オリスとコレクティブ・オロロジーによる70年代風ウォッチが登場。

コレクティブ・オロロジー(Collective Horology)は、モンブランとコラボした1858 ミネルバ モノプッシャー クロノグラフのリリース後、大盛り上がりを見せている。今回のコラボ相手はオリスだ。1970年代にタイムスリップしたような新作を紹介しよう。

オリス ダイバーズ65 キャリバー400 C.04
ベースはほかのオリス ダイバーズ65と同じ、40mm径×12.8mm厚のステンレススティールケースを採用(少なくともCal.400ムーブメントを載せたモデルと)。今回の時計は1975年までさかのぼり、ブロンズのアクセントと、1970年代のキッチン(今まで想像したなかで最も派手なタイプ)から飛び出してきたような配色をまとう。本作はブロンズ製逆回転防止ダイビングベゼル、センターリンクにブロンズを配したブレスレットを備え、さらにイエローの夜光塗料を塗布したブロンズ針が、同じくイエロー夜光塗料のインデックスとマッチしている。文字盤はオレンジとイエローの夜光、そして赤みがかったオレンジが混ざり合っていて、70年代を生きたことがなくても直感的に70年代風だと思える。

オリス ダイバーズ65 キャリバー400 C.04
前述したように、時計は自社製ムーブメントのCal.400を搭載しており、約120時間のパワーリザーブを確保する。シースルーバックを備えたケースは100mの防水性を備えるなど、ほとんどの用途には十分なスペックだ。価格は4500ドル(日本円で約67万8000円)だが、これは自社製ムーブメントを考慮したものだ。本当に悔しいのは、これが連続生産されるわけではなく、250本しか製造されないことである。

我々の考え
我慢できない。言わせてくれ。これはグルーヴィー(超イイもの)だ。

オリス ダイバーズ65 キャリバー400 C.04のリストショット
コレクティブ・オロロジーのチームは、初期のダイバーズ65で様式化された夜光インデックスをうまく利用している(それ自体がヴィンテージオリスへの回帰である)。そこにブロンズの逆回転防止ベゼル、70年代らしいカラーリング、ブロンズ&SSのブレスレットでパンチを効かせており、今年発表されたオリスのなかでいちばん好きなモデルかもしれない。

ある時点で私は、オリスが旧来の非自社製ムーブメントをやめ、ダイバーズ65のラインナップをCal.400ムーブメントに完全移行するだろうと思っていた。結果は、ふたつの異なる価格帯を展開することで、ブランドを身近なものにさせた。しかしコレクティブ・オロロジーは少し高級なものにして、約120時間パワーリザーブを持つムーブメントをチョイスした。これは正しい選択だと思う。確かに、“ダイバー”と名を冠しているのに100mの防水性能しかないため、ダイビングに適した時計ではないが、カジュアルなスキンダイバースタイルの時計としては、とても楽しい選択肢であることは間違いない。

オリス ダイバーズ65 キャリバー400 C.04
コレクティブ・オロロジーのガーベ・レイリー(Gabe Reilly)氏が指摘しているように、ほかのブランドがブレスレットやベゼルに温かみのある色合いを出すときは、ゴールドキャップ(金メッキ等)を採用していたのに対し、オリスはラインナップの大部分をブロンズが占めている。多少の経年変化は起こるものの、ケース全体がブロンズで作られていないため、ヴィンテージの金無垢モデルや金メッキ時計で見られるパティーナのような雰囲気を演出し、しかもそのパティーナを得るのに50年もかからないという長所が、本当にクールに感じるのだ。

基本情報
ブランド: オリス × コレクティブ・オロロジー(Oris × Collective Horology)
モデル名: オリス ダイバーズ“75” キャリバー400 C.04(Divers "Seventy-Five" Calibre 400 C.04)
直径: 40mm
厚さ: 12.8mm
ラグからラグまで: 48mm
ケース素材: ステンレススティール、ブロンズベゼル
文字盤: オレンジ、イエロー、レッドのマルチカラー
インデックス: 70年代風のオーバーサイズプリント
夜光: あり、インデックスと針
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: ブロンズ&SSブレスレット

オリス ダイバーズ65 キャリバー400 C.04に搭載されたCal.400
ムーブメント情報
キャリバー: 400
機能: 時・分・センターセコンド
直径: 30mm
厚さ: 4.75mm
パワーリザーブ: 約120時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 21

価格 & 発売時期
価格: 4500ドル(日本円で約67万8000円)
発売時期: 現在生産中で、2023年12月に出荷予定
限定: 世界限定250本、コレクティブ・オロロジー公式ECサイトで販売

ゾディアック×ローイングブレザーズ いくつかの都市を変更した新しいワールドタイム GMTが登場

80年代…ディスコトップ、パンクロック、レザーブレザー、グラムロック。この時代にはすべてがあった。そして、もし本当にその時代をぜいたくに暮らしたいと思うなら、唯一無二の時計、彫刻のようなデザイン、スイスで手作りされた時計が欲しいはずだ。モンテカルロ、ビバリーヒルズ、ロンドン、パリ、ローマ、グシュタードの時間を同時に教えてくれる時計を。まあ、数十年遅れてしまったが、ゾディアックとローイングブレザーズは、まさにそんなシナリオにぴったりの時計をつくってくれた。

映画『大逆転(原題:Trading Places)』にてダン・エイクロイド(Dan Aykroyd)が嫌味なほど堅苦しく話していたロシュフコー(映画内で登場したブティックブランド)のような、ある種の薄さと彫刻のようなエレガンスはないが、ゾディアックとローイングブレザーズの新しいコラボレーションは、40mm径×13.6mm厚のステンレススティール製ケースとブルーベゼルを採用し、そこに映画で登場する重要な都市をすべて配した、新しいGMTワールドタイムウォッチだ。

内部には、ソプロード社製キャリバーをゾディアックがSTP7-20にアップグレードした、時・分・センターセコンド、日付表示を備えたコーラー(独立したGMT針)GMTを搭載する。ブラック文字盤にホワイトの24時間トラック、スーパールミノバ、文字盤にはローイングブレザーズのサインが入っており、5リンクのSSブレスレットが付いている。新しいゾディアックをつけて(ダン・エイクロイド演じる)ルイス・ウィンソープ3世のコスプレをしたければ、2195ドル(日本円で約31万9000円)かかる。彼が映画のなかで買った時計よりははるかに安いが、質屋で50ドルで買うよりかは高い。

我々の考え
恣意的であり知る人ぞ知る限定版ということで、これはこれでなかなかおもしろい。スーパーシーウルフGMTは、私のお気に入りの手頃なヴィンテージウォッチのひとつだが、ヴィンテージウォッチの堅牢性を心配していて、かつ新しくて信頼性が高くて楽しいものを求めているなら、ゾディアックとローイングブレザーズの新コラボ以上のものはないだろう。

実機を見たことがないので、新しいSTP7-20ムーブメントが使用中にどのような動きをするのかはわからない。自社製で(というよりゾディアックとSTPを所有するフォッシルグループとそのグループ内)、シリコンとアップグレードされたコンポーネントを追加することにより、強度の高いムーブメントを実現すると同時に、外部の業界プロバイダーに依存するサプライチェーンの問題を取り除くことができる。

それはそれでいいことだし、前モデルのスペックから少し価格が上がったことも正当化されるだろう。結局のところ、この時計は楽しさがすべてであり、私にとってはその条件を満たしている。さて、(映画のデューク兄弟のように)誰かジュースの先物取引をしたい人はいるだろうか?


基本情報
ブランド: ゾディアック×ローイングブレザー(Zodiac × Rowing Blazers)
モデル名: ワールドタイム GMT(World Time GMT)

直径: 40mm
厚さ: 13.6mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック
インデックス: アプライド、ワールドタイムベゼル
夜光: スーパールミノバ
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: 5リンクのSS製ブレスレット、NATOストラップ付属

Zodiac x Rowing Blazers World Timer
ムーブメント情報
キャリバー: STP7-20
機能: 時・分・センターセコンド、日付表示、コーラーGMT(独立GMT針)
パワーリザーブ: 約40時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 26
クロノメーター: なし
追加情報: 1980年代のホットスポットの都市に入れ替えたローイングブレザーズのシグネチャーブルーのワールドタイムベゼル

価格 & 発売時期
価格: 2195ドル(日本円で約31万9000円)
発売時期: すぐに
限定: あり、世界限定282本

ドイツの有名なカメラメーカーから発売された貴重な腕時計の、超限定バージョンだ。

ライカが新しいZM 11モデルを発表してからわずか数カ月後、ブランドはオリジナルのZM 1をベースにした最初のリミテッドモデルを正式ローンチした。新しいモデルはZM 1 ゴールド リミテッドエディションで、オリジナルのZM 1(以前のL 1)を踏襲しており、18Kレッドゴールド製ケースと、ブラウンのグラデーションダイヤルが特徴だ。

50本限定のZM 1 ゴールド リミテッドエディションは、オリジナルのZM 1の機能はそのままに、ケースとダイヤルを変更し、より温かみのある貴重なカラーリングに仕上げた、ブランドの最も熱心なファンのための特別なモデルだ。スタンダードモデルがブラック文字盤、赤のアクセント、スティールケースを備えているのに対し、ZM 1 ゴールドは特別な素材、特にゴールドとチタン(ムーブメントに使用)を使って表現する既存のライカ製品を再現している。

 ZM 1(これはこの記事でL2としてレビューしたZM 2の姉妹モデル)はレーマン・プレシジョン社(Lehmann Präzision)のカスタムムーブメントを採用した41mm径の時計で、時刻、日付、パワーリザーブインジケーターを提供。またパワーリザーブの巻き上げと時刻合わせのどちらを行うか、コントロールする特別な機能も備えている。この機能は第3のリューズに設定された赤いキャップのボタンで制御される。ボタンを押すとムーブメントが停止し、秒表示がゼロに帰零してリューズを回して時刻を合わせることができる。

 リューズの上にあるプッシャーで日付を進め、ワインディングモード(作動中)の場合は白、セッティングモードの場合は赤の小窓が開く。最後にカメラをテーマにしたもうひとつの演出として、ZM 1はカメラのシャッターのブレードを模した中央から開くパワーリザーブインジケーターを備えている。

leica ZM 1 gold
 リューズとプッシャーはチタン製で、ZM 1 ゴールド リミテッドエディションはブラウンのアリゲーターに18KRGのデプロワイヤントクラスプが付いており、価格は2万8000ドル(日本円で約411万8000円)となっている。

我々の考え
ZM 1 ゴールド リミテッドエディションは、ゴールドとブラックのカラーバリエーションを施した1929年発表のカメラ、“IA Luxus”へのオマージュとして製作された。しかし時計製品という観点から見ると、ZM 1とZM 2が発売されたときには感動したものの、時計がカメラのM 11と同等かそれ以上の価格で販売されることに、僕は純粋に疑問を感じていた。さて、数カ月前にライカ本社でZM 1 ゴールドエディションを見たとき、僕はいくつかの数字(とカラスのプレート)も手に入れた。

leica ZM 1 gold
leica ZM 1 gold
leica ZM 1 gold
 結局のところ、ライカはZM 1とZM 2を合わせて年間約500本しか生産しておらず、そのうちの30%はライカ以外の顧客に販売される。ということは、ライカのカメラを持っていない人たちが購入しているということだ。これは特筆すべきことであり、このリミテッドエディションがZM 1と2の年間生産本数の約10%を占めていることを意味する。すでに同意している人から賛同を得ようとしているようなものだ。

 時計のなかでも、ZM 1は非常に印象的なモデルだ。よくできていて、ライカのデザイン言語を踏襲し、カメラ関連のギミックを搭載しているが、それをまったく感じさせない。ケースと文字盤はデザインの顕著な表現であり、特に本当に特別なものを求めるライカコレクターのためのものである。とはいえ、ブラウン文字盤が僕の好みに合っているとは言えない。個人的にはやはりベゼルベースのGMT機能があるブラックとSSのZM 2を今でも気に入っているのだ。

 主な争点は価格だろうが、SS製のZM 1がおよそ1万2000ドル(日本円で約176万6000円)という値段を考えると、このゴールドとチタン製リミテッドエディションのライカからの提示価格には驚かない。50本しかないし、通りすがりの人に提供するような商品でないことは間違いない。この種のライカ製品は、あらかじめ購入資格がある可能性が高く、その魅力はフォーマットと極めて限定された生産数にある。私がヴェッツラー(またしても賛同を得よう)にいたとき、私は少なくともふたりの深いライカコレクターと話をしたが、彼らはゴールド製ZM 1のリストに名前が載ったことをとてもよろこんでいた。

leica ZM 1 gold
 ZM 1、ZM 2が発売されてから(2022年春以降に発売)、極めて短期間で成功を収めたことを考えると(最近のZM 11によるライカウォッチファミリーの拡大は言うまでもない)、ZM 1 ゴールド リミテッドエディションはライカからの真っ当な試みであり、本質的にはブランドの最もアクティブなコレクターのための特別なモデルとして機能するように感じられるのだ。

基本情報
ブランド: ライカ(Leica)
モデル名: ZM 1 ゴールド リミテッドエディション(ZM 1 Gold Limited Edition)

直径: 41mm
厚さ: 14.5mm
ラグからラグまで: 48mm
ケース素材: 18Kレッドゴールド
文字盤: アルミニウム、グラデーションブラウン仕上げ、ゴールドアクセント
インデックス: ゴールドプレートとダイヤモンドカット
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: アリゲーターレザーストラップ、18KRG製ディプロワイヤントクラスプ

leica ZM 1 gold
ムーブメント情報
キャリバー: LH-1001
機能: 時・分表示、スモールセコンド、日付表示、パワーリザーブインジケーター
パワーリザーブ: 約60時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 26
追加情報: リューズプッシャーで時刻設定モードを起動

価格 & 発売時期
価格: 2万8000ドル(日本円で約411万8000円)
発売時期: 本日より世界各地のライカストアで販売
限定: あり、世界限定50本

唯一無二の時計、彫刻のようなデザイン、スイスで手作りされた時計が欲しいはずだ。

モンテカルロ、ビバリーヒルズ、ロンドン、パリ、ローマ、グシュタードの時間を同時に教えてくれる時計を。まあ、数十年遅れてしまったが、ゾディアックとローイングブレザーズは、まさにそんなシナリオにぴったりの時計をつくってくれた。

映画『大逆転(原題:Trading Places)』にてダン・エイクロイド(Dan Aykroyd)が嫌味なほど堅苦しく話していたロシュフコー(映画内で登場したブティックブランド)のような、ある種の薄さと彫刻のようなエレガンスはないが、ゾディアックとローイングブレザーズの新しいコラボレーションは、40mm径×13.6mm厚のステンレススティール製ケースとブルーベゼルを採用し、そこに映画で登場する重要な都市をすべて配した、新しいGMTワールドタイムウォッチだ。

内部には、ソプロード社製キャリバーをゾディアックがSTP7-20にアップグレードした、時・分・センターセコンド、日付表示を備えたコーラー(独立したGMT針)GMTを搭載する。ブラック文字盤にホワイトの24時間トラック、スーパールミノバ、文字盤にはローイングブレザーズのサインが入っており、5リンクのSSブレスレットが付いている。新しいゾディアックをつけて(ダン・エイクロイド演じる)ルイス・ウィンソープ3世のコスプレをしたければ、2195ドル(日本円で約31万9000円)かかる。彼が映画のなかで買った時計よりははるかに安いが、質屋で50ドルで買うよりかは高い。


我々の考え
恣意的であり知る人ぞ知る限定版ということで、これはこれでなかなかおもしろい。スーパーシーウルフGMTは、私のお気に入りの手頃なヴィンテージウォッチのひとつだが、ヴィンテージウォッチの堅牢性を心配していて、かつ新しくて信頼性が高くて楽しいものを求めているなら、ゾディアックとローイングブレザーズの新コラボ以上のものはないだろう。

実機を見たことがないので、新しいSTP7-20ムーブメントが使用中にどのような動きをするのかはわからない。自社製で(というよりゾディアックとSTPを所有するフォッシルグループとそのグループ内)、シリコンとアップグレードされたコンポーネントを追加することにより、強度の高いムーブメントを実現すると同時に、外部の業界プロバイダーに依存するサプライチェーンの問題を取り除くことができる。

それはそれでいいことだし、前モデルのスペックから少し価格が上がったことも正当化されるだろう。結局のところ、この時計は楽しさがすべてであり、私にとってはその条件を満たしている。さて、(映画のデューク兄弟のように)誰かジュースの先物取引をしたい人はいるだろうか?

基本情報
ブランド: ゾディアック×ローイングブレザー(Zodiac × Rowing Blazers)
モデル名: ワールドタイム GMT(World Time GMT)

直径: 40mm
厚さ: 13.6mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック
インデックス: アプライド、ワールドタイムベゼル
夜光: スーパールミノバ
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: 5リンクのSS製ブレスレット、NATOストラップ付属


ムーブメント情報
キャリバー: STP7-20
機能: 時・分・センターセコンド、日付表示、コーラーGMT(独立GMT針)
パワーリザーブ: 約40時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 26
クロノメーター: なし
追加情報: 1980年代のホットスポットの都市に入れ替えたローイングブレザーズのシグネチャーブルーのワールドタイムベゼル

価格 & 発売時期
価格: 2195ドル(日本円で約31万9000円)
発売時期: すぐに
限定: あり、世界限定282本

古い機械式時計の特徴は、ほかのものと一緒に販売されていたことだ。

世の中の販売には商品のほかに広告、付帯サービス、そして、フィルムをプリントしているあいだの待ち時間をつぶすキオスクのように、すでに廃れてしまったものの、さまざまな方法・サービスがあった。生き残っているブランドや製品は、多かれ少なかれ、また高価であろうとなかろうと、時計に対するウォルター・ミティ(自身を有能だと勘違いする)的アプローチとでも呼ぶべきものをサポートするためのサービスを提供していた。機械式時計には、実用的なニーズがないにもかかわらず、我々の“こうありたい”、“こう見られたい”というさまざまな空想を満たすために存在しているのだ。

クォーツ以前が黄金時代だったとは言わないが、1969年以前もそれと同じように、狡猾で、貪欲で、道徳に反する小売業者やいわくつきのブランドはたくさんあったが、平均的な時計所有者の実用的なニーズに対する確かな答えを、大した額にはならない程度の価格で提供することを意図した製品を大量に生産している会社もたくさん存在していた。そのような会社のひとつがシュパイデル(Speidel)社だった。1970年代にテレビを見ていた人は、同社のテレビコマーシャルを覚えているかもしれないが、彼らは有名人を宣伝マンとして起用し、刺激的で記憶に残るようなジングルを見つけるとよろこんで使っていた。そこにいるのは、フリッツ・ラング監督の『M』に登場する子どもを狙った連続殺人犯のハンス・ベッケルト役、あるいは『マルタの鷹(原題:The Maltese Falcon)』に登場するエレガントで反社会的なジョエル・カイロ役を務めたピーター・ローレだ。今、彼を時計ストラップの“破壊者”として見て欲しい。彼はツイスト・オー・フレックス(Twist-O-Flex)ブレスレットで勝負に出たのか? 詳しく見ていこう。

エクスパンションブレスレットはかつての時計製造の定番だった。オメガ 1039、そしてスピードマスターに初めて採用されたスティール製ブレスレットの7077と7912など、オメガ スピードマスターを手首につけておくための最初のソリューションのひとつがエクスパンションブレスレットだったのだ(イアン・フレミングはジェームズ・ボンドに、無名のメタルエクスパンションブレスレットを合わせたロレックスをつけさせたが、ジェームズ・ボンドがすべての決断を正当化してくれるのを待っていたら、我々は1日中ここにいることになる)。フルレングスのエクスパンションブレスレット(伸縮性のある部分はクラスプに近い数本のリンクにだけ採用している)ではないが、Twist-O-Flexブレスレットがそれに近いと思った。そのとき、実はシュパイデルがまだ運営しているのかどうか知らなかったことに気づいた。でも、彼らは営業していたのだ。

これはシュパイデル社製の230186WL エクスパンションブレスレットで、シュパイデルが1959年に提供を開始したTwist-O-Flexブレスレットに似ている。そのころには会社はかなり大きくなっていて、年間数百万ドルの売り上げがあったが、会社の創業はそれよりもっと前のことだった。フリードリッヒ・シュパイデルがドイツのプフォルツハイムで起業したのは、1867年のことである。その後、ロードアイランド州プロビデンスに拠点を移し、Twist-O-Flexだけでなくそのほかの多くのブレスレットや製品を製造し、一時はメンズフレグランスの製造にまで手を広げた(テキストロンの傘下に入っていた時期もあった)。

現在、同社は2009年に買収したチェルシーキャピタルコーポレーション(Cerce Capital LLC)が所有しており、現在もTwist-O-Flexブレスレットの製造と販売を続けている。オメガのブレスレットではないものの、スピードマスターにつけると非常にシャープに見え、1950年代のスピードマスターのデザインにもふさわしい。私の7インチ(約17.7cm)の手首に装着しているのだが、手を加えなくても本当に快適だし、バネ式のエンドピースが付いているため18mmから20mmのラグスペースへも装着できる。私はAmazonで12ドル弱(正確には11.95ドルという超低価格)で購入したのだが、今まで見たレトロウォッチオタクのキットのなかでは最高の部類に入る(編集注記:現在のAmazonでは約1万円、公式サイトだと30ドル前後で販売している)。

ADVERTISEMENT

タフで長持ちしそうだし、ぜひ試してみて欲しい(実際、チューダー ブラックベイにもう1本つけて様子を見てみるつもりだ)。これは単なるヒップスター(流行に従う人)の皮肉なウォッチアクセサリーではない。アメリカや時計製造の歴史に残る超クールなアイテムであり、12ドルという価格を出せば誰でもそれを自分の目で確かめることができるのだ。これは素晴らしい再発見であり(父はそれ以外のものにはほとんど時計をつけなかった)、時計アクセサリーとしては最高の価値提案である。

ロンジン コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブ

ヘリテージへのオマージュを大切にしつつも、現代的な感覚を取り入れてアップデート。その歴史にあぐらをかくことのない、進取果敢な今のロンジンらしい新作だ。

ロンジン初の名前を冠するコレクションとして誕生したコンクエストが、1954年にスイス・ベルンのFederal Intellectual Property Office(連邦知的財産庁)にその名が保護されてから今年で70周年を迎えた。これを記念して、歴代コレクションのなかでも特徴的なダイヤルデザインが異彩を放つロンジン コンクエスト パワーリザーブへのオマージュモデル、コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブが発表された。

ロンジン コンクエスト パワーリザーブ(1959年製)。

インスピレーションの源になったのは、1959年に登場したRef.9028のロンジン コンクエスト パワーリザーブだ。この時計はダイヤル中央にふたつの回転ディスクでパワーリザーブを表示するユニークなインジケーターシステムを採用するが、これはロンジンが開発したものであり、現在でも同ブランドでのみで使用される歴史的遺産である。

新作のコンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブのダイヤルは、バトン形のパワーリザーブインジケーターを配置した中央巻き戻しディスク、64から0までの数字とドットによる目盛りを設けた外周の巻上げディスク、そして一番外側の固定されたアウターダイヤルの3つで構成されている。

ユニークなのはパワーリザーブを表示する仕組みだ。リューズ、もしくは手首を動かして回転ローターで香箱車を巻き上げると、バトン形のパワーリザーブインジケーターを配置した中央ディスクはそのままの位置で固定され、外周の目盛りディスクが64を最大値として時計回りに回転する。そして通常時は外周の目盛りディスクの0に向かってバトン形のパワーリザーブインジケーターを持つ中央ディスクのみが時計回りに回転し、パワーリザーブ残量、つまり時計の残り駆動時間を表示する。64から0までの目盛りでパワーリザーブ残量を読み取るこの外周ディスクは、任意の場所でバトン形のインジケーターと合わせることができるが、その動きは動画を見るとより理解しやすいので、こちらもぜひご覧いただきたい。

本作は通常コレクションとして展開されるもので、下地のサーキュラー装飾が透けた絶妙な色合いのアンスラサイトをはじめ、上品で温かみのあるシャンパン、精悍なブラックの3色ダイヤルをラインナップする。

歴代コレクションにも見られ、アイコニックなモチーフでもある細いサークルが彫られたアウターダイアルには、12個の立体的なファセット加工のアプライドアワーマーカー、特徴的なスカイクレーパー(超高層ビルのような形状からこう呼ばれる)形の時・分針をセット。アンスラサイトダイヤルにはローズゴールドカラー、シャンパンダイヤルにはイエローゴールドカラー、ブラックダイヤルにはシルバーカラーのものをそれぞれ合わせて、12時位置には同じカラーリングで台形型の日付表示窓をレイアウトした。

既存のコンクエスト ヘリテージコレクション同様、ケースはサテン仕上げとポリッシュ仕上げを交互に施した38mm径のステンレススティール製だ。ヴィンテージ感を高めるボックス型サファイアクリスタル風防を合わせるが、両面に多層反射防止コーティングを施すことで視認性にも配慮。3モデルはすべて新しいSS製ピンバックル付きのアリゲーターストラップ仕様で、アンスラサイトダイヤルにはグレー、シャンパンダイヤルとブラックダイヤルにはブラックカラーとすることで時計全体の統一感を確保した。


 そんな小振りなケースに収まるのは、ロンジンの新たなエクスクルーシブ自動巻きキャリバーとなるL896.5。前述の伝統的でユニークなパワーリザーブインジケーターシステムに加えてシリコン製ひげゼンマイを持つこのムーブメントは、ISO764規格が定める耐磁性基準(4800A/mの磁気にさらされても日差±30秒以内を維持)を大きく上回る耐磁性を備えており、ねじ込み式のシースルーバック越しにその動きを見ることができる。


Photo by Yuki Matsumoto

 3モデルとも価格はすべて共通で59万5100円(税込)。すでに発売を開始しているが、これに合わせてコンクエスト 初代モデル(1955年製)や、コンクエスト パワーリザーブ(1959年製)をはじめとする貴重なアーカイブモデルを展示するフェアが銀座三越 新館4階 ウォッチと阪急うめだ本店 6階 インターナショナルブティックス ウォッチギャラリーにて期間限定で開催される。

 期間中は新作はもちろんのこと、銀座三越 新館4階 ウォッチではコンクエストやコンクエスト ヘリテージコレクションの多彩なモデルをラインナップ。阪急うめだ本店 6階 インターナショナルブティックスウォッチギャラリーでは、ヘリテージにルーツを持つベストセラーコレクションが揃うという。

銀座三越 新館4階 ウォッチ ロンジン フェア
期間:2024年1月31日(水)~2月20日(火) ※アーカイブモデルの展示は2月12日(月・祝)まで
場所:銀座三越 新館4階 ウォッチ

阪急うめだ本店 6階 ウォッチプロモーション ロンジン ヘリテージウォッチ フェア
期間:2024年月15日(木)~2月27日(火)
場所:阪急うめだ本店 6階 インターナショナルブティックス ウォッチギャラリー

ファースト・インプレッション
今回、オリジナルと新作を同時に見る機会が得られたので断言したい。新作は決して忠実な復刻を狙ったモデルではない。プレスリリースのなかで、“画期的モデルにオマージュを捧げ、デザインとテクノロジーを進化させたのが、この新作”と評しているが、まさにその通り。オリジナルに敬意を払いつつも、現在でき得る最善を盛り込んだ挑戦的なモデルだ。


Photo by Yuki Matsumoto

 まずはダイヤル。新作はオリジナルの特徴をよく捉えている。6時位置のコレクション名を表すフォントは、オリジナルにほぼ忠実で見事な再現度である。一方で、ボンベダイヤルのカーブは新作のほうがより強く、オリジナルではダイヤルに彫られた細いサークルを分断して埋め込まれるようにアプライドインデックスがセットされているのに対し、新作ではインデックスが溝の上をまたがり浮いているように見える。

 加えて、新作では彫られたサークルにも処理が施され、インデックスの立体感がより強調されている。時・分針、そして3・6・9時位置の一部にもスーパールミノバ®を塗布することで暗所でも見やすく視認性が高い。また新作ではオリジナルになかったハック機能と日付の早送り機能が実装されており、実用性が確実にアップデートされている。

 あえて難点を言えば、ラグ幅が19mm(オリジナルは18mm)とスタンダードな数字ではないこと、それと特別な工具なしに簡単にストラップ交換ができるイージークリックが付いていないところだろう。頻繁にストラップ交換をしたいという人は注意しておきたいポイントだ。


左が新作、右は元となったオリジナルだ。並べて見比べると違いがよくわかる。Photo by Yuki Matsumoto

 オリジナルのケース径が35mmであるのに対して、新作は38mmだ。ヴィンテージ好きからはオリジナルと同サイズにして欲しいという声が聞こえてきそうだが、筆者が新作でもっとも感心したのは、その優れたバランスである。確かに3mmほど径が大きくなっているため、手首に乗せると新作のほうが存在を主張する。パッと見のサイズ感はかなり大きくなったが、ラグ・トゥ・ラグは新作が約45mm、オリジナルは約43mmで、ケース厚は前者が約12.3mm、後者が約10mm(新作のケース厚のみ公式による。それ以外は筆者の計測値)。新作はラグを太く短くすることで、オリジナル全体のサイズ感から逸脱しないように配慮されている。

 また、どちらも手首に巻いてみたが、重量バランスがほぼ同じだったのも感心したところだ。これは筆者の私感だが、オリジナルはクローズドケースバックであるのに対して、新作では重いサファイアクリスタルのシースルーバックとすることで手首側の重量が増して時計の重心を下げ、フィット感を高めているように感じた。本作で採用されているシースルーバックは単にムーブメントを見せるというだけでなく、フィット感を高めるのにも効果的で意味のある仕様なのだと思う。


Photo by Masaharu Wada

 ちなみにシャンパンとブラックダイヤルは下地の仕上げが見えないマットな質感だが、これも針とインデックスの存在感を強調し、視認性を高めているようだ。なお、アンスラサイトダイヤルはオリジナルのような下地のサーキュラー装飾が感じられる質感を持つため、オリジナルの雰囲気が好みに近いならアンスラサイトダイヤルをおすすめしておく。

ADVERTISEMENT

基本情報
ブランド: ロンジン(Longines)
モデル名: コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブ(Conquest Heritage Central Power Reserve)
型番:L1.648.4.78.2(シャンパン)、L1.648.4.62.2(アンスラサイト)、L1.648.4.52.2(ブラック)

直径: 38mm
厚さ: 約12.3mm
ケース素材: SS
文字盤色: シャンパン(L1.648.4.78.2)、アンスラサイト(L1.648.4.62.2)、ブラック(L1.648.4.52.2)
インデックス: ファセット仕上げの12のアプライドインデックス(L1.648.4.78.2は2Nイエローゴールドカラー、L1.648.4.62.2は5Nローズゴールドカラー、L1.648.4.52.2はシルバーカラー)
夜光: 時・分針、3・6・9時位置にスーパールミノバ®
防水性能: 5気圧
ストラップ/ブレスレット: SS製バックル、L1.648.4.78.2とL1.648.4.52.2はブラックアリゲーター、L1.648.4.62.2はグレーアリゲーターストラップ

ムーブメント情報
キャリバー: L896.5(ロンジン エクスクルーシブ)
機能: 時・分表示、センターセコンド表示、12時位置に台形型の日付表示、ダイヤルセンターに2枚の回転ディスクによるパワーリザーブインジケーター
パワーリザーブ: 約72時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万5200振動/時
石数: 21
クロノメーター認定: なし
追加情報: シリコン製ひげゼンマイ採用

価格 & 発売時期
価格: 59万5100円(税込)

時計市場で注目すべき(予測ではない)4つのこと。

ご心配なく。これはまたそれと異なる予測記事ではないし、いかに小振りな時計が“流行”しているかについて話すつもりもない。2月中旬なんて予測の期限を過ぎているし、そもそも予測を立てること自体あまり好きではない。その代わりに、2024年がおよそ2カ月終わった今、すでに起こっていることと、そして今年中に見られるかもしれないほかのことについて話をしよう。

小振りな時計のトレンドは少し誇張されているように感じるが、ドレッシーなものや金無垢への関心が続いているのは事実かもしれない。スティールウォッチに対する純粋な関心、少なくとも、いいものへの純粋な関心はどこにも消えてはいない。あくまでも該当するのは投機的なものだ。

 その一方で、2024年に期待することについて尋ねると、 人々が口にしたのは“拡大していく”というワードだった。

 最近、GQ誌が数字を分析したところ、実際には時計のサイズは小さくなっていないと指摘した(そのように感じるかもしれないが)。各ブランドはより多くの小ぶり時計をリリースしているが、それらのリリースは既存のカタログの延長線上に過ぎない。チューダーは37mmのブラックベイ54を投入したかもしれないが、より大型のブラックベイはどこにも行かないだろう。

 ブランドは、コレクターがまさにそれを求めていることを認識して、提供するラインナップを広げている。しかし、これはサイズだけにとどまらない。スポーツウォッチの覇権を握る時代は終わった。コレクターはあらゆる収集における種類のコーナーを発見(または再発見)している。カルティエやピアジェだけでなく、もっと小さくてドレッシーなものまでだ。

iwc cloissone enamel dial
もうひとつのエナメル文字盤について、私は考えすぎてしまう。写真は昨年12月に開催されたクリスティーズにて、2万7720ドル(日本円で約420万円)で落札された、美しいクロワゾネエナメル文字盤のIWC。

 このような嗜好の広がりは2024年も続くだろう。2020年や2014年と比べて、時計に関心を持つ人は非常に増え、あらゆる観点から時計に注目している。

 大衆の意識を捉えてしまうほどのニッチさを予測できるほど大胆ではないため、私が興味を抱いているものをいくつか紹介しよう。これらに交渉の余地はない。ジャガー・ルクルトからアメリカンウォッチブランド(エルジン、ハミルトン)まで、アール・デコ全般。そしてエナメル文字盤だ。昨年、サンドロ・フラティーニ(Sandro Fratini)氏のエナメルコレクションのごく一部を見たと書いたが、今でも毎日のように考えている。ほとんどの場合、私は時計を“芸術”だと思っていないが、エナメル文字盤は例外だ。そして最後にジョン・リアドン(John Reardon)氏が何年も前から話している、パテックのエリプスだ。

勝者と敗者
vacheron 222 gold diamonds
 市場に“調整”があったとはいえ、これは単にパンデミック前の水準と成長率に戻ったことを意味する。オークショナーのフィリップスは、これを説明するためにいくつかの数字を示した。

 時計オークション全体で、フィリップスの2019年の登録パドル(入札者)は8097本だった。さらに2023年には1万3747パドルと、70%増加した。一方でフィリップスでの購入者の平均年齢は、同じ期間で集計したところ57歳から50歳にまで減少している。時計は成長を続けるが、どんどん若返っているのだ。2023年のオークションは2022年に比べて若干減少したものの、長期的な傾向では依然として上向きだ。

 しかし、だからといって価格が同じ方向に向かっているわけではない。

breguet chronograph
ブレゲやブランパンなどのブランドによる90年代の複雑時計製造には、未だわくわくさせられるものがある。

 モルガン・スタンレーがWatchChartsと共同で毎月発表している時計市場に関する最新レポートによると、2024年第4四半期の流通市場での価格は7四半期連続で低下した。

 レポートは、“流通市場への価格圧力はあと6カ月続く可能性がある”とし、平均在庫年数を引き合いに出している。これは一部のディーラーが、古い在庫の損失計上をまだ控えていることを示唆している。これにより、少なくとも2024年前半は価格が下落し続ける可能性があるのだ。

 地球上で最も有名な人物が、文字どおり首に時計を巻いているのだから、時計への関心はどこにも行かないような気がする。そして価格は下がり続けており、おそらく今年のどこかの時点で底を打つだろうから、それは時計に興味のある人にさらなる購入機会を提供することになるかもしれない。

cartier bamboo coussin
見苦しいと思うかもしれないが、カルティエ バンブー クッションは明らかに勝者である。この例は最近、LoupeThisで6万7000ドル(日本円で約1005万円)で落札された。

longines 13zn
一方でスペシャルなロンジンへの関心も依然として高い。この13ZNは今週、小さなオークションハウスにて、3万6000ドル(日本円で約540万円)で落札されている。Image: Rich Fordon

 ちなみに価格は全面的に下がっているというわけではない。特別な時計にはまだまだスペシャルな価格がついている。以下一例だ。

1991年製のカルティエ パリ クラッシュが先週、15万2800ユーロ(日本円で約2475万円)で落札。ピーク時より下がったものの、それでも非常に好調な結果だ。
ロンジン 13ZN “ドッピア・ランチェッタ”が小さなオークションハウスにて3万6000ドル(日本円で約540万円)で落札され、話題を呼んだ。
別のカルティエ “バンブー”は6万7100ドル(日本円で約1005万円)で販売された。
Artcurialが2024年に初めて販売した時計は、ネオヴィンテージのブレゲとブランパン(パテックとロレックスも)を中心に、ほぼ全面的に好調な結果を収めた。
 しかしすべてが右肩上がりなわけではない。これらのオークションの結果を見てみると、不振の時計も目につく。準備期間中、買い手は時計を買う理由を探した。しかし不確定要素が多いために、コレクターたちは時計を買わない理由も探している。それはコンディション、価格、または単に雰囲気が悪いだけであったりだ。

“今は普通のSS製デイトジャストを手放すことはできない”というのが、私が話を聞いた人たちの共通の意見だった。今、時計を売るのは誰にとっても簡単なことではない。一般的な量産モデルの場合は特にだ。

 全面的に、この二極化は続くだろう。大手ブランドは今後も成長を続け、最も重要なモデルの需要が増加する。同じことが大手独立時計メーカーにも起こり、残りのメーカーは遅れを取るだろう。

再三にわたり話題に上るオメガについて
vintage omega speedmaster
ヴィンテージオメガ、あなたがいなくて寂しいよ!

 昨年、オークションの世界ではあまりにも多くの論争が起きたが、最大の論争は、フィリップスが販売しレコードを樹立したトロピカルオメガ スピードマスターがフランケンウォッチであったと判明したことだ。それ以来、スピードマスター市場は生命維持装置につながれている。時計オークション史上最大の論争を呼んだ1本が市場を冷え込ませたのだ。オークションハウスがリスクを冒してスピードマスターを出品しても、多くの場合、売れ行きが悪かったり売れなかったりする。

 これは完全に理解できるが、オメガの話をするのがちょっと恋しい。ヴィンテージスピーディ、そしてより広い意味でのヴィンテージオメガの時計は本当に素晴らしいのだ。そのカタログも実に多彩だ。スピーディからシーマスター、コンステレーション、30T2まで、あらゆるタイプのコレクターが楽しめる。

 2024年、私たちは再びオメガについて語るだろう。同ブランドのヴィンテージカタログが永遠に無視されるには、あまりにも素晴らしいものばかりなのだ。

ガラスの国のアリス

 最後に、これは予測というより希望に近い。ジャーナリストのクリス・ホール(Chris Hall)氏は最近、現代のブランドがもっとうまくやれる分野として“透明性”を挙げた。私の希望は、ディーラーやオークションハウスもこのことに着目することだ。

 昨年のオークション論争の多くは透明性を高めることで解決できたか、少なくとも緩和はできたはずだ。より優れた状態のレポート、財務上の利害関係の明確な開示など。

 一方でもし2024年、あなたが自尊心の高い時計ディーラーならウェブサイトに自分の名前、それと理想であれば写真も載せた、シンプルな“アバウト”ページの開設を求めるのは高望みだろうか? 私はしばしば、操作の背後にいる実際の人間を把握するために、P.I.(計画・実施の過程に関係する利用者に情報を公開したうえで、広く意見を求めてそれを反映する役割)を演じていることに気づく。

 また、Instagramが素晴らしいのは知っているが、ディーラーの販売やリスティングの歴史的なアーカイブもあれば、物事が横道に逸れても(また実際にそうなるのだが)、実際に記録が残るからいい。最後に、あまりにも多くのディーラーが“コレクター”を装っている。私たちは皆、時計が大好きで、情熱と職業のあいだに線を引くのが難しいことも理解している。時計を売買してお金を稼ぐのは構わないが、正直に言って欲しい。たくさんやって利益を出そうとしているのであれば、コミュニティに対して透明性を持つべきだ。なぜなら、そうすることで別の義務や期待が生じるからである。

カルティエはアイコニックな(と、本気で言っている)パンテール ドゥ カルティエを再リリースした。

告白しなければならないことがある。女性用の時計は小さすぎると文句を言い、36mmはどんな女性にもぴったりのサイズだと主張してきたわたし、カーラ・バレットは、小さな時計への愛を再発見した。わかっている、偽善だってことは! しかしファッションやスタイルとはそういうものだ。波はあるし流れもある。それは時計も例外ではない。この小振りウォッチへの新たな関心について言えば、原因がひとつある。それは新しいパンテール ドゥ カルティエだ。

パンテール ドゥ カルティエの新作トリオ。左からツートンのスモール、スティールのミディアム、ローズゴールドのミディアム。

 この1月(2017年1月)に、カルティエはアイコニックな(と、本気で言っている)パンテール ドゥ カルティエを再リリースした。この時計は、1980年代の名だたる顧客に向けて販売されていたマスト ドゥ カルティエ時代に初めて発表されたもので、それ以来、常に定番ラインとして位置付けられている。この新しいバージョンを見たとき、わたしはすぐにこの時計を理解し、一刻も早く手首につけてレビューしなければならないと思った。

ちょっとした歴史
 タンクと違い、パンテールの知名度はそれほど高くない。華やかな全盛期である1983年に初めて発表されたパンテールは、その洗練されたデザイン、隠しクラスプ、連結されたリンクブレスレットが賞賛された。そして、男女問わず名だたるセレブリティのあいだで瞬く間に大ヒットし、その著名なオーナーのなかにはピアース・ブロスナン(Pierce Brosnan)やキース・リチャーズ(Keith Richards)などのセレブもいた(下のブロスナンの写真が好きでたまらない)。スタジオ54が街で最もホットなナイトクラブであり、華やかさがすべてだった時代に、この時計がヒットしたのも当然だろう。

 このような時計の影響を十分に理解するためには、当時の状況を知ることが重要である。1964年にピエール・カルティエ(Pierre Cartier)が亡くなったあと、彼の2人の子どもと甥が家業の売却に乗り出した。その結果、会社はカルティエ・ニューヨーク、カルティエ・パリ、カルティエ・ロンドンの3つの半独立企業へと分割され、それぞれが異なる時期に異なる製品を生産するようになる。これによりブランド戦略にばらつきが生まれ、それぞれの拠点が独自性を発揮できるようになった。その一例として、カルティエ・ニューヨークが1971年に金メッキのSS製タンクを150ドル(当時の相場で約5万3000円)で販売し始めた。当時としては前代未聞のことであり、多くの長年の愛用者の目にはブランドイメージを大きく損なうものに映った。

ADVERTISEMENT

pierce brosnan watch
パンテール ドゥ カルティエを着用するピアース・ブロスナン。Photo: courtesy of Revolution

keith richards and mick jagger watches
パンテール ドゥ カルティエを着用したキース・リチャーズ。奥にいるのはミック・ジャガー(Mick Jagger)。Photo: courtesy of Revolution)

 当時、カルティエは究極のラグジュアリーブランドであり、1970年代までは超高級品かつ天文学的な価格で、非常に高品質なものを製造していたと覚えておく必要がある(例えばミステリークロック、個性的なシャッターウォッチ、華麗なシガレットケースなどを手がけていた)。そのため金メッキの時計を売ることは、たとえその時計が商業的にかなりうまくいったとしても冒涜的な行為であった。イメージは損なわれたものの、カルティエが投資家グループに買収されたあと、この安価な時計のアイデアは、1977年のマスト ドゥ カルティエ コレクションにつながった。同コレクションはジョゼフ・カヌイ(Joseph Kanoui、投資家グループを集めてカルティエ・パリを買収した)、アラン・ドミニク・ペラン(Alain Dominique Perrin)、ロベルト・ホック(Robert Hocq)の発案によるものである。コレクションはさまざまなシェイプで展開され、また金メッキされたシルバーで生産されていたため、よりリーズナブルな価格設定を実現していた。それはブランドを再構築し、より幅広いユーザーにアピールするための方法であり(今日、モンブランやタグ・ホイヤーがスマートウォッチを製造しているように)、そしてクォーツムーブメントが登場したことで、それはより一層身近なものになった。

panthere de cartier medium steel
SS製で、独特のねじ込み式ベゼルを備えたミディアムサイズのパンテール ドゥ カルティエ。

 ではこれがパンテールと何の関係があるのか? 念のため言っておくと、パンテールはマスト ドゥ カルティエのコレクションには含まれていない。だからこそ、特定の顧客層には大ヒットしたのだろう。さらに、当時は市場に出回る新鮮なデザインがそれほど多くなかったため、パンテールはさらに魅力的に映ったのだ。しかし1983年にパンテール発表というタイミングで最も興味深いのは、シンプルなレディスウォッチでありながら、手頃な価格の時計が増えつつあった時代にカルティエがリリースしたものであり、世界市場で足場を取り戻そうとしているヘリテージメゾンにとっては救世主的なコレクションだったに違いないということだ。ミニサイズ、スモールサイズ、ミィデアムサイズ、ラージサイズが用意され、ツートン、イエローゴールドカラー(1991年にはSSモデルも登場している)が発売された。しかしパンテールは2000年代初頭に姿を消し、カルティエのラインナップに穴を開けたまま現在に至っていた。

新しいパンテール
 パンテールは、初代サントスをベースにしたかのようなレディスウォッチだが、カルティエはそのような説明は一切していない。ただサントスと同じようなスクエアケースに、8本の小さなネジで固定されたベゼルが特徴だ。クラシカルなフラットホワイトの文字盤に細長いローマ数字、そして10時の“X”には秘密の“カルティエ”シグネチャーをあしらっている。

 デザインは大胆だが控えめであり、実用的である。これが成功の秘訣であり、多くの人を魅了する理由なのだ。サイズはスモールサイズ(22mm)とミディアム(27mm)があり、RG、YG、SS、ツートンカラーで展開。ほかにもブラックラッカー仕上げのリンクがついたものなど、いくつかのバージョンがあるが、それらはハイジュエリーの領域に入っている。今回のレビューでは、SSのミディアムサイズに焦点を当てているが、わたしにとっては最高の普段使いの選択のように思う。

cartier panther steel watch
クラシカルなホワイト ダイヤルには、10時位置の“X”に隠れたシグネチャーをはじめ、カルティエに求められる小さなデザイン上の工夫が随所に施されている。

 これは一般的なスクエアケースに見えるかもしれないが、そうではない。スクエアウォッチはニッチな層しか魅力を感じないことが多いが、パンテールはそのデザインの複雑さと精巧さによって、より普遍的な魅力を演出している。特に湾曲したエッジと、すぐにそれとわかるねじ込み式ベゼルは、この時計を際立たせているものだ。

 ダイヤルは角が丸みを帯びたSS製スクエアベゼルで囲まれており、先ほど述べたように8本のネジで固定されている(裏蓋にも同じものがある)。ケースデザインで興味深いのは、カーブしたラグとリューズガードである。どちらも見た目は流動的で、取るに足らないものに感じるかもしれないが、時計全体のデザインを引き立てている。これらがなければ躍動感はまったく感じないだろう。

cartier caseback
パンテール ドゥ カルティエの裏蓋には、ベゼルと同様に8本のネジを配している。

 この時計で2番目に重要なのがブレスレットだ。このブレスレットが発売された当初、人々は汎用性と、その洗練された外観を称賛した。サテン仕上げの大きなセンターリンクを持つパンテールのブレスレットは、工業的な雰囲気を持つタンクのブレスレットと異なり、小さなレンガのようなリンクでつながれている。これらはレンガパターンに配置され、リンクの上部と下部で内部的に互いに取り付けられている。さらに重量が軽減されたリンク自体がカーブしているため、より多くの動きが可能になり、快適に着用できるようになっているのだ。

panther cartier steel on the wrist
SS製のミディアムサイズのパンテール ドゥ カルティエは、しなやかかつ軽量なブレスレットのおかげもあり、常に優れたつけ心地を提供している。

 この時計にはカルティエの定番のクォーツムーブメントを採用している。同社はコストを抑え、コレクションを可能な限り入手しやすく、商業的に成り立つものにしたいと考えていた可能性が高いため、この選択はわたしにとって驚きではない。覚えておいてほしいのは、わたしたちが話しているのはニッチな製品ではないということだ。そのためこの時計がクォーツであることは少しも気にならない。高級時計はこの時計が目指すものではないし、この時計がそうでないと装ってはいないことを高く評価したい。

手首の上で過ごしてみて
 パンテールで最も気に入っているのは、かっちりとした装いの女子大生にも、流行に敏感なファッショニスタにも同じように似合うことだ。誰にでも着こなせるタイムレスな品質で、さまざまな素材とサイズで展開されている。どんなにシンプルに見えても、この時計を自分だけのものにすることができるのだ。

 わたしのお気に入りは一辺が27mm径の、SS製のミディアムサイズだ。RGも美しいが、SSのほうが汎用性が高く、カルティエの最も人気のあるモデルになりそうだ。価格は4600ドル(編注:当時の販売価格は税込で51万300円)と、カルティエウォッチのなかでは低価格帯の部類に入る。

cartier de panthere on the wrist
ミディアムサイズのSS製パンテール ドゥ カルティエは、合わせるものによってカジュアルにもドレッシーにもなる。

 手首に巻いた感触は最高だった。それほどシンプルだということだ。スポーティで洗練されており、エレガントで着用しやすい。これをつけてテニスをしたり(そうできるよう心の準備をしている。このような時計はそう扱うべきだ)、あるいはあまり招待されないブラックタイのガラパーティに出席したりする自分が目に浮かぶ(メットガラ、君のことだ)。この時計と一緒にいる時間が長くなればなるほど、当初発表されたときに人気を集めていた理由がわかった。

Panthère de Cartier steel
リューズのサファイアカボション、先の尖ったリューズガード、ケースのカーブなど、ちょっとしたディテールがこの時計の特徴である。

 先ほども言ったように、ブレスレットがこの時計の魅力の50%を占めている。見た目ももちろん素晴らしいが、つけやすさも重要である。リンクがどのように配置され、またどう相互に接続されているかによって、ブレスレットは手首を挟むことなくフィットし、さらにクラスプの近くにあるスクリューネジでリンクを簡単に調整できる。デプロワイヤントクラスプはオリジナル同様見えないようになっており、片手で簡単に外すことができる。唯一の不満は、ブレスレットのエンドリンクがラグの端ではなくケースに接続されていることだ。これによりラグがほんの少しはみ出し、奇妙な出っ張りができることもあるが、たいしたことではない。

panthere de cartier up close
ダイナミックなSS製ケースとクラシックな文字盤をクローズアップ。細部にまでこだわりが感じられる。

競合モデル
 では、SS製のパンテール ドゥ カルティエに対抗できる時計は、ほかにどんなものがあるだろうか。いくつか候補がある。一番わかりやすいのはカルティエ タンク フランセーズだろう。

large cartier tank francaise
SS製のカルティエ タンク フランセーズ ラージ。

 タンク フランセーズも、ブレスレットが付いたカルティエのスクエア(のような)型SS製ウォッチという意味で似ている。その美しさは熟練された目には審美的にまったく異なるかもしれないが(サテン仕上げ、重厚感のあるブレスレット、レクタンギュラーケースなど)、明らかに同じ系統のものである。しかし、これらの時計は主に審美的な理由で人々に販売されており、その点では、誰かがどちらか一方を望む例がたくさんある。手首につけてみると、タンクとパンテールはまったく違って見え、後者のほうがずっと女性らしい。なお、ミディアムサイズのSS製タンクの価格は3750ドル(当時の相場で約40万7000円)で、同等のパンテールは4600ドルだ。結局のところ、これは個人のスタイル(それと850ドル)にかかっているということだ。

rolex oyster perpetual 36mm
ロレックス オイスターパーペチュアル 36mm。

 市場に出回っていて、パンテールに対抗できるもひとつの時計は36mmのロレックス オイスターパーペチュアルだ。オイスターパーペチュアルはパンテールよりもはるかにスポーティで、価格も5400ドル(当時の相場で約58万7000円)と高いが、SS製ブレスレットが付いたデイリーウォッチとして、役割を簡単に果たすことができるだろう。この時計はまた、自動巻きムーブメントとロレックスの名前の両方をもたらすが、どちらも特定の顧客にとっては明らかに状況を一変させるものだ。

rolex lady datejust
SS製のロレックス レディデイトジャスト 28mm。

 よりいい比較は、2017年のバーゼルワールドにて、3つの新しいバージョンで再発表されたSS製レディデイトジャスト 28mmかもしれない。ピンク文字盤とローマ数字のSSバージョンは、パンテールの繊細な女性らしさに近づくかもしれないが、これもまたカルティエ特有の美学とはかけ離れている。希望小売価格は6300ドル(当時の相場で約68万5000円)と、価格帯も高めだ。

 これらの比較が少し異例で、直接競合しているように感じられないとしたら、それは本当に競合するものが何もないからである。SS製のパンテールはほかでは見られないカルティエのスタイルがすべて詰まっている。正直に言うと、カルティエの時計が欲しい人のほとんどは、カルティエの時計だけが欲しいのだ。人々が購入しようとしているのはスタイル、ブランド、そして歴史なので、ほかのものでは満足できない可能性が高い。

ノダス×レイブンのリーズナブルなGMTウォッチの新作情報です。

これは志を同じくする2つのアメリカンブティックブランドがコラボレートした、お得感満載のフライヤーGMTだ。
 

ご存じだろうか? カリフォルニア発のノダス(Nodus)ウォッチとカンザス発のレイブン(Raven)ウォッチというふたつのスポーツウォッチ専門ブランドとのコラボレーションにより、手頃なトラベルウォッチカテゴリーにまた新たな時計が加わったことを。そこで僕、ジェームズ・“GMT”・ステイシーが、その優れたエントリーモデルについて紹介しよう。結果、ノダスのコントレイルコレクションと、レイブンのトレッカーコレクションから大きなインスピレーションを得て、各ブランドのコアラインナップの要素を組み合わせた時計が誕生した。このふたつのフォーマットは、カリフォルニアを目指して西に向かったアメリカの探検家たちに敬意を表した、超絶マットなトラベルウォッチに仕上げられている。スーパーコピー 激安その名もノダス トレイルトレッカーだ。

 トレイルトレッカーの大まかな特徴から述べると、直径39.5mm、厚さ11.8mm、ラグからラグまで46.6mmのスティール製ウォッチである。200mの防水性、ドリルラグ、サファイア風防、そして堅牢なSS製ソリッドバックを備えたこの製品は、ツータイムゾーンを管理できるアドベンチャーウォッチというロレックスの考えからインスピレーションを得ていることは明白だ。

 定評ある既存のプロポーション、そしてベゼルのデザインからの逸脱は、本モデルにマットなグレートーンのDLC仕上げを全面的に採用しているところにある。この加工により、ケースと付属のSSブレスレットの両方が保護・彩色されるのだ。さらに24時間表示の固定ベゼルには、セラコートセラミックコーティングが施されている。カラーリングは非常にフラットな深みのあるグレーで、ノダスが“クレイ”と呼ぶ、砂のようなブラウンのカラーリングがほんの少しだけ含まれている。同処理は時計を手首につけた際、チタンを誇張したような(この時計には基本的に光沢がまったくない)独特の体験をもたらすほか、視認性の高い文字盤デザインのための土台を形成している。
 僕は過去に、ダイバーズウォッチであるトレッカーコレクションをはじめ、レイブンのスポーツウォッチと長く過ごしていたことがある。彼らは過去10年間にわたって、“マイクロブランド”の概念を確立するのに貢献した時計を提供し続けており、僕は今でもこのブランドのファンであり続けている。数年前、マイクロブランド(もしかしたら“ブティック”ブランドという表現がぴったりかもしれない)の世界の変化を考察するために、このブランドを取り上げたことさえある。

レイブン トレッカー 39。
 一方ノダスについてだが、僕は過去数年間にわたってこのブランドを追跡してきた。以前のミートアップやWindUpでかなりの数を見かけたが、このブランドの時計を扱った経験はほとんどない。とはいえノダスは、“The Smoking Tire”や“Random Rob”、また“Watch Clicker”といった、熱狂的なファンとコラボレーションをして、適正な価格かつ楽しい時計を製造し、ファンを獲得してきた。
 レイブンと同じように、ブティックブランドの時計を好む方に向けて、ノダスは500ドルから1000ドル(日本円で約7万4000~14万8000円)のカテゴリーにしっかりと位置しながら、デザインとカラーバリエーションを豊富に展開しているとお伝えしておこう。両ブランドとも、おもしろくなりそうなコラボレーションに積極的であり、価値ある製品に注力し続けているため、今後も視野に入れておくメリットはあると言える。

 トレイルトレッカーの話に戻るが、この時計の内部には人気上昇中のミヨタ 9075を搭載している。これは振動数2万8800振動/時の自動巻きムーブメントで、ローカル(メイン)時針を単独セットすると時計の精度や計時を妨げることなく、新しいタイムゾーンにアップデートができる。このムーブメントはシチズングループ傘下のミヨタで作られたもので、シチズン シリーズエイト GMT(税込で22万円)を筆頭に、ブローバ オーシャノグラファー GMT(1295ドル~、日本円で約19万1000円)、ロリエ ヒュドラ SIII(599ドル、日本円で約8万9000円)、そしてヴェアー、リップ、ボルダー、トラスカといったブランドの選択肢(ほんの一部)など、最近エントリーGMT市場に参入したいくつかのブランドで採用されている。
 そんななか、ノダスはその9075を進化させ、ムーブメントを社内で調整し、日差±8秒を実現させた。自宅にタイミングマシンがあるので、受け取ったサンプルで数値を試してみようと思ったのだが、時計を完全に巻いた状態で6つの姿勢位置で計測したところ、平均で日差+7秒だった。悪くない結果だ。

 固定式ベゼルを持つトレイルトレッカーは、ロレックス エクスプローラーII(特に16570だろう)からインスピレーションを得ていることが明らかで、9075に派生した機能性が反映されている。つまりツータイムゾーンを追跡するのに最適なレイアウトと、特定のタイムゾーンから別のタイムゾーンに変更するための特別な機能を備えているのだ。回転ベゼルが、GMTの使い道をどう向上させてくれるのか、詳しく知りたい方はGMTベゼルの使用方法に関するこのガイドを参照して欲しい。トレイルトレッカーのベゼルは回転しないので、機能はこれ以上ないほどわかりやすく、旅行に焦点を当てたこのモデルは、6時位置の日付表示によってその機能を補完している(9075のおかげで、ローカル時針に連動して両方向に調整可能だ)。
 ケースデザインは滑らかで、柔らかなファセットのラグ、突出したリューズガード、ローレット加工をしたブラックリューズを備えている。短いドリルラグは、工具不要なクイックレバーのバネ棒を備えた、隙間のないしっかりとしたエンドリンクを介してブレスレットとつながっている。ブレスレットリンクは細く、快適に着用できるよう連結部分が柔軟で、さらに片側ネジ式(ブレスレットのサイズ調整が非常に簡単にできる)となっている。ラグ幅20mm、クラスプ16mmとテーパーがかったソリッドSSにセットされたクラスプには、プッシュボタン式のクロージャー(留め具)と、NodeXと呼ばれる、完全統合された工具不要のマイクロアジャストシステムを搭載している。

ノダスが開発したNodeXというマイクロアジャストシステムのボタン。その左側に延長できるパーツ部分が見える。
 このシステムはノダス独自のものだが、ほかのブランドへもライセンス提供が可能である。シンプルなボタン操作ながら、クラスプに完全に組み込まれており、10mmの調整が可能なスライド式のエクステンションを解除できる。チューダーのT-Fitシステムよりも使いにくいということはないし、ブレスレットにこの機能を追加してくれるブランドに感謝し続けるのは僕だけではないはずだ。
 僕は何年もブレスレットを避けてきたが、フィット感を細かく調整できるこのコンセプトにより、ブレスレットを身につけるという行為を快適なものにしてくれた。

 少し余談になるが、ブティックブランドは、大規模なブランドでは一般的に不可能な価格とスピード感で真のマニア向け製品を提供して市場を拡大してきたが、これらのブランドが提供する製品が多様化することで、同カテゴリー内でも進化を続けてきた。核となる価値のひとつは、大規模ブランドではしばしば無視される、多くの小さな配慮にある。これはラグに穴をあけたり、ブレスレットに片側ネジを使ったりといった単純なものから、クイックリリースブレスレット、工具を使わないマイクロアジャストシステム、セラコートのような特殊コーティングにまで発展している。



 これらのデザイン要素は、多くのブランドで見られるものではあるが、トレイルトレッカーはその要素を備えるだけでなく、多くの高級SS製スポーツウォッチのブレスレットを買うよりも低価格で提供されている。確かに、これらの要素は平均的な時計購入者にとっては重要ではなく、琴線にも触れないかもしれない。しかしあなたや僕、そして僕たちの(主にオンライン上の)友人といった特定の愛好家にとっては、これらの小さな要素が、ひとつの時計と別の時計を比較検討する際に大きな影響を与える可能性がある。ディテールが重要であり、マイクロ/ブティックブランドの市場が、時計をより使いやすくするための機能を惜しみなく搭載し、価値を提供し続けている姿勢が僕は大好きなのだ。それはさておき、本題に戻ろう。
 手首に装着すると、ノダス トレイルトレッカーはそのプロポーションを最大限に発揮してくれる。比較的軽量でありながら、ノダスの文字やレイブンのロゴが入った視認性の高いマットな仕上がりのダイヤル。そして文字盤の端まで届く、宇宙からでも見えるほど特大なオレンジイエローのGMT針は独特のシェイプを持ち、タクティカルな雰囲気や要素を提供している。

 大型のアプライドインデックスと、それにマッチするサテン仕上げの針を合わせたトレイルトレッカーの夜光には、暗所で青みがかった強い光を放つ、スーパールミノバBGW9を使用。6時位置に配された枠付きの日付表示は、インデックスの代わりとなるよう、ホワイトのデイトホイールにブラックの数字を用い、視認性を高めている。
 僕の7インチ(約17.7cm)の手首に合うサイズのトレイルトレッカーは140gで、特にNodeXのマイクロアジャストシステムのおかげでかなり快適につけられる。フラットリンクと短いラグも、着用時にバランスを保ってくれていた。さらに12時間針と24時間(GMT)針のコントラストにより、タイムゾーンを読み取る際のシンプルさをより高めているのもよかった。

 時計には2つ目のストラップオプションとして、バリスティックファブリックを使用したオリーブグリーンのNATOスタイルストラップが付属している。僕は市場で提供されている、ほとんどのNATO風オプションを試しているが、このストラップと似たようなものに出合ったことがない。柔らかくしなやかでありながら、しっかりとした作りで、カジュアル感がありとてもつけ心地がいいのだ。ノダスとレイブンの完璧なパッケージに加えられた、素晴らしいオプションである。
 結局のところ、前述したロリエと同様に、トレイルトレッカーに関してほとんど不満はない。確かに、個人的にはロレックスを意識していないベゼルデザインを選んで欲しかったが、文字盤のデザインとフルグレーのカラーリングでそのようなつながりを排除しており、もうひとつ似たような別の時計、チューダー ブラックベイ プロ(これもエクスプローラーIIにインスパイアされた時計だ)との距離も置いていると感じる。

 とはいえ定価875ドル(日本円で約12万9000円)のトレイルトレッカーが、ベゼル関連でロレックスに似ているとしても、本当に世も末になるのだろうか? あるいは同じ(少なくとも似ている)ロレックスを連想させるチューダー? いつものように財布事情をベースに投票するのは自分次第だ。しかし僕は16570のエクスプローラーIIを持っていて、似たようなベゼルと見比べたが、それほど気にはならなかった。
 またノダスはロレックスの2倍の防水性能を持ち、チューダーと性能が同等でありながら、それより約3mm薄くなっていることも忘れてはならない(しかも価格は875ドル)。しかもトレイルトレッカーは限定版ではないため、この値段も短期間のみの予約価格ではない。時計は3月15日午前9時(太平表標準時)にノダスを通じて発売される。最近のブティックウォッチにはよくあることだが、生産は数回に分けて計画しているとのこと。これは購入希望者としっかりコミュニケーションが取れていれば、おおむね許容される方法である。

 斬新なムーブメントの利用可能性によって加速するブティックウォッチシーンの現代的な解釈として、トレイルトレッカーはノダスとレイブン、両チームの才能と展望を効果的に表現したプラットフォームだ。
 トレイルトレッカーは文字どおり熱狂的なファン向け製品(つまり超特定の層へと訴えかけるような時計)として、優れたスペック、意味のあるディテール、旅行にも適した機能性、そして希望価格に見合った確かな価値を持つ価格帯のスポーツウォッチが好きな層にアピールする。万人向けの時計か? それは違う。ただそれがマニアの選択の楽しみでもある。この場合、僕は確かに超特定の層のなかにいるし、皆さんの多くも僕と同じだと思う。

バーゼルフェアで3つのプロトタイプ・シンプリシティを発表した。

3本のうち、ふたつはギヨシェダイヤルのホワイトゴールドモデル。ひとつはデュフォー氏本人が個人的に所有し、もうひとつはのちにフィリップ・デュフォーの日本代理店であるシェルマンの、当時の社長だった磯貝吉秀氏に贈られたという。そして残る1本が、ホワイトラッカーダイヤルのピンクゴールドモデルだ。これらの時計(デュフォー氏所有のもの以外)は2000年のバーゼルフェア後、フィリップ・デュフォーの時計を求める顧客に見せるための展示ピースとしてシェルマンに預けられたのだという。オークションに出品されたのは、ホワイトラッカーダイヤルのPGモデルだった。そしてオーナーは、その時計をデュフォー氏本人とシェルマンの許可を得て出品したようだった。

磯貝氏に贈られたという、もうひとつのプロトタイプ・シンプリシティはいまも彼が所有していた。別件で磯貝氏にコントタクトを取る最中、筆者は彼が所有するというプロトタイプ・シンプリシティを見せてもらう機会を得た。時計はもちろん素晴らしいものであったが、それ以上に興味深いこの時計にまつわるバックストーリーを知ることができた。

「コロナ禍もあって僕が仙人みたいな生活をしているあいだに、あのプロトタイプのシンプリシティはそんなことになっていたんですね」

ご存じの方も少なくないと思うが、磯貝氏は2018年にシェルマンの代表取締役を退任した。その後はどうやら時計業界とは積極的に関わることなく過ごしていたらしく、プロトタイプ・シンプリシティのひとつがオークションに出品されていたことは今回の取材があるまで知らなかったようだ。そもそも2本のプロトタイプ・シンプリシティはどのような経緯で磯貝氏に、シェルマンに贈られたのだろうか。彼は快くその詳細を語ってくれたが、その全貌を知るには、デュフォー氏と磯貝氏の関係についても少し知っておく必要がある。

時計師たちが嬉々としてこだわりの時計を作り発表していたアカデミー黎明期
 1980年代終わり頃からバーゼルフェアを訪れるようになった磯貝氏は、当時スヴェン・アンデルセン、フォルジェという独立時計師ブランドを扱っていた関係で、1987年から出展していた独立時計師アカデミー(通称はアカデミー。1985年に設立)のブースへも当初から通っていた。当時の独立時計師たちの評価はいまとは異なるもので、それほど注目されることもなく、メインホールから離れた倉庫のような会場(ホール5)の片隅で自身のこだわり満載の作品をひっそりと展示・発表しているような状況だったという。

 1990年代になると、日本では時計ブームが起こり時計専門誌が次々に創刊されたが、超絶技巧が光るアカデミーメンバーたちの作品は日本の時計愛好家たちの嗜好にマッチ。アカデミーと懇意にしていた磯貝氏が協力して日本のメディアが取材に訪れ、独立時計師の作品が日本に紹介されるようになり、次第に日本以外でも名声を得るようになっていった。そのなかで磯貝氏と付き合いを深めていった独立時計師のひとりがフィリップ・デュフォー氏だった。

 「グラン&プチソヌリ ミニッツリピーター(1992年発表。83年にデュフォー氏が作り上げた懐中時計版ムーブメントを腕時計サイズに縮小して完成)、デュアリティー(1996年発表)と、ユニークな時計を作っていることはもちろん知っていましたが、実はデュフォーさんとのお付き合いが本格的に始まったのは2000年からでした。その年のバーゼルフェアで新作として発表されたシンプリシティにひと目惚れして、ぜひ取り扱わせて欲しいとオファーをしたのがすべての始まりです。そして会場で展示されていたのが、プロトタイプのシンプリシティでした」(磯貝氏)

 当時のデュフォー氏は孤高の人という印象だったらしく、代理店を望まず、直接エンドユーザーに自身の時計について説明し、本当にその時計を理解できた人にしか売らない、というようなスタンスだったそうだ。デカ厚時計が全盛のなか、34mm(37mmモデルも当初から作られていた)という小さなサイズで、ヴィンテージのパテック フィリップのような最高の職人の手で丹精込めて徹底的に作りこまれた、繊細でありながら力強く美しいシンプリシティに感銘を受けた磯貝氏は、自身の時計に対する考え方や、日本の時計愛好家のことなどさまざまなことを熱心に彼に伝え、デュフォー氏の作品を取り扱わせて欲しいとお願いした。それに対し、デュフォー氏は磯貝氏の考え方を高く評価し、その提案を喜んで受け入れてくれたという。

自身の工房から窓越しに外を眺めた様子を再現したバーゼルフェアでフィリップ・デュフォー氏の展示ブース。2000年。写真は磯貝氏の提供。
 シンプリシティの価格は、当時の価格で3万4000スイスフラン(当時の日本での販売価格は約280万円)。いまの感覚からすると破格の印象だが、当時のデュフォー氏は一部の好事家だけが知るような存在で、しかもシンプリシティに比肩する素晴らしい作りを持つパテック フィリップのRef.3796が100万円前後で手に入った時代だ。シンプリシティに関心を持つ人はいても、その価格に尻込みする人は少なくなかった。

 そんな心配をよそに、2000年10月に当時のシェルマン銀座店を会場に開催されたフィリップ・デュフォーのフェアは大成功。そこにはバーゼルフェアの会場で展示されていた2本のプロトタイプ・シンプリシティが日本へ持ち込まれたが、それを見た多くの時計愛好家たちから好評を得たほか、なかでも意外だったのが時計職人たちまでシンプリシティに惚れ込んでいたということだ。

「フェアも成功して、注文も入りました。対してデュフォーさんは当初、1年かけて50本製作すると言ってくれたのですが、結局10数本しかできなかったんです。彼はこだわりの強い人ですからね。ほとんどの作業を自分でやることにこだわるし、作っているうちにここはこうしたい、ああしたい…となって。そうすると3万4000スイスフランという価格設定では成り立たず価格を上げざるを得なくなったり、最初の3年ほどは赤字で時計づくりも大変だったようでした」(磯貝氏)

 注文数は順調に延びていきビジネスとしては順調だったが、時計づくりのほうはスムーズにいかなかったようだ。シンプリシティは200本(当初は100本、その後追加で100本が製作されることになった)製作したらを販売終了としていたが、最後の時計が製作されたのは2013年。2000年の発表から13年もかかったことは、時計好きの方ならご存じだろう。2005年には予約も埋まり、納品は1年、2年と伸びていき、なんと最終的には8年待ちという状況に。そのあいだも、磯貝氏はデュフォー氏の工房をたびたび訪問して彼の時計づくりの状況を伝えたほか、心待ちにしている顧客のためにデュフォー氏からグリーティングカードを送ってもらえるように依頼するなど、心を砕き苦心したという。

「販売が終了したので本来ならプロトタイプは返却しないといけないわけですけど、それこそ何千人という方に紹介してきた時計ですからね。名残り惜しいというか、思い入れが強くなって返すのが惜しくなってしまったんですよ。そこで彼にプロトタイプを売って欲しいと言ったところ、それまでの僕の活動に感謝を込めてプレゼントするよと。どっちがいいかと彼に言われたんですが、デュフォーさんとお揃いになるねということでギヨシェダイヤルのホワイトゴールドモデルをいただくことにしました。そしてもう一方のピンクゴールドモデルも譲り受け、会社に保管しておくことにしたんです」
 そうして磯貝氏の手にやってきた2本のプロトタイプ・シンプリシティ。実は製品版とは異なるところがいくつか存在していた。もっとも大きな違いはテンプ。製品版はチラネジテンプ仕様だったが、なんとプロトタイプはジャイロマックステンプを載せていたのだ。また、通常はシリアルナンバーが刻印されるプレート部分はプロトタイプでは数字がなく、ブランク状態になっていた。

「時計を譲ってもらう際に、製品版と同じように入れ替えて渡そうかとデュフォーさんから言われたんですが、この時計に思い入れがあるから、そのままでいいと伝えました。ただ、もう13年以上も経っている時計でしたからね。じゃあオーバーホールだけはしておこうかということでデュフォーさんに時計を戻したんですが、そのときにシリアルナンバーが刻印されるプレート部分にホワイトゴールドモデルのほうは“Yoshi”、 ピンクゴールドモデルのほうには“000”と彼自ら刻印してくれたんです」

 そして冒頭のPGモデルのプロトタイプ・シンプリシティである。本来であればこの時計はシェルマンに保管されているべき時計のはずだが、磯貝氏のもとに熱心に通っていたあるコレクターの方にどうしても譲って欲しいと頼まれ根負けし、絶対に手放さないことを条件に譲ることになったのだという。