いた時計)』は、これまでで最も詳細にロレックスのアーカイブに迫った1冊である。正直に言うと、この本の話を最初に聞いたとき、私は懐疑的だった。スイス時計製造の象徴ともいえるロレックスは、その秘密を決して明かさない。アーカイブ情報を厳重に守ることで知られる同社が、なぜ急にそれを一般公開する決断をしたのだろうか?


今や情報の霧は晴れた。ロレックスコピー 代金引換優良サイトは一挙にヴィンテージサブマリーナーに関する研究を訂正し、裏付け、さらに拡充したのである。特に注目すべきは(すでにヴィンテージロレックスのIGコミュニティで“報告”されているとおり)、これまでに製造された各ロレックス サブマリーナー リファレンスの製造推定量がこの本の索引に記載されている点だ。これは通常、ヴィンテージ製品について肯定も否定もしないロレックスにとって、まさに180度の方針転換と言えるが、これはオイスター パーペチュアル サブマリーナーの氷山の一角に過ぎない。

これまでの研究は、ヴィンテージコレクターたちのあいだで長い時間をかけて築かれてきたものである。既知のオリジナルウォッチのデータを集め、過去のロレックス通たちから伝えられた古い話を付け加え、常識と推測を組み合わせて結論に至っていたのだ。そしてその結論は、“コレクターコミュニティの知る限りでは…”といった但し書き付きでしか提示できなかった。
ロレックスから正式に認可されたサブマリーナーに関する確かな情報が公開されたことで、今後ロレックスのモデル(およびその秘密)に関するさらなる公式書籍が出版されることが期待される。本書はWallpaper*とロレックスが提携して出版するシリーズの第1弾であり、ニコラス・フォークス氏がすべて執筆している。サブマリーナー正史は252ページにわたるが、この記事ですべての秘密を明かすつもりはない。ここではHODINKEEの“ヴィンテージ通”が、本をめくりながら学んだ5つのことを紹介しよう。
1. サブマリーナーはエクスプローラーから生まれた
ロレックス サブマリーナー 歴代モデルを徹底解説では、“サブマリーナーの起源”に関するセクションを設けている。サブマリーナー、エクスプローラー、ターノグラフが1954年5月に、市場に同時に登場したというアイデアは、これまで“受け入れられた”ストーリーの一部であった。この文章は、過去のHODINKEEの記事を批判したり否定したりするものではなく、時計コミュニティがかつて正しいと思っていたことを示すものである。

ロレックス エクスプローラー Ref.6150
オイスター パーペチュアル サブマリーナーの最初の章では、ロレックスのアーカイブを通じて多くの一次資料が引用され、まったく異なる物語が語られている。この本によると、サブマリーナーはエクスプローラー Ref.6150から発展したという。ロレックスのディレクターであったレネ=ポール・ジャンヌレ(René-Paul Jeanneret)とロレックス ロンドン支社とのあいだで交わされた手紙には、1952年に始まった英国海軍ダイバーからの具体的なリクエストやテストに関する詳細が記されていた。また、1953年9月の日付が入ったロレックスの出荷伝票には、初期のRef.6150のモデルが、英国海軍に納入されたことが記載されている。
1954年、ダイバーからのフィードバックをもとに、ロレックス ロンドンは“海軍省との協力により製造された”特別なバージョンのRef.6150について説明している。このモデルは、より大きなダイヤル径(確認済み)と回転ベゼル(こちらも確認済み)を備えていた。(この本によると)こうしてサブマリーナーが誕生したというわけだ。

ロレックス サブマリーナー Ref.6204
2. ピースレビコフ、ノーチラス、フロッグマン、サブアクアなど、ロレックス サブマリーナーのさまざまな名前
サブマリーナー、あるいはシンプルに“サブ”と呼ばれるこの時計は、今日ではあまりにも広く知られているため、その一見不自然な言葉がどうやってロレックスのダイヤルに刻まれるようになったかについて深く考えることは少ない。これは、日付機能のみを備えた時計にデイトジャストと名付けたり、日付と曜日を表示する時計をデイデイトと呼ぶ想像力を持つ同じ会社が考え出した名前なのだ。
フォークス氏とロレックスによれば、のちに“サブマリーナー”として知られることになったこのプロジェクトは、開発中にさまざまな名前が検討された。米国では発売後にちょっとした問題に直面したこともあったという。ハンス・ウィルスドルフ(Hans Wilsdorf)は本のなかで、“フロッグマンよりもディープシー スペシャルという名前のほうがいい”と語り、また時計業界の歴史を大きく変えたかもしれない興味深い考えとして、“ノーチラスはすでに登録されているはずだ”とも語っている。

ロレックス サブアクア Ref.6204
イギリス海軍によるテストと並行して、ロレックスは水中写真と新興のスキューバダイビングのパイオニアであるディミトリ・レビコフ(Dimitri Rebikoff)の協力を得ていた。レビコフのサブマリーナープロジェクトへの影響はきわめて大きく、社内ではこの時計を“ピースレビコフ”と呼んでいたほどである。最終的には、1953年5月28日のロレックスのテクニカルミーティングで、ジャン・ユグナン(Jean Huguenin)が、“この時計には『サブマリーナー』という名前を付ける”と決定したとされている。
サブマリーナーが市場に出たあとも、その名称は確定していなかった。本書にはアメリカにおける知的財産権の問題が詳しく書かれており、その結果ごく短期間のみサブアクアという名前が使われた。これにより、ダイヤルにサブマリーナーではなくサブアクアと記された、非常に希少な初期モデルが存在する理由がはっきりした。
3. ベゼルから赤い三角マークが姿を消したのは、ディミトリ・レビコフのおかげである
重要な話に入る前に、いくつかの興味深いポイントを簡単に紹介しておきたい。先ほどディミトリ・レビコフについて触れたが、本書には彼とロレックスの関係についての素晴らしい情報がたくさん詰まっている。彼は現在のサブマリーナーのデザインを決定づける上で、本当に重要な役割を果たした人物だ。たとえば、1953年4月にレビコフはベゼルの12時位置にある赤い三角形が実用的ではないと指摘し、“おそらく10m下ではすでに見えなくなるだろう…白い三角形に置き換えるほうがよい”と述べている。

ロレックス サブマリーナー Ref.6536/1
そこで“現在、ベゼルの三角形を赤ではなく真っ白に変更することを検討している”とレネ=ポール・ジャンヌレが応じた。そして比較的短期間で赤い三角形は姿を消した。
4. ターノグラフはバーゼルで大ヒットを狙っていた、忘れられた存在
 ロイヤルネイビー(王立海軍)やスキューバダイビングのパイオニアが開発を進めても、サブマリーナーに対する市場の期待は低かった。本書によると、サブマリーナーはもともとニッチなプロフェッショナル向け製品と見なされていた。しかし回転ベゼルの開発が商業的な救いとなったのである。このため、ロレックスはサブマリーナーと同時にターノグラフを開発し、回転ベゼルに特化したモデルとして市場に投入した。この時計は“無限の用途を持つ時計”として売り出される予定だった。ロレックスは1954年のバーゼルフェアにてターノグラフに全力を注いだが、最終的にはサブマリーナーが勝利を収めた。

ヴィンテージ市場での経験から言えるのは、当時ターノグラフの販売数がとても少なく、そしてその希少性にもかかわらず、今日のヴィンテージロレックスコレクターにとっても売るのが難しい時計だということだ。サブマリーナーは大成功を収め、一方でターノグラフはスタートライン付近でほぼ忘れ去られてしまった。


5. 各サブマリーナーリファレンスの生産“推定数”
この本の巻末に追加された情報は、書籍の初期版を手に入れて以来、ヴィンテージロレックス界で大きな話題となっている。ロレックスがこうした数字を公開するのはきわめて異例なことであり、その重要性を強調しても足りないほどだが、HODINKEEの読者なら理解してくれているだろう。ここですべての生産数を列挙するのは、Wallpaper*やフォークス氏、そしてこの本をつくり上げた多くの人々に対して不公平に感じるため、いくつかの“重要なポイント”に絞って紹介してみよう。最初に注目すべき点として、細かい注意書きには“生産数はロレックスアーカイブのデータに基づく推定値”とあるが、詳細を確認するとこれらの数字はかなり正確に感じられる。

ロレックス サブマリーナー Ref.6200 “キング・サブ”
まず最初に、ヴィンテージロレックスのコミュニティは予想がかなり的確だということだ。長年にわたり、約300本のRef.6200 “キング・サブ”が製造されたと広く信じられてきた。この数字はしばしば引き合いに出されたのは、Ref.6200が“最も希少な”モデルのひとつとされていたからだ。結果として、我々の予想は正しかった。この本によると、“推定”303本が製造されたとされている(推定といえど、303本という数字はほぼ的中している。300ではなく303本だ)。このリファレンスがすべてのなかで最も生産数が少なかったということも確認された。
 興味深いのは、Ref.5513とRef.5512の生産数の差だ。これらふたつはほとんどの製造期間において姉妹リファレンスとされており、その違いは、5512がクロノメーター認定ムーブメントを搭載しているのに対し、5513は非認定キャリバーを搭載している点だ(ここでは少し簡略化して説明している。ヴィンテージロレックスファンの方、怒らないでくれ)。いずれにせよ、ムーブメントの違いを除けば両者は基本的に同じ時計だ。しかし総生産数は5513が15万1449本に対し、5512は1万7338本と推定されている。今日のヴィンテージ市場では、5512には常に5513よりも若干高いプレミアムがついているが、その希少性が9倍も高いことを反映した価格差にはなっていないのだ。

ロレックス サブマリーナー Ref.5512
『Oyster Perpetual Submariner – The Watch That Unlocked The Deep(オイスター パーペチュアル サブマリーナー – 深海を切り開いた時計)』は、英語版とフランス語版で出版されています。ハードカバー版は2024年10月1日から購入可能で、販売店情報はACC Art Booksのサイトで確認できます。限定版のシルク装丁版は、9月16日から19日までの期間にWallpaperSTORE*でのみ先行予約販売され、そのあと通常の販売が開始される予定です。

しかし時計を選ぶなら、間違いなく“赤”が欲しくなるだろう。

いいレストランを見つけることは、秘密を発見するようなものだ。あまり多くの人に教えたくないが、知っていることに価値があるからこそ、その秘密を守る楽しさがある。F.P.ジュルヌも同様であり、彼らのファンもまた、まさにその楽しみを共有している。しばしば顧客は公式発表前に新作の情報を耳にすることがある。ジュルヌ愛好家にとってこの時計は“隠されているけれど、ほとんどの人が知っている秘密”のひとつかもしれない。そして今回、ひっそりとリリースされてすでに届けられているものの、正式には発表されていなかった時計についての公式情報を初めてお伝えする。

これはブティックでは購入できないF.P.ジュルヌのエレガントだ。フランソワ-ポール(François-Paul)氏やアメリカのゼネラルマネージャーであるピエール・ハリミ(Pierre Halimi)氏、そしてほかの誰かに頼んでも割り当てをもらうことはできない。しかし、もし昨年ジュネーブに移り住み、豪華で贅沢な、そしていまやミシュラン星も獲得した料理を楽しむ食生活に身を投じていたなら、この時計を手にするチャンスが巡ってきたかもしれない。この時計は、今年最も楽しくて“美味しい”話題のひとつだ。名前はF.P.ジュルヌ エレガント “レストラン(Le Restaurant)”だ。いや、少し話を戻そう。最信頼性の日本スーパーコピー時計代引き専門店!正確にはF.P.ジュルヌ レストランだ。

その名のとおり、このレストランはフランソワ-ポール・ジュルヌ氏と時計製作をテーマにしたもので、2023年11月1日に正式オープンした。ジュネーブのローヌ通りに面し、川の南側に位置する歴史的な建物のなかにある“レストラン”は、期待どおり洗練された雰囲気を漂わせている。ジュルヌや時計製造に関する演出は控えめだが、ジュルヌ氏によるムーブメント設計図や、ジュルヌブランドのアクセサリー(手ごろなものから高価なものまで)がさりげなく配置され、各テーブルには著名な時計師の名前が記されたプレートが置かれている。まさにこのレストランは、時計師による時計師とその顧客のための場所と言える。

レストランの壁には、17世紀の天文時計“ジョヴァンニ・ブルジェル ヴェネツィア”サイン入りの時計が掛けられていた。

F.P.ジュルヌ アラームクロック・スヴラン。

1912年、元薬剤師のアドルフ・ナイガー(Adolphe Neiger)はこの建物内に(この時点ですでに築60年以上が経過していた)ドイツビール専門のビアホールを開業し、バイエルンと名付けた。しかしここで起こった出来事は特別なものだった。1919年、設立間もない国際連盟が、バイエルンから徒歩数分のサル・ド・ラ・レフォルマシオン(Salle de la Réformation、ジュネーブにかつて存在した多目的ホール)で定例会議を開いていたが、会議後に集まる場所がなかったため、このビアホールが彼らのシュタム(stamm、スイスで“行きつけの場所”を意味する用語)となり、世界でも有数の影響力を持つ人々が集う場となった。1942年、このビアホールは現在の姿となる暗いオーク材のパネルと鏡を取り入れた装飾を採用し、ジュネーブ市によって歴史的に保護された内装となっている。そして国際連盟創設からちょうど100年後の2019年3月、フランソワ-ポール・ジュルヌ氏はレストランを閉鎖し、シェフのドミニク・ゴーティエ(Dominique Gauthier)氏のもと、大規模な修復を経て再びオープンさせた。

レストランで2度(ランチとディナー)食事をしたのだが、シェフのゴーティエ氏はまさに天才だと言える。ゴーティエ氏は30年間、ボー リヴァージュ内のル・シャ ボテで料理長を務め、ミシュランの星を獲得した。F.P.ジュルヌでのコースディナー料理は、まさに素晴らしい内容だった。“エレガント”メニューより少しボリュームがある“スヴラン”を選んだが、今思えば“アストロノミック”はさすがに量が多すぎただろう。


いくつかの前菜を楽しんだあと、ピエール・ガレイのズッキーニの花を使った料理をいただいた。ズッキーニの花にはナスとブラータチーズが詰められ、バターで柔らかく仕上げられた鶏肉も絶品だった。最後にシャルトリューズでフランベしたスフレで締めくくった。一方で、フランソワ-ポール氏お気に入りの料理を楽しむこともできる。たとえばリニョン農場の卵を使った、ソフトでカリッとした食感の卵料理(キャビアは追加で70スイスフラン日本円で約1万2000円)や、シメンタール牛をマダガスカル産のワイルドペッパーとグリルしたエシャロットとともにいただくこともできる。レストランが開業初年度でミシュランの星を獲得したのも納得だ。さらにスタッフの手元に目を凝らすと、赤いダイヤルの時計の存在に気付くだろう。

F.P.ジュルヌ エレガント “レストラン”のアイデアは、もともとスタッフ用の時計として始まった。とはいえ、ウェイターとして働けば2週間で辞める際にエレガントがもらえるなどと期待してはいけない。仮に本当にスタッフ専用の時計のままだったとしても、それはそれで十分におもしろいアイデアであっただろう。しかしバイエルンが、かつて国際連盟のシュタムとなったように、F.P.ジュルヌ レストランもブランドの顧客や時計業界全体にとってのシュタムとなっている。私がディナーに訪れた時には、コレクターやセカンダリーマーケットの大手ディーラーが、友人や顧客と食事を楽しんでいる姿を見かけた。それが私が認識できた顔ぶれだけであったことを考えると、エレガント “レストラン”がスタッフ専用の時計として留まれるはずがなかったのも納得できる。ウェイターの手元から買い取ろうとする人が続出していただろう。つまり、この時計が購入可能になったのはある意味で必然だったが、もちろん簡単には手に入らない条件がある。

このエレガントは単なる赤いダイヤルを持つだけでなく、定番の“Invenit et Fecit(発明し、製作した)”の代わりに“Le Restaurant”の文字が書かれている。これだけでも十分におもしろい趣向だ。F.P.ジュルヌは赤いダイヤルの時計を過去にも手がけており、その一例がサンティグラフ・スヴラン Fの特別仕様、通称フォーミュラ・ジャン・トッド”エディションである。これはフェラーリとF1界の伝説、そしてジュルヌ初期からの友人であり支援者であったジャン・トッド(Jean Todt)氏のために製作されたもので、きわめて限定的なリクエストモデルであった。ほかにもミハエル・シューマッハ(Michael Schumacher)氏が所有していたヴァガボンダージュ1のユニークピースなどがあるが、この時計の赤いダイヤルは、下にあるInstagramで見られるロッソ・コルサ色と完全に一致するわけではなく、少し異なる色味を持っている。

本モデルのレッドダイヤルはどちらかといえばマット調のレッドで、完全にバーガンディというわけではないものの、F40で見られる赤よりもややそちらに近い色合いだ。またストラップも同じ色で統一されており、スポーティかつカジュアルな印象を与える。さらに、暑く汗ばみがちで多少汚れが付きやすいキッチンのような環境にもよくなじむデザインだ。ただしエレガントのオーナーが季節や気分に合わせてストラップ(それとチタリットのデプロワイヤント)を交換するのは一般的であるため、少なくともこのケースにおいては、ストラップが時計の印象をすべて決定するわけではない。

基本的には48mmのチタリット エレガントとほぼ同じであり、冷やかし半分で“ただのクォーツウォッチ”と呼ばれるかもしれない。だが毎年エレガントシリーズ全体で約500本が製造されるにもかかわらず、10年以上のウェイティングリストがあるとされるエレガントは、もはや“ただのクォーツウォッチ”以上の存在だ。

F.P.ジュルヌがどの時計にも“スイス製”と表示しないにもかかわらず、エレガントはその基準に合致している。実際、数年前にこの時計のクォーツムーブメントもスイス製だと知って驚いたものだ。理論上、電子製品で知られる遠方の国に製造を外注することも(簡単とはいかないかもしれないが)可能だったかもしれないが、あえてスイスで製造している。時計のコンセプトは、実際の構造の複雑さに反してシンプルだ。時計には回転するセンサーが内蔵されており、35分間着用されないと判断すると針がその場で止まり、内部メモリが時刻を記憶し続ける。そして時計を再び着用すると、センサーが動きを検知し、モーターが作動。針が最短ルートで現在の時刻に戻るという仕組みだ。この機構によりバッテリー寿命は日常的に着用して8~10年、スタンバイモードでは最大18年に達する。

エレガントの“スリープ”モードに用いられる重り。
エレガントの最後の“見せ場”はおなじみの夜光ダイヤルだ。鮮やかな赤いダイヤルながら、UVライトを当てると自社製のダイヤルが美しく発光し、これまで見たどの類似ダイヤルよりもムラが少なく均一に光り輝く。この点は、F.P.ジュルヌの“夜光チーム”にとって大きな誇りである。彼らはブランドのレ・カドラニエ工房内に、まるでスカンクワークス(秘密の開発部門)のようなラボを構えている。彼らがてがける他ブランド向けの仕事も非常に興味深いものだが(そのブランド名は残念ながら言えない)、私の言葉を信じていただきたい。

さて、この時計を購入するための“落とし穴”(いや、だからこそ私はこの時計とその背景が大好きなのだが)について説明しよう。フランソワ-ポール氏は単純な方法で満足する人物ではなく、この時計はVIP顧客に提供されるべきだと決めたが、そのVIPが必ずしもF.P.ジュルヌの顧客である必要はなかった。そう、新しいエレガントを手に入れたいのであれば、ワインを数杯と素晴らしい料理をともにしながら、ある人物と親しくならなければならなかった。その人物とはシェフのドミニク・ゴーティエ氏である。時計の割り当てはすべて、F.P.ジュルヌ レストランのVIP顧客のためにゴーティエ氏を通じて行われ、最終的な承認はフランソワ-ポール・ジュルヌ自身が下していた。価格や製造本数は非公開であったが、これはすべて過去の話である。というのも、時計はレストランの1周年に先立つ10月下旬にすべて割り当てが完了し、ひっそりと顧客に届けられていたからだ。

このレストランVIPルールに例外があったかって? おそらく多少はあっただろうが、できるだけ少数であって欲しいものだ。この楽しい話を掘り下げるなかで聞いたのは、この時計はレストランを支援する人々のためのものであり、新しいエレガント “レストラン”を手にする顧客の多くは、ジュネーブ在住か、頻繁にビジネスで訪れる人々に集中しているだろうということだ。それは実に公平なことだと思う。

数週間前、私はソーホーにあるF.P.ジュルヌブティックで、ブランドをほとんど知らない人々を対象にトークイベントを開催した。F.P.ジュルヌを購入できる余裕がある人の多くは、十分なお金さえあれば好きなものが手に入るという考えに慣れている。だが、F.P.ジュルヌはそうはいかない。たとえば、クロノメーター・ブルーは需要が高まりすぎたために、現在は名前すらリストに載せてもらえない状況だ。またもっとも手ごろなエレガントに関しても、リストに載るのは難しいだろう。個人的にはそれでまったく問題ないと思っている。ただ時計が欲しいだけなら、セカンダリーマーケットで買うのもいい選択肢だ。こうした時計は単なる物語の一部ではなく、ワインのボトルを囲んで語られるジョークやディナーを通じて築かれる友情、そして最後に手に入るユニークな時計としての意味を持っている。お金で買えるお土産をお探しなら、F.P.ジュルヌのムーブメントの廃材を使った6本セットのステーキナイフはいかがだろうか? このナイフも、そもそもムーブメント部品の製造コストが高いため(さらにナイフ職人の製作費も加わるため)決して安価ではない。ある顧客は自宅用に24本をオーダーしており、その価格はなんと1セットあたり4100スイスフラン(日本円で約72万円)にものぼる。